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インディゲームシーンの成熟と熱さ(暑さ)を感じる「BitSummit Let’s Go!!」レポート

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連日酷暑が続く日々だが、山に囲まれた盆地に位置する京都の夏は特に暑い。日向を歩いていると目眩がしてくるような状況で、強烈な熱線には殺意を感じるほどである。

普段ならば家で一日ゲームをして過ごすところだが、国内最大のインディゲームの祭りであるBitSummitが開催となれば話は別だ。関東から東海道新幹線に乗っていざ京都!今回は2023年7月14日から16日まで京都市勧業館にて開催された「BitSummit Let’s Go!!」のレポートをお届けする。


密度とバリエーション、イベント自体のブランド力

会場入りして感じたのはブースの密度の高さだ。出展者が多く、なおかつバリエーションにも富んでいるのが印象的。個人での出展はもちろん、企業や学校といった団体参加も昨年よりも増えていると思う。

出展されているゲームも様々で、2Dのプラットフォーマーやアドベンチャー、ローグライクのアクションといったインディゲームでは定番となったジャンルのゲームもある一方で、デジタルのカードゲームやピンボールのゲームもあった。どのゲームを試遊しても見たことがないアイディアがあり、即製品化できるほどに完成度が高いタイトルも多い。それだけインディゲームシーンが成熟していると言えるが、他のインディゲームイベントに比較してもレベルが高い印象があった。これはBitSummitが世界中から生え抜きのタイトルを集めるだけのブランド力のあるイベントであることの証明でもある。

以下からは個別の作品について紹介していく。

都市伝説は人気の題材?

アドベンチャーゲームは筆者が特に好んでいるジャンルだが、BitSummitでも多くのアドベンチャーゲームに触れることができた。それぞれ全く異なるアプローチではあるものの、都市伝説を題材に選んだ作品が複数存在したことが面白い。

『都市伝説解体センター』は「和階堂真の事件簿」シリーズを手掛けたHakababunkoが開発、集英社ゲームズがパブリッシュするドット絵による2Dアドベンチャー。都市伝説を調査する施設に赴任した主人公を操作してSNS上の噂や霊能メガネを利用した調査を行うことで都市伝説に迫っていく。試遊では序盤の調査パートまで遊べたが、SNSの噂から真実を見つけていく過程があることで能動的に物語を進めていく感覚があるのが良かった。ドット絵の密度も高く、ビジュアルに関しても充実している。このあとの展開次第では傑作になり得るポテンシャルのある作品だと感じた。

『東京サイコデミック』はグラビティゲームアライズによる実写映像と2Dのキャラクターを組み合わせたスタイルのアドベンチャー。世界規模で発生した感染症によって変わった世界を舞台に、未解決の不審事件を防犯カメラの映像やインターネットを駆使した調査で解き明かしていくのが目的となる。

本作の題材が都市伝説と言えるかは微妙なところだが、試遊で遊べた人体発火による不審死の調査は最初はオカルト的な印象はある。導入の不審さがあるものの、防犯カメラの映像を早送りしつつ調査、現場の写真をじっくりと見て火元を確認、被害者の身辺調査を進めるといった過程を踏むことで徐々に事件の真相が明らかになっていく。この「幽霊の正体見たり」な爽快感が調査ものアドベンチャーゲームの醍醐味が味わえるゲームと感じた。

『青十字病院 東京都支部 怪異解剖部署』はFuroshiki Lab.が開発、産経デジタルが新たに手掛けるレーベルHYPER REALがパブリッシュするアドベンチャー。都市伝説を扱ったゲームはいくつも存在するが、都市伝説の対象自体を解体するのは未体験ゾーンである。

怪異を解剖する部署を舞台に解剖するアクション自体がゲームプレイに取り入れられているのが特徴的で、実在するかもわからない存在を解剖学的に観察する体験はまず実人生にないわけで、そういった体験ができるだけでも貴重なゲームだと感じた。物語がどう動くのかも興味深い。

一点補足しておくと、産経デジタルはゲームメディアであるIGN JAPANを運営しているため、ゲーム業界に急遽参入した存在というわけではない。また、HYPER REALにも協力しているIGN JAPANの副編集長の今井晋氏はインディゲームシーンに精通していることでも知られている人物であることを踏まえると、集英社や講談社といった他の出版社系のゲームレーベルとは体制的にも異なるものと言えそうだ。

アメコミ風でビビットなグラフィックと勘違いJAPANな世界観が魅力のFPS『Tokyo Underground Killer』

1990年代頃までは欧米人のえーかげんなアジア認識の象徴であった勘違いJAPAN表現だが、近年では一種の様式美となっており、映画『ブレット・トレイン』は勘違いJAPANが極まっていて面白く見られた。『Tokyo Underground Killer』はそんな勘違いJAPANを忠実にゲーム化したような世界観とアメコミ的なイベントシーンが組み合わされた作風が魅力のFPSである。

ネオンギラギラな街でNINJAっぽい敵をバッサリ切って、回復は道中の弁当屋という不思議世界でのアクションに加えて、血液を利用したスキルのリソース管理などアクションゲームとしてのやりごたえは十分だ。開発のフェニックス・ゲームプロダクション合同会社は本作が初の自社IP。2019年に設立された会社のため、新興メーカーではあるものの、プラチナゲームズやUBISoft出身のスタッフも所属しているため開発力には確かなものがある。

激ムズ難易度の極まった2Dプラットフォーマー『モミボス』

これまで企業や団体による作品の紹介が多くなったが、個人開発者が生み出すパッションに溢れた作品も紹介したい。

『モミボス』は2Dプラットフォーマーアクションの傑作、『Celeste』に着想を得たアクションゲームだ。『Celeste』自体が難易度の高いゲームではあったが、本作の難易度はそれを遥かに上回る。一部追いかけてくる敵が存在していたものの、基本的に山を登る行為をゲームとしていた『Celeste』に対して『モミボス』は進行を邪魔するザコ敵もいればボス戦も存在するより戦闘的なアクションゲームに仕上がっている。

プラットフォーマーとしてもアグレッシブで、空中ダッシュを駆使して登るのは序の口、敵を踏みつけての2段ジャンプや即死トラップの連続と容赦ない。比較的復帰ポイントがあるのだが、絶妙に心を折ってくる難しさがあり、腕前と根性を試されている気分になる。これが出来の良くないアクションゲームならば即刻投げ出すところだが、5年以上個人で開発されたことでのレベルデザインの完成度やドット絵のビジュアルのレベルも非常に高い仕上がり。試遊では筆者以外にも何度もやり直しつつ熱中している人が多かったことは完成度の高さによるものだろう。

開発者のPeng氏に話を聞いたところ、ゲーム会社の勤務でもなく、完全に個人で制作しているとのこと。実はTOKYO SANDBOXでも試遊していたのだが、その時よりもレベルを上げている印象でより「極まった」アクションゲームができつつある印象だ。なんでも締め切りのない一人での作業とあって、終わりを決めることがなかなかできずにいるらしい。そういう点も含めてインディゲームならではのパッションが詰まった作品と感じた。Steamでのリリースに向けて準備を進めているそうなので、気になる人はウィッシュリストに入れて待とう。

あの日本の漫画にそっくりな設定とシンプルで魅力的なアートスタイルのパズルアクション『SCHiM』

インディゲームのイベントに行っていると稀にとんでもない完成度のゲームに出くわすことがあるが、『SCHiM』はそういうゲームだった。

人間の影の中に住んでいるオタマジャクシ的なルックの謎生物「SCHiM」はある少年の影に何年も暮らすうちに少年は大学生になり、社会人となった。ある日、男性が仕事をクビになってしまい、落ち込んで帰る途中に男性の影とSCHiMは離れ離れになってしまう。男性に追いつくために影を伝って移動していくSCHiMを操作するのアクションゲームとなっている。

本作は物語の導入部分だけでも魅力的だ。少年の成長が場面の切り替わりごとに表現されるインタラクティブな移動パートに始まり、移動するたびに画面の配色も一新される。そこではSCHiMが影を伝って移動してインタラクションすることで信号機の色を変えるチュートリアルも挟まれており、導入の進行のスムーズさとビジュアル的な美しさは近年触れたゲームの中でもトップクラスだ。シンプルな配色でゲーム的にもわかりやすい記号化がされた3Dマップだが、同時にアート的でもあるのが素晴らしい。

本作の男性の影にくっついている生物との絆の物語(のように見える)から思い出したのが漫画「ど根性ガエル」だ。まさか関係はないと思うのだが、コンセプト的には完全にアレである。

影を伝っていくアクションはステージごとの工夫が効いていて、単にモノの影を伝うだけではなく、時には歩いている人物の影に入って影のない空間での移動を助けてもらったり、看板を揺らしてジャンプする距離を稼ぐなどバリエーションに富んでいる。即製品化ができるような完成度の高さに今からリリースが待ちきれない作品だ。リリースは2024年を予定しているらしく、Nintendo SwitchやSteam、XBOX、Playstationなどオールプラットフォームでのリリースとなるそうだ。

頭がこんがらがる!難しくて面白い蛇っぽいパズル『AMPHIS GAME』

驚きのあったゲームと言えば『AMPHIS GAME』も独特なルールのパズルゲームでとても面白かった。色のついた蛇のようなブロックを操作して同じ色を繋げることでクリアとなる。説明されるよりも、動画で見てもらったほうがわかりやすいだろう。

本作は一見シンプルに見えるが、パズルとしては非常に歯ごたえがあるのが特徴だ。色が一色ならば単純であっても、ステージが進むごとに色の種類が増え、ブロックも頭とお尻の色が異なってくるなど複雑化していくことで一気に難易度が上がる。ステージにはブロックの長さを延長させる木の実のようなものが登場するが、この配置やどれだけ長くするかなどの配分にも頭を悩まされる。友人と二人であーだこーだと言いながら試遊していたのだが、我々が頭を悩ませる様子を開発者の丸中氏がとにかく楽しそうに見ていたのが印象に残った。見ている側、遊ぶ側の双方に解けたときの爽快感が味わえる素晴らしいパズルゲームだ。ブロックには顔がついていて、可愛らしいビジュアルにもなっていることもあって、配信者に人気が出そうなタイトルと感じた。

ゲームは視える人だけのものではない「AUDIO GAME CENTER」の取り組み

多くの人にとっての「ゲーム」はビデオゲームであり、その名の通り視覚が重視されるものだが、ゲームは視える人だけのものではない。近年の大作ゲームでは視覚障害のある人に向けたオプションを設定することも増えており、「Last of Us PartII」では全盲のプレイヤーによるクリア報告もある。今回出展していた「AUDIO GAME CENTER」は音のみで構成されたオーディオゲームを制作することで、人間が認知する世界についての理解を深めようとするプロジェクトである。デザイナーや研究者、プログラマーなどが参加するDDD(Disability Driven Design)Projectが主催しており、ゲームデザインやプログラムを行う野澤幸男氏は全盲だという。

試遊したゲームは頭の周りに飛んでいる蚊を殺虫剤で刺される前に落とすというもの。聞こえてくると思わず身構えてしまうあのプ~ンという羽音の距離感や方向が音のみで表現されており、反射的に蚊がいそうな方向にスプレー型のコントローラーを噴霧すると撃退できた。撃退したと思ったら、また次の羽音が!という具合に1分半のプレイ時間の間に10匹以上落として3回刺される結果となった。音だけでの遊びがどれだけ面白くなるかと少し疑念もあったが、スプレーの残量も制限があることもあり、やってみると思っていたよりも駆け引きのある面白いゲームだった。

「AUDIO GAME CENTER」では新作ゲームの準備も進めており、そちらはスマートフォンやタブレット向けのアプリとなる。空間に対してオブジェクトを自由に設置でき、そこから発せられる音によって宝探しゲームや謎解きゲームなどを自作できるAR技術を利用したアプリで、その名も「AUDIO GAME MAKER」。単に音を発するオブジェクトを置くだけではあるものの、音の種類やオブジェクトの大きさは変更することで様々な遊びの可能性がある。例えば、音を発する方向に引き寄せられていくとだんだんそれが人の声だと気づいて、音源にたどり着いてみると今度は別の声が、、、といったホラーアドベンチャーを作ることも可能だろう。わかりやすく音を探すレクリエーションにするのも良い。

昨年のBitSummitレポート記事では面白コントローラーイベント「make. ctrl. Japan」の出展について取り上げたが、ビデオゲームの祭典の中に「AUDIO GAME CENTER」のような学術性の高い取り組みをしている団体が参加していることに多いに意味があると感じる。ゲームは誰もが楽しめるエンタメであるべきだと思うし、ゲームの表現は様々であることを再認識した。

工夫の効いたノベルティもリアルイベントの魅力

リアルイベントの魅力の一つといえば、ノベルティだが、今回のBitSummitもノベルティは充実していた。

集英社ゲームズは配送用のパックに入ったカードセットをもらえたが、見た目のインパクトやパッケージを開ける行為を含めてのエンタメになっていて大変良い。

Aniplexでは謎のチェキ風ステッカーを配り、Happinetのブースでは『パスパルトゥー2』に合わせたデザインのハイチュウを「パスパルチュウ」として配布する見事なダジャレっぷり。ヨカゼのブースでは毎度最高なデザインのブックレットが配られた。

既存タイトルの成長、リアルイベントの意味

知らなかったタイトルに多くめぐり逢い、質・量ともに大満足のBitSummitだったが、すでに知っているタイトルの成長も大いに感じられた。『SONOKUNI』は最初に触れたTokyo Sandboxの頃からアニメーションやエフェクトが大幅に強化されていて、かなり遊びやすくなった。

パブリッシュは架け橋ゲームズに決まった

『Tokyo Stories』は遊びは昨年のBitSummitのときには歩くだけだったのが、ストーリーらしきものが見えてきた。デジゲー博で初出展の『Death the Guitar』はBitSummitでアワード受賞するほどの大躍進だ。

初期から知っていたタイトルが進化していく過程をみるのもまた、インディゲームの面白さであり、リアルイベントに参加する醍醐味である。また来年も新たなゲームに出会うべく、BitSummitに訪れたい。ただ、次は暑い時期を避けてくれると嬉しいです。。。

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