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自己血採血(自宅待機 15)

 私は以前は鉄分欠乏症で、年に1度の健康診断でひっかかって鉄剤を投与されることも多かった。
 だから献血もしたことがなく、自己血採血がどんなものかさっぱりわからなかった。

 当日は朝6時半に起きて8時半に家を出たら、予定より30分も早く病院に着いてしまった。採血室の前の廊下でしばらく待ち、待っている間に体温を計った。

 呼ばれて中に入ると、数人の患者がベッドに寝て採血されていた。
 入口で看護師さんに体温計を見せたら、熱があるから採血できないと言われてしまった。
 私は普通の人より体温が高めなので、どこも具合が悪くなくても37度ぐらいあったりする。
 風邪を引いているのかと疑われたようだが、もう一度計ったら37度以下になっていた。
 それで採血できることになったが、危うく帰されるところだった。

 血圧を計られ、ベッドに横になると、右上腕にゴムを巻かれた。
「採っている間、少し痛いかもしれないよ。針が太いから」
 責任者らしい年配の先生にそう言われたが、針を射すときに痛かっただけで、後は痛くなかった。

 それより、ゴムで締めつけられている方が痛かった。
 痛いと言ったらゴムを緩めてくれたが、とたんに血流が悪くなったそうで、また強く締めつけられた。

 1回に採る量は400cc。
 先生が患者の間を回りながら、ちゃんと血が流れているかどうか、残りの分量はどれぐらいか、チェックしている。

「アンヌさん、340cc」
「わぁ、早い。もうそんなに採れたんですか?」
「針が太いからね」
 この分ならあっと言う間に終わりそうだ。よしよし。

 ところが、この後、締めつけられている腕はますます痛くなってきたのに、先生は他の患者のところにばかり行って、なかなか私のところに来てくれなかった。

 そのうちに締めつけられている腕がしびれてきた。
 やがて、痛いのを通り越して感覚がなくなってきた。
 いやだな、この感じ。腕がどうにかなっちゃいそう。早く終わらないかなぁ。

 340ccと言われてからずいぶん時間がたったような気がした。
 もう400cc採れたんじゃないかしら? 先生、早く見に来てくれればいいのに。
 そう思いながらも我慢していると、ようやく先生が私の腕を見に来てくれた。

「色が変わっているよ」
「やっぱり? しびれて痛いから大丈夫かな?と思ってました」
「痛いって言えばいいのに」
 ほんとにねぇ。なんで我慢しちゃったのかしら? 

 採血が終わって食塩水を点滴されている間、眠いので眠ってしまおうと思ったが、先生や看護師さんにいろいろ話し掛けられて眠れなかった。
 帰りがけにリンゴジュースをもらって飲み、鉄剤を処方された。

 採血した日は入浴してはいけないとか、車の運転も避けた方がいいとか、帰る途中で気分が悪くなったらどうすればいいとか、あらかじめ注意されていた。
 実際に採血後に気分が悪くなって病室に戻れなくなり、廊下のソファで寝ている患者がいたが、私は1人で歩いて帰ってこられた。
 自己血採血なんて簡単だ。どうってことない。そう思っていたのだが……。

 夜になって具合が悪くなった。
 夜中の2時から明け方まで何度か目が覚めたが、そのたびに頭痛と吐き気に襲われた。
 寝ると起きるときに必ず頭痛がするので、寝るのがいやになるくらいだった。

 吐き気はだんだんひどくなり、とても寝ていられないので、朝食をとることにして6時に起きた。
 ところが、食べ始めたら疲れて食べられないことがわかった。貧血だろう。
 400ccの採血は、体力のない身にはこたえたわけだ。

 2月28日、予定通り入院できるかどうか、前日に病院に問い合わせることになっていたので電話すると、 入院できるとのことだった。
 入院受付をしたとき、差額ベッド代が安い4人部屋が空いていなければ2人部屋になると言われた。
 4人部屋は日額2,310円で、2人部屋だと14,700円だそうだ。(2005年時点)

 医療費は高額療養費としてだいぶ戻ってくるが、差額ベッド代や食事代は自己負担になる。
 入院中は収入がないのに家賃は払わなくてはならないし、前回の入院でもお金がかかっているので、2人部屋の料金などとても払い切れない。

 2人部屋を断ると、4人部屋が空かなければ入院が先延ばしになると言われたが、やむを得なかった。
 九段坂病院では6人部屋は無料だったのに、病院によってずいぶん違うものだ。
 結局4人部屋に入れることになって良かった。頭の爆弾がいつ破裂してもおかしくないという気がしていたから。


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