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0410_足りなければ足す

「案内は?」
「一通りの概要を説明して、細かな部分はそれぞれの担当で確認してくださいと案内しています」
「この件は?」
「連絡済みです」
「じゃあこっちは」
「······あ」

 課長に言われ、端的に答えたが最後にくちごもった。課長は眉間にシワを寄せてないのに寄せているような雰囲気を全身に醸している。

「あの、そこは追加しておきます。ほ、他に不足はありますでしょうか」

 私が聞くも、考え込んでいるようである。少ししてやっと口を開いた。

「ここ、うちで説明する必要ある?」

 全くノーマークの部分であった。

 言われてみればそうだろうけど、今更である。そんなの知りません、分かりません、そこまで手が回りません。頭の中にそれらがくるくると回った。すべての本質を捉えろとのことだろうか。それは確かに重要だ。でも、私はひとまずの形を整えるのにも精一杯なのだ。で、あれば、それを知る努力をするとか、誰かに聞く、手が回らないのなら別の人にも協力を仰ぐとかあるだろうなと思うと、全て引っくるめて自分の能力不足なのだと感じる。きっと、他の誰かやそれこそ課長ならその指摘も最初から分かって対処したのだろう。彼の言うことはいつだって全くもって正しい。
 正しく正しい。

「これは言わないほうがいい」
「これはどうするの」
「なんでここでこうするの」
「なんかおかしくないか」

 全部正しい。
 でも、全部、今の私には気づかないし、手を出す余裕がない。全て言い訳だとしても、もうなにも出来ないからなにも言わないで。

「まずは最低限必要なとこだけやるでいいんじゃないですか」

 ふいに声をかけてくれたのは別の課の先輩だった。

「多分、何が必要かって、やってみないと実感しないですよ。なので、やりながら足していくので良いと思います」

 課長がピクリと反応し、彼を見た。そして、にぃっと笑った。

「そりゃそうだな。うん、まずやってみようか。で、気付いた点を補足していって」

 課長が言い、先輩が私の肩をポン、と叩いた。

「全部詰め込まなくていいよ、足りなければ足せばいいんだから。仕事も、気持ちも一緒。そんなに気を張らなくてもいい」

 私はそうですかと言って、小さく笑い、足早にトイレに向かった。

 全部、埋めなきゃと思っていたパズルは、埋めなくても良いらしい。歩いてく最中、ピースを拾ってその都度当てはめればいい。

 きっと、気づけばそのうちに完成しているのだろうと思えて、私は泣いた。 


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