冬は寒くなかった。
　まだ終わってないけれど。
　寒くなりそうだからと、いつだって暖かいダウンやコートを着て、その下には発熱素材のインナーを重ねたりして、結局寒さよりじんわりとした熱さがいつもあった。

　私は昨日、仕事を辞めた。
　正確には今は有給消化中であり、退職日とするのはまだ先だけど、もうあの会社に行くことはない。
　世間一般にはとても良い会社だったと思う。たまたまかもしれないが、私は社内で癖のある人にはあまり会ったことがないからその点の居心地は良かった。給料も悪くないし、休日もしっかり取れる。それこそ有給も概ね自由に取れるし、フレックスやテレワークなどもある。福利厚生もしっかりしていて、就職先を探している方には是非お薦めする。
　それでも私は辞めた。
　何が嫌だったわけではない。嫌なものは殆ど無かった。

　でも、好きなものも殆ど無かった。

　仕事を好き嫌いで考えるなと言われればそれまでだが、1日の大半を使うのだから私はそれを好きな時間としたかった。だから色んな人に聞いてみた。
「この仕事の何が好きですか」
　好きとかはそういうのではないけれど、と前置きして教えてくれる人が多かった気がする。もしくは、ただ生活のためだからと言う答えもあった。そのどれも、私はしっくり来なかったのだ。だから、辞めてしまった。
　みんなはしっくりきているのだろうか。それとも私と同じように悩んだりしているのだろうか、よく聞く『みんな一緒』なのだろうか。もしそうならば、気持ち悪いと思う。

　会社を辞めて今日は初日だからと何もしなかった。朝は9時位にぼんやり起きて朝食を食べ、テレビを見て、また少し眠った。始業時間だなぁとか、少しは考えた。
　私がこうして暖かい布団の中にいる間に、私の嫌いではない人たちは、私の嫌いではない仕事をしているとも思った。
　仕事が嫌なわけじゃなかった。
　だったら何だと、何が好きなのかと聞かれても今の私は答えられないのだった。

　暖かい布団から出てすぐは、部屋が寒い。
　コートもインナーも、脱げは寒いのだろう。

　冬は寒くなかった。
　でも、春が見当たらない。

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