ジェリドの「汚名挽回」発言のおかげ

『Zガンダム』鑑賞。
第4話「エマの脱走」:ジェリドが「大佐、ガンダム Mk-II を使わせていただけるのならば、自分が汚名挽回をしたく……」というと、バスクが「汚名挽回? その言葉は実績を見せた者が言うことだ」というやり取りがある。一般に「汚名挽回」は誤用であり、「名誉挽回」か「汚名返上」が「正しい」熟語であることを富野さんが知らないはずはないから、これは、ジェリドの「無学ぶり」そしてもしかしたらバスクの「無教養ぶり」ひいてはティターンズの「ヤクザ集団ぶり」を表す演出ではないのか、と勘ぐってしまった。

で、一応ネットを調べてみたら、なんと、「汚名挽回は必ずしも誤用ではない」という文章がいくつか出てきた。有名な国語辞典の中の人も「誤用ではない」と言っていた。誤用ではない説で紹介されていたのが「劣勢挽回」とか「不利を挽回する」とか「疲労回復」などの実例。なるほど。たしかにそうだ。別に違和を感じない。

で、思ったのは、「汚名挽回」が「誤用」だとされてしまうは、「名誉挽回」と「同じ意味」(=どちらも「汚名を返上して、名誉を取り戻す」)のはずなのに、挽回する対象が、一方は「名誉」であり、一方が「汚名」なのはおかしい、となってしまうからなのだ、ということ。なるほど、こちらもモットモである。そもそも、カタチが似ていることが、いろいろなマチガイのモトなのだろう。

「誤用ではない説」を読むと、どうやら、「名誉挽回」が「名誉を取り戻す」というそのままな意味なのに対して、「汚名挽回」は「汚名を雪いで、汚名がなかった元の状態を取り戻す」という、やや回りくどい意味らしい。つまりこれは、[「名誉挽回」と「汚名挽回」は、同じ四字熟語で、しかも後半二文字が同じ「挽回」にもかかわらず、前半二文字と後半二文字の「関係性」がまるで違う]ということを意味している。そして、この「関係性」の違いのせいで、後半の「挽回」の意味が、一方は「取り戻す」になり、もう一方は「前半二文字が表す状態を抜け出して、より良い状態に戻る」になっているのだ。これは、例えば、「疲労回復」が「疲労状態から抜け出して、元気な状態に回復する」という意味であり、決して「疲労状態に戻る」という意味にはならないのと同じ「仕掛け」。

まあ、気づいたと思うけど、結局これは英語学習で出てきた「他動詞」と「自動詞」の違い。「名誉挽回」の「挽回」は、「名誉」に働きかける「他動詞」で、「汚名挽回」の「挽回」は、目的語を持たない「自動詞」。この場合の「汚名」は、その「自動詞(挽回)」が「発動」する状況の説明。

混乱の大本にあるのは、[四文字熟語ではないカタチの日本語]がそもそも持っている「曖昧さ」だろう。曖昧さというか「無意識の省略」の多さ。上で挙げた「疲労回復」を、「疲労を回復する」と言ったりすることがフツウにある。そして、意味は正しく通じてしまう。つまり「疲労(という状態から脱して元気)を回復する」という意味で。「疲労を回復する」と聞いて、「疲労していない状態から疲労している状態になる」と取る日本語ネイティブは、まず、いない。こんな乱暴な省略をして「平気」な日本語。なぜ、通じる? これは一体、なんなのだ?

おそらくきっとこうだ(知らんけど)。

四文字熟語で(そしておそらく前半二文字と後半二文字の間に「を」を挟んだフツウの言い回しでも)、前半二文字が否定的な意味の単語の時に、後半二文字が「取り戻す系・回復系」の意味を持つ単語なら、全体の意味は「前半二文字が意味する劣位状態から抜け出して、優位状態を取り戻すこと」になる。少なくとも、日本人の四文字熟語の「作り方の癖」はそうなっているように思える。

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