もういちど、眠りにつく前に

深夜彼が帰ってきた。
ここのところ終電で帰ってくる日が多い。
毎日忙しいようだ。
そばのドアから隣の部屋の光が漏れている。
カレーを食べる皿の音と寝ている私を気遣って音量を下げたテレビのノイズ音も一緒にドアの隙間から漏れている。
私は横になりながらドアを見つめる。

…この風景どこかで見たことがある

ああ、幼い頃仕事で忙しくしていた父が夜中に帰ってきた時のだ。あの頃は今のようにマメに連絡をとり合う時代ではなかったからいつ帰ってくるかわからない父を待つ母はさぞ気が揉んだだろうな。
父も仕事熱心な人で終電で帰ってくるのが日常的だった。
遅く帰ってきた父は母の作った夕飯を電子レンジで温めて一人で食べる日もあれば母がそばにいて食べる日もあった。もちろん、幼い私は先に寝かされていたのだがドアから漏れる光や小声で話す両親の声でよく目が覚めた。決して眠りが浅い方ではないはずだったがいつ帰ってくるかわからない父を小さいなりに気にしていたのだと思う。そのせいか昼間はいつも眠かった。
微睡んだ目でドアを見つめ、隙間から漏れる光で父の帰宅を確認するともう一度眠りについたのだった。

そして20年以上経った今でも私は同じような気持ちでドアを見つめている。
直接風が当たらないようにと、いつのまにか遠くに移動された扇風機の柔らかい風を受けながら再び眠りに落ちていく

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