ザビ家に正体バレバレのシャア

『ジオンの脅威』の中のガルマ国葬の場面で、キシリアがドズルに「例のシャアはどうなりました?」尋ねると、ドズルは答えず、代わりに、ドズルの横に座っていたギレンが、「ふるさとにでも帰ったんだろ。な、ドズル?」と言う。このギレンの言い方が、なかなか微妙で、ちょっと想像させる。

即ち、どうも、ギレンはシャアの正体がキャスバルであることを知っていて、おそらく、ドズルもシャアの正体がキャスバルであることを知っているような、やり取りに聞こえるのだ。その場合、ギレンの言った「ふるさと」とは、他でもない、現在ザビ家一党が支配しているジオン本国のそれである。つまりは、「シャアの帰った〔ふるさと〕ってどこなんだろうな、ドズル?」とギレンは嫌味を言ってるのだ。

面白いのは、ギレンもドズルも、シャアの正体がキャスバルだと知っているが、お互いに「シャアはキャスバルだよな」と確認しあってはいない点。お互いが暗黙の了解で、ジオンの忘れ形見を配下に置いていたのだ。ギレンは、キャスバルを侮って(だが、しっかり監視はつけて)、ドズルは、キャスバルを気の毒に思って。もちろん、デギン公王もシャアの正体がキャスバルだと気づいているが、やはり、同士だったジオンへの義理から、「見てみぬふり」「気づいてないふり」をしている。この〔男三人〕は、皆、シャアの正体がキャスバルであることを知っていて(気付いていて)、しかも、三人ともが、他の二人もシャアの正体に気づいていることに気付いていながら、あえてそれを確かめてはいない。シャアの正体がキャスバルであることが「公式」にバレてしまったら、いろいろ面倒くさいから。

このガルマ国葬の時点で、シャアの正体に気づいていないのは、実はキシリアだけ。キシリアがこのときまだシャアの正体に気づいていない証拠は、後に、キシリア本人がシャアに向かって、〔ガルマを戦死させた不手際や、いち早くフラナガン機関に近づいた先読みぶりに、疑念を抱いて探らせた結果、シャアがキャスバルであることが分かった〕と言っているから。スパイ活動に一番熱心で、ザビ家の中で一番の情報通であるかのように思われがちなキシリアだが、ザビ家の〔男3人〕からは一番信用の置けない存在(女子は入れない!)だと思われていたのも事実で、だから、シャアがキャスバルであることに早くから気づいていたドズル・ギレン・デギンの誰からも、情報共有を持ちかけられなかった。がために、シャアの正体に気づくのは一番遅くなった。

シャアの「ガルマ謀殺」について、ドズルは疑ってもいないだろう(ドズルは、ホワイトベースの脅威を最も理解していたので、単純にシャアがしくじったと思っている)が、ギレンは「その可能性はある」と考えていただろう(しかし、キャスバルごときに今更何ができるというのか、と侮っているので、平気)。デギンは、その辺のことはあまり考えないようにしていたかもしれない。というのは、そもそも、シャア(キャスバル)の父ジオンを暗殺したのは自分なのだから、その負い目があって。

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