実は全然モテてないカミーユ

『Zガンダム』全体の印象と、最終回のシロッコとの最終決戦の場面の印象で、なんとなく「女子にモテモテ」だと思われがちだが、実は、カミーユは全く女子にモテてない。幼馴染のファだけが、「本気」でカミーユカミーユ言ってるだけ。

思い返してみれば、カミーユにグイグイ来る女子は強化人間だけ。ニュータイプの女子ならイケそうか、と言えば、そうでもない。本当のニュータイプであるサラにはしっかり「素通り」されている(まあ、サラはすでにシロッコの「お手つき」だったってのもある)。

「薬漬け」の強化人間であるフォウやロザミアは、倒すべき相手としてのカミーユという存在を、人為的に意識に叩き込まれているので、カミーユという存在が彼女たちの中でとても強烈なものになっていて、その「特別な存在感」を、「精神がまともな状態」のときには、恋心だとか兄妹愛のように「誤解」してしまい、「カミーユ、カミーユ(お兄ちゃん、お兄ちゃん)」になってしまう。

物語をぼんやり観ていると勘違いしてしまいそうになるが、フォウにしてもロザミアにしても、「元々カミーユのことが好きだった女子が、薬漬けの強化人間にされて、カミーユを倒すべき相手だと思い込むようになった」わけではない。事実は全く逆で、元々倒すべき相手だと意識に植え込まれていた相手(カミーユ)のことを、ある種の精神錯乱(強化人間実験の失敗)で、恋人だとかお兄ちゃんだとか思い込んでいるだけ。

しかし、本当の「悲劇」は、カミーユ自身にこの「真実」が全く見えていないことの方。それに比べれば、フォウやロザミアの悲劇的な有り様は、悲劇としては、一段「軽い」。

カミーユは、相手がフォウであろうとロザミアであろうと、嘗て、アムロとララァが、「あの一瞬」でお互いの「全て」を分かり合えようには、分かりあえていない。カミーユが「これこそフォウだ、ロザミアだ」と、ニュータイプ能力レベルで「共感=精神感応」しているのは、カミーユ自身が、「本当の」フォウだ「本当の」ロザミアだと、「都合よく」思い込んでいる彼女たちの「一面」に過ぎない。

何を言いたいのかというと、これって、「ニュータイプ」としての人間洞察や感能力としては、大いに「不足・欠陥」があるんじゃないか、ということ。

カミーユとフォウの「出会い=精神感応」と、アムロとララァの「出会い=精神感応」とでは、共感の「深さ」が違う。というか、カミーユとフォウの場合は、お互いに深く分かり合えた気になっているだけで、要するに思春期の「私はあの人のことが好き・あの人も私のことが好き」という「思い込み」レベルをそれほど出ていない。

「健全/まとも」な女子にモテモテのアムロと比べると、同じ「ニュータイプ」でも、アムロとカミーユではそもそも「種類」が違う気がする。言ってしまえば、アムロ(や多分シャア)のニュータイプ能力は、健全な「共感力の拡大」なのだが、カミーユのニュータイプ能力は、病的な神経症(あるいは偏執狂)に近いもののように思える。だから、アムロとの「共感」があったときに「普通の女子(ニュータイプを含む。ただし強化人間ではない女子)」はアムロに「惹かれる」けれど、カミーユとの「共感」があったとき、「普通の女子」は或る種の鬱陶しさを感じるのではないか(想像。でも、エマさんとかレコアさんのカミーユに対する「態度」ってそんな感じだし、あのファでさえ、若干そんな感じ)。カミーユと「惹かれ合う」のは、薬漬けで脳が壊れた強化人間の女子だけ。21世紀風に言えば、メンヘラ同士なら惹かれ合う。

カミーユに訪れる「結末」を予言する不穏がここにある。

最終回、カミーユの精神が崩壊するのは、シロッコのせいでもなんでもない。「カミーユが元々持っていたもの」が、ついに「発症」しただけ。

極端な言い方をすれば、カミーユは、全50話をかけて、「実地の強化人間実験」に晒され続け、最後の最後に、とうとう、フォウやロザミーの「お仲間」になってしまったのだ。

【追記】おそらく、強化人間の候補に選ばれるのは、感じやすい情緒不安定気味の子なんだよ。つまり カミーユ みたいな子。だから、フォウとかロザミアと惹かれ合う。言ってしまえば、カミーユは、ムラサメ研究所やオーガスタ研究所の人間が喜ぶ「素材」なのだが、「自力」でニュータイプになっているので、もし、ニュータイプ研究所に連れ込まれても、フォウやロザミアみたいな目には合わずに済む。

もう一つ。カミーユのニュータイプ能力は、戦争の道具としては、うっかりしたらアムロすら凌ぐ。しかし、「本来」のニュータイプの有り様からすれば、相当に「病的」。カミーユは最初から「危うい」。遺伝か環境か、原因ははっきりしないが、とにかく自然発生的な「病気(精神疾患)のせいで」ニュータイプ能力が出現しているのがカミーユ。だから、変な喩えをすると、カミーユのニュータイプとしての異常な戦闘能力の高さは、脳にできた腫瘍のおかげで、もの凄い絵が描けるみたいなこと。

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