グレープフルーツジュースが飲みたい

グレープフルーツジュースが飲みたい。ふとそう思うことがある。
子どもの頃からグレープフルーツジュースが好きだった。ラグビーを始めてからも筋肉の疲労回復に良いと知ってよく飲んでいた。

ところが。ある日を境にグレープフルーツジュースを飲めなくなった。
抗うつ剤である。
グレープフルーツをはじめ、夏ミカンやはっさく、きんかんなどの柑橘類は小腸のCYP3A4という酵素の活性を落とし、薬の吸収率を高めすぎてしまうため、私の服用している抗うつ剤とは併用禁忌となっている。レモンや温州みかんなどは同じ柑橘類でも特に注意する必要がないようだ。抗うつ剤に限らず、睡眠導入剤や気分安定剤、抗てんかん薬、抗不安薬にもCYP3A4酵素で代謝されるものは注意書きとしてグレープフルーツジュースを飲まないようにと記載される。

初めてその注意書きを見た時は「ひどく限定的な注意だな」と思った。フルーツジュースを飲むな、でもなく、柑橘類に注意、でもなく、グレープフルーツを食べるな、でもなく、「グレープフルーツジュースを飲むな」と書かれているので、当てはまる人はそう多くないのではないかと思ったりもした。しかしよくよく調べるとジュースでなくてもグレープフルーツの成分自体が良くないとのことであるし、第一グレープフルーツだけを避ければ良いわけですらなかった。

なんとなく腑に落ちないような気もする。別にグレープフルーツジュースと書く必要はないのではないかと思うし、私は子どもの頃からグレープフルーツと同じくらいの頻度ではっさくを食べるし、実家の庭にはきんかんの木があるので、そうなるともうグレープフルーツジュースだけが禁忌の対象になっていない。私のような場合というのは少ないのであろうが、「グレープフルーツジュースを飲んではいけない」という注意書きについてはもう少し言いようがあるだろうと思う。

というのはさておき、とにかく私はグレープフルーツジュースが飲みたい。ただ今飲んでいるその薬はかれこれ1年半ほど全くスタメンを外れることなく服用しているものなので、それをグレープフルーツジュースのために飲まないという選択もできない。

たかがグレープフルーツジュース、されどグレープフルーツジュース。吸収率が高まるくらいなら別に死なないのではないかと思うので、いつか飲んでしまうような気はしているのだが、未だその時はきていない。

ただ、合法的に私がグレープフルーツジュースを飲む方法が一つだけあるとすれば寛解である。これに尽きる。寛解を目指し、薬なしで生活できる日がくればグレープフルーツジュースも飲み放題というわけである。

しかし、そんな日は来るのだろうか。今は当たり前のように毎日10錠ほどの安心を飲み込んでいるが、それが一挙になくなるなんてことはあり得るのかどうか。こんな生活を何年も続けるとそれなしでは生きられなくなるだろうし、それが必ずしも悪いことだとも限らない。

それでも、私はグレープフルーツジュースが飲める日が来ることを願おうと思う。医師が寛解を告げるその日に、グレープフルーツジュースを飲もうと思う。その日まで、その時まで、もう少し、いやもうだいぶの辛抱かもしれないが、微かでも希望が持てるならそれも大切である。このような病気は治そうとして治るものでもないし一生付き合っていくことも大いに考えられる。そんな中で、根拠のない希望というのは時に役に立つものである。

これにて。2024日3月23日。

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