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自分で攻略本を作り「エストポリス伝記」のソフトを5本所持していた話

ニーチェが残した言葉にこのようなものがあります。

「There is always some madness in love. But there is also always some reason in madness.」

恋愛の中にある狂気と理性。この言葉が好きな理由は「エストポリス伝記」が好きだからです。

わたしはレトロゲームが大好きで、幼い頃からずっといまも、一世代・二世代以上前のハードを使って遊んでいます。最近はゲームボーイを綺麗に掃除して「カエルの為に鐘は鳴る」をやっていますが、あれも名作ですね。

さて「エストポリス伝記」ですが、1993年6月にタイトーから発売されたスーパーファミコン用ロールプレイングゲームです。バトル曲が名曲であることで名高いシリーズで実は「Ⅱ」のほうが有名なのですが、わたしは「Ⅰ」のほうが好きです。それについては後述します。このソフト、開発はネバーランドカンパニー社が行いました。余談ですがわたしはこの会社が開発したゲームをすべてプレイしておりまして(カオスシードやルーンファクトリーなど非常に良質なソフトが多いです)、一時期は某社で仕様書作成プランナーとして修行しながら、将来はネバーランドカンパニー社の社員になって「エストポリス伝記」シリーズの最終作である「Ⅲ」の制作に携わることが夢だったのですが、残念ながら2013年に事業停止・2014年に破産手続き決定を受けました。当時あまりのショックに塞ぎ込んでしまうほどでした。それだけわたしは「エストポリス伝記」が大好きでした。大好きすぎて、「エストポリス伝記外伝」と称したオリジナルの小説をざっと文庫5冊ぶんほど書きため、独自のシステムを考え、ノート15冊にもわたる仕様書を書いていたぐらいです。そこまで愛していました。

「エストポリス伝記」はカセットをセットし、スイッチを入れるとメイン舞台となる時代の100年前からスタートします。英雄マキシムたち4人が、のちに虚空島戦役と呼ばれる、四狂神たちとの最終決戦に挑むところから始まるため、英雄たちマキシム・セレナ・ガイ・アーティの4人は大変強い状態です。武器防具は最強。持っているアイテムも潤沢で便利なものばかり。虚空島戦役はいわゆるチュートリアルなので、戦闘で負けることはまずありません。特にセレナの雷魔法、レ・ギオンは作中最強の魔法なのですが、放った瞬間の激しい落雷音とグラフィックは圧巻なので、使いまくると爽快感がすごいです。この虚空島戦役をプレイするだけでも十分楽しいのですが、実はこの序盤の100年前の最終決戦、しっかりやりこむことが後々ストーリーを理解する上で重要になってきます。殺戮の女神・エリーヌの台詞をよく覚えておくといいでしょう。

厳かながらひたひたと迫ってくる最終決戦の緊張感がただよう音楽。4連続の四狂神たちとの戦い。英雄マキシムが手にする審判の剣デュアルブレードをもって勝ったかと思えば、セレナが深手を負い、彼女の夫であるマキシムとともに城の中心部に取り残されます。ガイ・アーティはこの勝利を人々に伝えなければならないと、2人を残して城から脱出をはかります。マキシム・セレナは崩壊する城の中、虚空島とともに海へと沈んでいきます。

ここでようやくオープニング曲が流れます。「エストポリス伝記」の始まりです。主人公は100年後の世界の新米兵士。あの英雄マキシムの子孫です。

幼なじみのルフィアとともに平和を満喫するのんびりとした毎日。

けれど英雄の血がそう思わせたのかはわかりませんが、平和すぎてろくに稽古もしない先輩たちに苛立つ主人公。隣の国がなにやら騒がしいという噂を耳にしても騎士兵団は動こうとしません。主人公は胸騒ぎを覚えて単身、調査に乗り出します。そして隣国に渡った主人公は、街を壊滅させ復活した四狂神のひとり、破壊神・ガデスと遭遇することになります。しかし彼の手には四狂神に対抗しうるデュアルブレードはなく傷ひとつ負わせることはできません。殺される――そう思った主人公を救ったのは幼なじみのルフィアでした。主人公を庇う彼女の姿を目にした破壊神・ガデスは、謎の言葉を残して去っていきます。

ざっとこんな物語なのですが、登場人物はさほど多くありません。

パーティも主人公・ルフィア・アグロス・ジュリナの4人でほぼ固定で、それぞれ攻撃・回復などドラゴンクエストのように役割分担がはっきりしています。戦闘もとりあえず各地でちゃんとレベルアップして武器防具を揃えておけばAボタン連打で勝てます。ルフィアに関しては攻撃力が極端に低いのでボス戦ではちょこちょこ魔法を使うことになりますが……。ちなみに主人公はしっかり回復魔法を覚えるので、最悪、主人公を回復役固定にして戦うことも可能です。

このように「エストポリス伝記」の「Ⅰ」はオーソドックスなロールプレイングゲームなのですが、魅力的なのはストーリーです。終盤は怒濤の展開で、主人公があの審判の剣デュアルブレードを手にする前後などは、彼の葛藤が見所となります。

なぜ葛藤するのか。幼なじみのルフィアに秘密があるのです。

いまプレイしてもルフィアの決断、主人公とアグロスが胸ぐらをつかみ合いながら言い合いするシーン、ジュリナの失恋からの献身、すべてが「愛」というひとつの大きなテーマをもって非常に丁寧にストーリーがつくられていることがわかります。無駄な台詞がひとつもありません。些細なやりとりの中にも「愛」があり、キャラたちは互いの「愛」を探り合い、ちょっとだけ素直ではありません。そんな不器用さにクスっと笑ってしまい、ついつい彼らの会話が発生しないかと寄り道をしてしまうことも。

「エストポリス伝記」は愛がテーマの物語です。最後の最後は涙なしではプレイできません。こんな哀しい戦いがあるのかと。100年前のあのときから主人公はこの戦いを運命づけられていたのかと思うと、コントローラーを持つ手が震えて前に進めません。

――思い出はまたつくればいいんですから。

つらい決断を下した主人公でしたが、最後にこんな台詞を言ってエンディングを迎えます。わたしはスタッフロールが流れるあいだじゅう、ずっと泣いていました。ひたすら泣きました。最後のセーブポイントからやり直しても、やっぱり泣いてしまうのです。

わたしは最初にこのゲームをプレイしたとき、雷に打たれたようでした。

いつでもどこでも、この感動を見返せるよう、攻略本が売っていないか懸命に探しました。黒い表紙の攻略本が存在していたが内容に問題があり発売後すぐに回収されてしまったという噂があったり、そもそも存在していないという噂も耳にしました。どちらが本当なのか未だに不明です。情報をお持ちの方がいらっしゃったらぜひ教えてください。

そんなわけでわたしは「エストポリス伝記」の攻略本を持っていません。ですがこれほどの名作。人の記憶というものはどうしても薄れてしまうものですから、どうにか形にして残したい。内蔵電池の消費なども考え、わたしはソフトを4本買い足しました。そして延々と「エストポリス伝記」をプレイし、方眼紙にマップを書き写し、レベルアップするたびに上昇するステータス値を記録し、町で売っている武器防具や道具の値段を記録していきました。3年ちかくかけて毎日毎日「エストポリス伝記」をひたすらプレイし、19回エンディングを迎え、わたしは攻略本を完成させました。巻末にはマキシムたちからアイテムを受け継ぐことができる裏技なども記載しました。

こんな「エストポリス伝記」バカはいないかもしれません。

攻略本までつくって、オリジナル小説までつくって、仕様書までつくって。

「マキシム!」「セレナ!」と演者さんが叫び合う、ファンの間では有名なあのテレビCMが流れたビデオを保存用にDVDに焼いたりもして。(ちなみに番組はクレヨンしんちゃんです)

さらに一番最初のサウンドトラックCD(非売品)が懸賞で当たる雑誌を見つけたわたしは、おこづかいのすべてを使って本屋をまわりまくり、めちゃくちゃ応募して、根性で当てたという「エストポリス伝記」バカっぷり。ちょっとケースにヒビが入ってしまっていますが、いまも持っています。右下にある「非売品」という赤いシールを見るたびに悦に入ります。

「エストポリス伝記」は「Ⅱ」ももちろん名作なので大好きなのですが、あちらは攻略本があるのと、絶賛している方もそこそこいらっしゃるので、わたしの中ではもしかしたら伝説にはならなかったのかもしれません。攻略本が手元にないからこそ、「エストポリス伝記」はわたしの心に焼き付いているのです。

先日、とある作家さんから好きなゲームを尋ねられて迷うことなくわたしは「エストポリス伝記」と答えました。

全三部作として開発されていた「エストポリス伝記」シリーズ、「Ⅲ」が出ることなくネバーランドカンパニー社がなくなってしまったことは未だに悔やまれます。けれどもわたしは諦めていません。「Ⅲ」はきっと出ると信じています。

だっていまもプレイしている「エストポリス伝記」バカがいるんですから。

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