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0403_境界線

 外は曇りで霧がかっていた。電車に揺られ、海の上を渡る。車窓から見る広く大きな海も、その曇りと同じ色をしていて、遠くを見れば空と海の境界線が分からなかった。

 このまま遠くへ行きたい。なんて、有体のセリフを頭に浮かべてみたところで、遠くには行けず、私は間違いなくここにいるのだった。ずっと。

 最愛の夫が亡くなって1年が経った。
 私はまだ、悲しみがとれないでいる。

 私には他にも最愛がたくさんあった。たくさんあるところで、それはもう『最愛』ではない気もするが、大切な最愛である。
 最愛の家もある。最愛の本と最愛のカバン、最愛の服に最愛の靴。私にはまだまだたくさんあって、まぁ何とか大丈夫だろうなと思っていたのだけれど、そうでもなかった。この1年、私は言葉の通り、泣き暮らしていた。言葉にならない言葉が溢れて、それを誰に当たることも出来ず、ただただ泣き、打ちひしがれるしかなかった。1つの最愛の人が、その他全ての最愛ものを包みこんで、一瞬にして私には最愛が何も残らなくなった。

 私の最愛はたった1つだったと知る。

 1年が経っても悲しみが無くならないので、なくなるまで電車に乗り続けてみたのだけれど、朝からこの夕方になっても悲しみは無くならなかった。朝も昼間も今も、同じ色の曇り空だったので、私には時間の経過が分からなかった。
 同じ色の曇り空と同じ色の海だったので、私にはその境界線が分からなかった。

 あまりに悲しみが深すぎたので、それが今の悲しみなのか、ずっと昔の悲しみなのか、それとも1年前の悲しみなのか分からなかった。

 おかげで悲しみがなくなった。

  私にはたった1つの最愛があって、それは悲しみではない。

 曇り空の曖昧がすべてをぼかし、私の心には最愛だけが残る。

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