文読堂 天使の梯子

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文読堂 天使の梯子

ふみよみどうてんしのはしご。小説・詩・随筆・エッセイを中心に、あなたの書いた文章を読みます。本気でコメントさせていただきます。ご依頼はTwitter DMまで。

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最近の記事

解散することにしました。

こんばんは。文読堂 天使の梯子です。 タイトルにもある通り、この会を、本日付で解散とすることにいたしました。 サービス発足から4ヶ月が経ち、さまざまな方にご支援いただけましたこと、この場にて深く御礼申し上げます。 今回解散に至った理由といたしましては、メンバーの私生活が多忙になったことにより、時間を捻出するのが難しくなってしまった、というのが挙げられます。 批評をさせていただく中で、自身の創作活動に活かせるような気づきがあったり、またそれゆえの難しさを感じ、悩むことも

    • 【北原白秋『浅草哀歌』】返歌としての幾つかの断章

      北原白秋『浅草哀歌』 ―――――――――――――――――――――――――――――― 齋藤圭介 評   1  文語はもうなくなったわけではないけれども、ほとんどそれはもう幽霊となったに違いない。頼れるのは字面だけで、「浅草」も「仲見世」もどうやら健在だが、その中身はきっと空き箱でしかもぎちぎちに詰まっているかと思えばそれは見せかけで実体は空虚な代物である。  けれども諦めてはいけない。歌うことを。その空き箱の塗りの剥げた外側の世界がある限り、あるいはそれから何かを読み込む

      • 九詰文登『植物人間の救い方』批評

        九詰文登『植物人間の救い方』 yo 評パンデミックにより人々が植物人間となってしまった世界。唯一の生き残りである玲は一人、ただ生きている。そんな世界の中に、いくつもの興味深いテーマが潜んでいるように感じました。 ○ 人類への懐疑と期待 玲はパンデミックのもと、無秩序となった世界では、人は身勝手に行動することを「知って」おり、そのために自ら距離をとりながら自衛してきたところがあります。バイオハザード等の映画・ゲームでそれを知識として知った彼は、その知識を活かしながら力強く独

        • 【文学批評】一人の時間を「読む」人の横顔(yoさん『一人の時間』【お題文学企画「8月32日」】)

          yoさん『一人の時間』 齋藤圭介 評  現実に、夏はもう終わってしまったらしい。それでも8月32日の誤謬世界の旅を、季節を忘れながらもう少し続けてみたい。静花さんの紡ぎ出した物語から「身体性」や「季節感」といったキーワードを抱えながら、「二人の時間」から「一人の時間」へ、わたしはわたし自身を移動させようと思う。重力や時間をある程度は歪ませることのできる、言葉の連なりという転送方法で。どうやら8月32日は、現実よりも長い一日である。  朝。それは当たり前のようにやってくるが

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        • 青空文庫批評
          4本
        • 依頼作品批評
          5本
        • 第2回お題文学投稿企画「8月32日」
          3本
        • 第1回お題文学投稿企画「その日の天使」
          3本

        記事

          【文学批評】この世界にいない「きみ」の言葉にこそ (山口静花さん『8月32日』【お題文学企画「8月32日」】)

          山口静花さん『8月32日』 齋藤圭介 評  X月X日という揺るぎがたいフォーマットがあって、そこに当てはめられるべき数字が当てはめられない場合にはわれわれの文字情報を司る機能は認識のエラーを起こす。それらをすぐさま排除しようとするし、修正しようともする。13月4日も、4月56日も、0月1日も。そしてもちろん、8月32日も。  8月の、32日。さんじゅう、に、にちーーいじらしい「ひっかけ」のために読み取りの速度はコンマ何秒遅れるにしても、二度見するまでもなく不一致の信号は間

          【文学批評】この世界にいない「きみ」の言葉にこそ (山口静花さん『8月32日』【お題文学企画「8月32日」】)

          【江戸川乱歩『人間椅子』】創作と批評の在処

          江戸川乱歩『人間椅子』 ※本作は重大なネタバレを含みます。ご了承ください。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 齋藤圭介 評  『人間椅子』はその題名とは裏腹に時として二足歩行で「ひとりあるき」しながら場合によっては作者名よりも先にいつの間にかフロントで受付もせずに記憶のロビーに忍び込んで、ちょうどそういう待合室で流れているようなどこかで聞いたことのある音楽のような具合で、日本文学の名作とひとつとしてその中身の存知の如何に関わらず多くの人間の

          【江戸川乱歩『人間椅子』】創作と批評の在処

          【江戸川乱歩『人間椅子』】いるの、いないの

          江戸川乱歩『人間椅子』 yo 評※本作は重大なネタバレを含みます。ご了承ください。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 読んで「はー、楽しかった」で終わらせてくれるような作品ではない。ぜひ、『人間椅子』を読まれた方は私が関心を抱いた以下の点について、思い思いの感想をお聞かせ願いたい。 『人間椅子』の薄気味悪さと魅力 いきなりネタバレを含む話をすることをお許し願いたい。 これを読まれた読者諸兄は、1通目の手紙(手紙A)の主人公である私(以降、〈

          【江戸川乱歩『人間椅子』】いるの、いないの

          【江戸川乱歩『人間椅子』】ぞわりとふるわせる。

          江戸川乱歩『人間椅子』山口静花 評※本作は重大なネタバレを含みます。ご了承ください。 ———————— 非常に巧い。巧みな短編だと思います。 読み返すのは2回目ですが、それであっても衝撃を受けることができる。 奥様、という入りで始まる奇妙な手紙は、だんだんと不穏を呼び起こし、読者を引き込んでいきます。 今作の中で、わたしが特に印象に残ったのは、「、」の使い方です。 今作は特に、これがよく使われている。 重厚な、そしてゆっくりとした空気感を漂わせるためなのか、しきりに区切り

          【江戸川乱歩『人間椅子』】ぞわりとふるわせる。

          【文学批評】一歩踏み込む勇気(ていさん『そういう話』【お題文学企画「8月32日」】)

          ていさん『そういう話』yo 評周知の事実を自分だけが知らないという疎外感は、身に覚えのある人も多いのではないだろうか。世界に1人だけしかいないかのような孤独を感じるものである。それも、8月32日の新設などという、国の一大事である。その疎外感たるや非常に大きなものだろう。「誰もが皆そういう話だったじゃないか」と当然のようにふるまう中、自分だけが知らない日がやってくるとき、「私」はどうなってしまうのだろう。いや、どうもならないだろうことがまた寂しく思えるのかもしれない。 「私」

          【文学批評】一歩踏み込む勇気(ていさん『そういう話』【お題文学企画「8月32日」】)

          繊月『その日の天使』【お題文学企画「その日の天使」】

          繊月『その日の天使』 齋藤圭介 評その日の天使がいるならば、情け無い。生活。あるいはあらゆる日常のこそあどに天使を名を持ち出して、これもそれも、あれもどれもにその語彙を湯水の如くに浪費しているのであれば、それはそれで面目ない。詩。あるいはやはり、生活。 かなしみは単純だが、どうやら単純な言葉ほど単純ではない、かなしみがあるらしい。よってそれは詩法であって、詩的な生活によって鍛錬される類の、鉛の、鉄の、木炭の、鋼の、羽根である。それは敏感である。鋭利である。たまにべたべたす

          繊月『その日の天使』【お題文学企画「その日の天使」】

          マッキーカキカキ『童心』【お題文学企画「その日の天使」】

          マッキーカキカキ『童心』 https://mobile.twitter.com/MAKIkakimono/status/1423609603070169089 山口静花 評小説の形をしていながら、中身は詩的であり、自己暗示をかけているようにも取れる文章でした。 僕にとって、あの子は「その日の天使」、どころか、「永遠の天使」であるような気がします。 「あの子」と、少し突き放したような呼称は、終盤、「この子」という呼び名に変わります。 より近しく、その人物を捉えているような印

          マッキーカキカキ『童心』【お題文学企画「その日の天使」】

          Lab『架空の兄と開かれた扉』【お題文学企画「その日の天使」】

          Lab『架空の兄と開かれた扉』 https://twitter.com/00_database/status/1422754907451387905 yo 評神秘的な描写が続き、読みながら現実と幻想の境界が曖昧になります。この曖昧さがより架空の兄の神秘性を増し、夢を見ているかのような浮遊感を読者に与えているのかなと感じます。また、認知的ニッチ、存在論的パラドックスなど、専門的な用語が用いられている点にも、架空の兄の一種の神秘性を際立たせる効果があるように思われます。 宮原

          Lab『架空の兄と開かれた扉』【お題文学企画「その日の天使」】

          三上優記 『さよなら、ビタースイート』批評

          ※本作品には若干の性的表現が含まれます。批評内にはそうした表現は入れておりませんが、作品本編をお読みいただく際はご留意ください。 山口静花 評良いタイトルだなあ、というのが、第一印象でした。読み切った後でもその印象は消えず、ほのかな余韻として、「さよなら、ビタースイート」という言葉は残りました。どこかでやさしさを感じられる、切ない一編に仕上がっています。 特に軽い性描写、官能表現が冴えていて、力が入れられていたように思います。自分を駆り立てる今日が最後という焦燥感、抑えきれ

          三上優記 『さよなら、ビタースイート』批評

          こたつでみかん 『最後の心臓』 批評

          こたつでみかん『最後の心臓』 https://ncode.syosetu.com/n1089gx/ 山口静花 評夢中になって読みました。ぐんぐんと引き込まれる軽やかな文体、および会話の群れ、時折挟まれる情景描写に、熱に浮かされるようにして読み進めていました。最後まで、スッと一本の筋が入っているように軸を持っている印象を受け、きちんと読み通せる流れはできているな、と感じます。 今作品で、わたしが特に魅力を感じたのはキャラクター性、特に主人公である魔女の心理描写や人間らしさを

          こたつでみかん 『最後の心臓』 批評

          高村芳『ショッキングピンクの印』批評

          高村芳『ショッキングピンクの印』 ――――――――――― 今回は辛口コメントをご希望されていますので、少々厳しい表現が出てくるかもしれませんが、ご容赦ください。 ――――――――――― yo 評今回は高村芳さんの『ショッキングピンクの印』という短編を拝読しました。ここで描かれているような「身体的には男性であるが、なぜか男性に目が行き、マニキュアを塗ってもらうことに楽しみを感じている」という状態はトランスジェンダーの特徴と似通っているようにも見受けられますね。しかし、主人公

          高村芳『ショッキングピンクの印』批評

          入間しゅか『馬鹿みたいにお天気』 批評

          入間しゅか『馬鹿みたいにお天気』 山口静花 評彼氏と別れてしまったことの虚無感、やり場のなさを、マッチングアプリで知り合った人が現れないことへのある種の絶望、なんとも言えない居心地の悪さに委託している物語だと読みました。 全体の雰囲気の中で関西弁が冴えており、よく文に馴染んでいて、非常にスムーズに物語に入り込むことができました。 また、やはり女性の主人公を書くのが上手いですね、思考が流れるように適切な言葉たちによって彩られ、論理ではなく感情を灯してくれるような巧みな文章をお

          入間しゅか『馬鹿みたいにお天気』 批評