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喧騒から忘れる。

ふ、と目を覚ますと部屋が暗くて、隣に投げ出されたスマホを見ればもう19時だった。
17時半の定時にPCの電源を切った瞬間後ろのベッドにダイブして、そのまま寝たらしい。

微妙に寝すぎた時の怠さに起き上がることを諦め、ぼーっと天井を眺めていると、今の夕寝の間に夢を見ていたような気がしてくる。
確か、居酒屋で、会社の人たち…? と飲んでいたような、そんな気がする。うん。
もちろんフルリモートで新入社員生活(仮)を2ヶ月を過ごしてきた私は上司の顔なんて見たこともないので、リアルさは全くない夢だったけど。だんだんと迫ってきた出社の日に胃を痛くしていたせいだろうか。

つらつらとそんなことを考えていると、居酒屋の光景には音声が全くなかったことに気づいて、途轍もない違和感におそわれた。

あれ、飲み屋にいるときって、どんな音がしてたっけ。

そういえば、人は、声から忘れていくらしい。確か、別れた恋人のことを何から忘れていくか、みたいな記事で読んだ。最初は声、次は姿、と忘れていって、最後に残るのは匂いなんだとか。
下手をすれば毎日、家族よりも聞いているような音声の記憶から忘れていくって人間はどうなっているんだろう。まあいいのかな。日常に溶け込んでいたものこそ忘れたいだろうし。
確かに、昔の友達の声とか全く覚えてない。まだ飛行機に当たり前に乗れた頃の最後の旅、屋台街のカラフルな景色はパッと思い出せても、喧騒は忘れてしまった気がする。

閑話休題。

とにかく、私はいわゆる居酒屋とかバルとかの喧騒を忘れてしまったらしい。
「ご飯行こう」「遊びに行こう」と言うのは、存外ハードルが高い。挨拶代わりだった時、本当に実現してしまったら地獄を見るからだ。もし実現してしまうなら、飲みにいく方が気が楽だと思う。素面ではないので。

まあ、純粋に、外に飲みに行くのが好きだったんだけど。
大学のこと、昔のこと、人間関係の愚痴や今行きたい場所、もう何度も飽きるほど繰り返した失恋の話や将来の話をつまみに、気の置けない友人とダラダラと話し続けるのがとんでもなく好きだったのだ。

今では懐かしくなってしまった飲み明かす女子会がしたい。騒がしい店内に負けないくらい笑いながら飲むのが最高に楽しい女がいるのだ。

もう、しばらく会っていないけど、元気だろうか。
外出自粛が解かれたら、喜ぶ暇もなく、遠いどこかに飛ばされるらしい。その前に、会えるだろうか。


スマホの表示が20:00に変わるのをを見つめていたら、なんと今考えていた彼女の名前。思わず吹き出した。
「もしもし? ちょっと、聞いて、ありえない。私の異動先さあ……!」


電話越しに散々話して、彼女の笑う声を聞いていたら、なんとなく夢になかった喧騒を思い出したような気がしてきた。これは、また死ぬほど話を聞いて、聞いてもらわなければ。

来週末、久々に会えそうだ。初めて、スーツを着て。


PexelsのThành Longによる写真


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