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0223_ずっと一緒に

 死してなお、生きることもあるのではないかと思った。

「ああ、そこのお部屋はそのまま電気は消さないでおいてね。幸くん、暗いところが苦手だから」

 そう言って、少しだけ眉を下げて彼女は笑った。

 私の海外赴任中に、友人の夫が亡くなった。闘病を続けていたが、最期は自宅で普段通りに暮らして、彼女が看取った。年末の頃。私は仕事の繁忙期が重なっていて、後半の看病中もその後のお葬式もなにも、彼女のもとにいてあげられなかったから、ずっと気にかかっていて、ようやっと彼女に会いに来れた。

「わざわざありがとう」

 久々に見る彼女は、想像していたよりもつややかな肌をしていて、悲壮感は見えない。食事もとれているようで、げっそりしていることもなかった。私は心底安心している。

「いや、むしろなかなか来られなくてごめん。親友の一番大変な時にそばにいてあげられなかった」

 目と鼻の頭がぐっと痛み、思わず涙ができそうになるが、なんとか堪えた。それは彼女の前で見せるものではない。私は出してもらったお茶を飲む。

「幸くんの写真がある部屋は、電気は消さないでいるの」

 そっと、そこに置くように彼女が言う。私が手を合わせて、そのまま電気を消さずに出た部屋。彼女が続ける。

「それと、朝起きたときとか眠る前は必ず声をかけている。テレビを見て面白いと思った時も、2人とも好きな小説家の新刊がこの間発売になったときも、彼に報告した。ネタバレになっちゃうから、内容については彼には伝えなかったけれどね」

 そう言って、自分でふふふと笑った。もういないのにねと、そう言っているようにも見える。でも、彼女はそう言わない。

「よく考えたら、彼がいるときとあまり変わらないなって思っているのよ」
「どのへんが」
「朝や夜のあいさつや、ご飯の時にいただきますを言うことも、今までと私、なにも変えていないの。楽しいことや嬉しいことがあったときには彼に伝えたりして、そこに彼がいることはこれまでと何も変わらない」

 どこか嬉しそうに彼女は笑った。それはとてもやわらかく、ゆっくりとなにかを慈しむような小さな微笑みで自然なものだったから、私は安心した。でも、その顔のまま、彼女は涙を落とした。

「でも、悲しいことはまだ伝えられないね」

 幸くんの部屋を見て、彼女は笑う。今までと同じように、2人はここで一緒にいるんだろうなと、なんとなく感じる。安心して、私も泣いた。

 彼女は生きていて、彼もまた、生きている。

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