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0220_公園で

※死ぬ、生きるなどの表現があります。もちろんフィクションですが、苦手な方はご遠慮ください※
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「死にたいと言うよりも生きたくないという方が後ろ向きに聞こえるね」

 河中が薄く笑って言った。笑って言うものではないだろうに、彼女は笑っている。

「言い方の問題でしょ。並べるものじゃないよ」

 私はそう言ってお茶を濁した。

 時々、河中は大層落ち込むことがある。何があったわけでもなさそうで、こちらもいかんともしがたい。毎月のホルモンバランスのせいかとも思うが、私には同じような症状がないので分かってやれない。分かってやれないから、そばにいるだけになる。
 夕方、それぞれの家に帰る前に家の近くの公園のベンチで私達は手を繋ぐ。通う高校が違うから日中は会えない。それぞれにちゃんと友人がいるから毎日会うわけではない。毎日頻繁に連絡を取り合うわけではない。ただ時々、『公園で』とメッセージが入り、そこから公園に向かって会う。手を繋いで隣りに座っているだけ。どうしたの、何かあった?そんなことは聞かないでいる。
 河中が続けた。

「生きるのが辛い、嫌だ、しんどいとか言うよりも、もしかしたら『死にたい!』って元気に口にしてみるほうが案外死のうとはならない気がする」

 そう言うと、勢いよく私の手を離し、立ち上がって拳を空に突き上げた。

「死にたい!!」

 瞬間、私も立ち上がり、彼女を抱きしめた。 

「死なないで!」

 同じ勢いで声を出すと、河中が笑った。

「言っただけだよ。ほんとには死なないよ」
「うん、でもそれでも嫌だった」

 私たちは体を離し、また手を繋いでベンチに戻った。河中の手のひらが汗ばんでいた。その汗の中の塩分が、例えば私の手のひらに移ったなら、私の中に河中が入るのにと思う。今度は私が彼女に言う。

「『したい』の方が『したくない』よりも前向きに聞こえるのは確かだけれど、それ以上に『死』のインパクトが強いんだよ。反射的に嫌だってなっちゃうよ」

 私の手は少しだけ震えていた。

「結局、感覚で生きてんだね、私達」

 そう言って、河中は笑った。私の耳元に口を寄せて『死なないよ』と言う。
 河中の手は震えている。

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