見出し画像

0421_折って破って

 15cm四方の緑色のそれを1枚取り出した。長方形になるよう半分に折り、また開く。向きを変えて折り、また開く。十字の折り跡ができ、私は安心する。
 折った場所に、きちんと跡ができることに安心したのだ。
 つけた折り目をもう一度爪先で押してスライドさせる。それを広げ、折り目を中心にして左右に均等に力を入れ、ゆっくりと折り目の最初を破り始める。びりビリリ、小気味よい紙の破れる音がする。私は少し嬉しくなる。
 破ると、長方形が2枚になった。それをまた半分にして、同じように折り目を強くつけて、ゆっくりと破る。びりビリリ。ハサミを使うよりも丁寧に正確にちゃんと本当の紙が破れるように思えるので私はいつも手で破る。
 こうして、緑の折り紙は4枚の7.5cm四方の小さな折り紙になった。
 大きな一枚が破かれ、小さな独立した1枚になる。なんとなく親と子どものように思えて私は少し寂しくなった。子は親の一部ではあるが、切り離されてしまえばもう自分ひとりで、いや、自分1枚になって生きなくてはならない。それはなんと心細いことか。

「いつでも帰ってきなさい。頑張りすぎなくていいのよ」

 忙しさにかまけて、半年も連絡を取っていない母からメッセージが入っていた。今朝9時ころだったが、すでに始業しており、確認したのが休憩に入れた今、18時である。

 容易に帰ってこいと言ってくれるものだ。全てそれで良いとしてくれるのならば、私は今すぐにでも帰りたい。帰って、すでに明かりのある部屋で、あたたかな夕飯を食べ、タイミングを合わせたあたたかな風呂に浸かり、誰よりも静かに涙したい。私は子どもだったのだと思い出しては、噛み締めて、その温もりに涙したい。私なりに頑張っているが、思うように楽にならないのだと涙も鼻水もいっしょくちゃにして母の胸に飛び込んでしまいたい。それを見た父に頭を撫でてもらいたい。

 そうして、元通り、15cm四方の折り紙に戻してほしい。

 乱暴でも丁寧でもちぎられることなく、折り目すらつけないそのままで、一緒にいさせて欲しい。

 そんなことを思いながら、私は母からのメッセージを閉じた。

 帰って、泣かなくなったら会いに行くから、今はまだ自分でちゃんと折り目をつけておきたいと思う。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
18時からの純文学
★毎日18時に1000文字程度(2分程度で読了)の掌編純文学(もどき)をアップします。
★著者:あにぃ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?