素人で2本はスゴい。

かなり前のことになるが、数日だけ休みが取れたのでグアムに遊びに行った。ホテルのバルコニーの向こうには芝生の庭が広がり、綺麗な鳥が飛び回っているのが見えた。200mmくらいの望遠レンズを持っていたのでそれをカメラに装着し、バルコニーから眺めた。しかし警戒心の強い鳥たちは近くにやってこない。

そうだ。ナショナルジオグラフィック・チャンネルなどで見るように、カメラはカモフラージュをしないと警戒されるのだ。

頭のいい鳥がいるという話を聞いたことがある。木の上の巣にいるところをベースキャンプのテントから撮ろうとするのだが、テントの中に人がいるのを察知すると、決して巣に寄りつかない。テントから皆が出かけると巣に戻ってくる。

ではカメラマンだけを残して他の人たちが出かけた振りをしようと試みたのだが、テントにいた人数と出て行った人数が合わないことを鳥は知っていたので巣には戻らなかった。ものすごい知能だ。

しかし、人間のカタチに似せたダミーを作って運び出すと、カメラマンが残っているのに警戒心を解いて鳥は巣に戻ったという。まあ結局、鳥はバカだってことだけどな。

という話はさておき、俺も部屋に入り、カーテンの隙間から撮ることにした。ここの鳥はたったそれだけで安心して庭で遊んでいる。バカ鳥だ。バカ鳥の唐揚げだ。俺はつま先立ちのようなおかしな格好で数時間ほど夢中で鳥を撮影し続けた。

帰国して数日してから、膝が痛いのに気がついた。何もしてないのにおかしいなあ。妙に変だなあ。怖いなあ、と思っていたらまったく歩けなくなった。俗にいう、膝に水が溜まった、というあれである。

膝の周囲がソフトボールくらいの大きさに膨らんでいる。曲がらないし、歩こうとすると激痛が走る。変な姿勢をしていたからか。いよいよ我慢できずに病院へ。

医師は吹越満さんタイプだった。俺はそういう症状が初めての経験だったのでビクビクしていたのだが、吹越医師はそのムードを瞬時に察したようで、「あのさ、こんなの、水を抜くだけであっという間に終わりだから」と言う。

「うちはスポーツ選手とかも来るんだよ。彼らはスゴいよ。この注射器、これで水を抜くんだけど、一本半くらい抜けるんだよ。スゴいでしょ」

何がすごいんだかわからないけど、馬用みたいにデカい注射器が怖い。先に針までついてるし。吹越医師は「じゃあ抜くか」と言って俺の膝に針を刺した。思ったほどは痛くないんだけど、隅の方の水を抜くためか、刺したままグリグリと動かす。シリンダーの中に少し血が混ざるのを見ているだけで卒倒しそうになった。

「あれれ」吹越医師がずり落ちてきた眼鏡をクイッとやりながら言った。

医者が患者の前で絶対に言ってはいけないフレーズの第一位は「あれれ」だと思う。

俺は不安になったが、なぜか嬉しそうなトーンで「石田さん、もう一本、これをもう一本頂戴」と言った。居酒屋かと思うような台詞だ。看護師の石田さんが新しい注射器を手渡す。見るとすでに最初のは満タンになっている。「石田さん、これ2本行くよ」「本当ですね。行きますね」石田さんがのぞきこむ。彼らはどういう感情なんだろう。

水を抜き終わると、「ええと、ワタナベさん。素人でフルで2本抜けるっていうのはかなりスゴいことです」と説明された。特に賞金が出るとかではなさそうなので、診察料を払って帰った。

さて結論ですけど、「医者ってなんかちょっと変な人が多いよね」って話でした。ちなみにそれから膝に水が溜まったことは一度もありません。

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