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0423_冨貴寄

 お菓子のような夢だった。

 金平糖とクッキー、時々キャンディも入っている。でも、その一つひとつが私にとっての1番だった。絵本作家、先生、カウンセラー、その全て、子供の頃に夢見た夢だった。私は全部のお菓子を手に入れたのだ。

「冨貴寄みたいやね」

 一恵が言った。

「なんやの、それ」
「よう売ってるやないの、デパートやなんかで」

 スマホをすいすいっと操作して、検索した画像を見せてくれた。私の言うそのまま、金平糖とクッキー、キャンディがキレイな『かんかん』の中に入っている。

「可愛いね」
「うん」

 一恵はまるで自分のお菓子だとでも言うように、少し嬉しそうに照れて笑う。金平糖だけ買わなくても、クッキーだけ買わなくても、キャンディだけ買わなくても、全部入ってる。

「夢のようなお菓子」
「うん、だから夢だって」

 一恵が言い、私が訂正する。夢みたいな夢であり、お菓子みたいなお菓子だ。

「あれ、どっちがどっちだっけ」

 私は混乱した。
 『かんかん』に詰めたのはお菓子だったか夢だったか。私が叶えたのはお菓子だったか夢だったか。私の手にはクッキーがあって、私は一体誰だろう。

「英恵さん」

 一恵が私の名を呼ぶ。
 私はクッキーを口にした。甘くて、しょっぱいソルトキャラメルクッキーだった。

「もう充分頑張っているし、疲れたら休んで良いんですよ」

 私の手には筆があり、教科書があり、カルテがあった。

 カルテには私の名前が書いてある。

「描いた夢を全部叶えなくても良いんです」

 一恵は白衣を着ていた。
 一恵は、かずえではなかった。

「何ものにもならなくていいから、一つずつ、楽にいきましょうね」

 目の前には『かんかん』が4つある。金平糖とクッキーとキャンディ、それと空っぽのかん。私は金平糖とクッキーとキャンディを一つずつ手にとり、空の『かんかん』に移した。

 何者にもならなかった私の冨貴寄ができた。可愛いねと、私は笑った。


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