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はじめてのひとりテント旅

人生の転機が、山と深く関わることが多い私。懐メロを聴くと当時の記憶がふっと蘇るように、山旅の写真を見返すと、そのときの感動が呼び起こされるのと同時に、「あぁ、このとき一緒に歩いていた人に、こんなこと言われてケンカしたな」とか、「こんな不安を抱えていたな」とか、そんなことを思い出すことも日常茶飯事。

私がはじめて、ひとりでテント泊に出かけたのは、立山室堂。室堂バスターミナルから1時間ほどでたどり着ける、雷鳥沢にテントを張って、身軽になった体を温泉で癒したり、贅沢スイーツで甘やかしたり。テントでたっぷりと眠った翌日は、剱岳を眺めながら大日三山を歩く。山肌が、赤や黄色に色づく秋の日でした。

そんな旅のはじまりは、室堂行きのバスに乗り込む立山駅。
早朝にも関わらず、私はある人に電話をかけていました。
「一緒に住んでくれませんか?」
突然の告白。はじめて、自分の気持ちを口にした立山駅。
返事は、「ごめん」

はじめてひとりでテントを背負い山を歩く前に、失恋という山がもうひとつ。辛いことがあるときは、無性に山を歩きたくなる。だから、いま、だったのかもしれません。

バスから見えた弥陀ヶ原の湿原、造りものなんじゃないかと思うくらい青空をバックにくっきりと姿を見せる立山三山、山肌の紅葉と透き通った川がテントの中から眺められる特等席、ひとりじゃ食べきれないほど大きなシフォンケーキと水出しアイスコーヒー、白濁したお湯を独り占めした絶景温泉、稜線を歩く私をずっと後ろから見守っていてくれた剱岳、旅の締めくくりをダイナミックかつ繊細な水の流れで祝福してくれた称名滝。ずっと見方をしてくれた天気。

いままでの山旅の中で、3本の指に数えられるほど、充実した素晴らしい旅になりました。

この日、山を歩いていなければ、信じられないほど落ち込んでしまっていたかもしれません。でも、山にいるあいだだけは、日々の暮らしで抱えた頭の中の悩みを、空っぽにできる。何度それに、助けてもらったことでしょう。立山室堂旅でのさまざまな出来事は、私にとって大きなターニングポイントとなりました。

今年の秋、再び立山室堂に行きたいと考えています。今度は、あのとき私を応援してくれた剱岳に、はじめて登りたいなと▲
勇気を出して踏み出した「はじめて」は、次の「はじめて」へ導いてくれる。私にとっての山とはじめて。まだまだ続いていきそうです。

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