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腫瘍の写真(頚椎腫瘍 14)

 毎朝の回診とは別に、主治医は自分の患者の様子を見に病室を訪れる。
 N先生は外来も受け持っているし、毎日のように手術があったりでずいぶん忙しそうだったが、術後の状態が安定するまでは頻繁に様子を見に来てくれた。時間は決まっていず、いつもいきなり現われる。

 ある日、例によって不意に現われたN先生が、
「アンヌさん、腫瘍の写真、見ます?」
 と聞いた。
 回復室にいたときも1度聞かれたが、そのときはまだ気分も悪かったし、そんな気持ちの悪いものは見たくないので断った。
 1度断ったものをまた見せに来るということは、先生は私に見せたがっているのかもしれない。
 また断ったら、きっとがっかりするだろう。そう思って、見せてもらうことにした。

 新聞紙を4つ折りにしたぐらいの大きな紙に、写真が4つ並んでいた。
 上の2つは真っ赤に開いた傷口の写真。傷口は7〜8センチ四方で、周りが緑色のシートで覆われているので赤さが際立っている。
 下の2つは取り出した腫瘍の写真で、これまた血で赤く染まっている。両側が少しくびれていて、コロンと太ったひねショウガのようだ。

「ここは骨が当たっていたところです」
 N先生が右側の大きなくびれの部分を指して言った。骨に邪魔されてそこだけ太れなかったのだ。骨の隙間から頭を出して、その先はまた太っていった。

「こっちは○○と言いますが、神経にくっついていたところです」
 左側の小さなくびれ、というか、みかんのへたのようなぽちっと飛び出た部分。○○のところは専門用語で、覚えられなかった。

 退院する前日の最終検査のときにも、カルテのファイルの中にこの写真が入っていた。
 N先生がしげしげと写真を眺めているので、私ももう1度この気持ち悪い写真を覗き込んだ。
「これ、私の首ですか?」
「そうですよ」
 例の真っ赤な傷口の写真。腫瘍を取る前だそうだが、どこが骨やら腫瘍やら。
 私なんか写真で見るのさえいやなのに、こんなわけのわからない血みどろの場所から腫瘍を取り出すのだから、外科(整形外科であれ脳外科であれ)の先生というのは大したものだ。

「腫瘍の中身はなんですか?」
「繊維質です」
 なるほど、見るからに固そうだ。
 こんなものを10年以上も首の中で育てていたとはね。

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