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ふしん道楽 vol.13 生垣

マンションに住んでいるとあまり関係ないように思うが、実はそうでもないのが植木である。
私は植物が好きなのでエントランス周辺の植栽が気になる。
周りの生垣も気になる。

都内のマンションは大抵、完成イメージ画像からそのまま抜き出したようなコニファーがぐるりと取り巻いている。
たまに何本か枯れてたりする。
(早く植え替えてあげて!)

もしくは赤い葉っぱでお馴染みのレッドロビンだ。
別名ベニカナメモチ。
なんか不動産屋とかが外で電話してる背景は、大抵レッドロビンの記憶がある。

生垣は本来侵入を防ぐためのものなので、密生して隙間がないように剪定する。
そのうえ虫がつきにくく病気にならない強さと、お手入れのしやすさが必須で、泥棒がよじ登って乗り越えられらないように幹の一つひとつは細い(上に乗ることはできない)など様々な条件を満たすものは限られている。

コニファー類はぎっしり葉が生えていて目隠しに最適だ。
それに下半身は案外がっちりしているので間も抜けられないし、木の先が細いので上を乗り越えられない。
ただ、作り物感というかCG感が若干ある。

レッドロビンは上から下まで満遍なく茂るので抜けられる場所がないし、名前も正義の味方っぽいので防犯に向いている(謎理論)。
不動産屋がセットで現れそうな世馴れた風情で都会的。

たまに金木犀の生垣のおうちがあって、秋になるといい香りを放つので、生垣にはいいと思うけれど、マンションだと香りの好き嫌いもある。
あとかなり剪定をしっかりやらないと上の方が茂って下は幹だけとなるので抜けやすい。
足元部分には密生して枝の多いドウダンツツジなどを植えて、二段構えにする必要がある。

昔はそれで十分に防犯に役立っていたのだと思うけれど、そこまでやっても今は大した防犯にならない。
マンションも生垣の内側にはフェンスがあるところが大半だし、フェンス隠し、みたいな意味合いに変わってきているのかもしれない。

しかしフェンスも上がとんがっているものや最新のセンサー内蔵のものでもない限り、越えようと思えば簡単に越えられる。
私は怖がりなのですぐ泥棒の侵入をイメージしてしまう。
防犯面において最強の生垣といえば、やはりカラタチを置いて他にない。

ご存知かと思うがカラタチは棘の大きな柑橘系の落葉低木。
中国の長江上流が原産なので耐寒性もある。
そしてなんかもうトゲトゲが強い。
枝や幹に棘がついている、というより枝そのものが棘なので枝をかき分けて侵入するのが不可能だ。
そのため、かつては多くの民家で生垣として重宝されていたのだが、最近は敬遠されているのかあまり見かけない。

花も美しくその実は果実酒にもなる。
お風呂に入れても良いし、乾燥させたものは生薬にもなるというお宝樹木なのだが、自分をも傷つけかねない強力なシールドが家の周りを取り巻いているというのは、精神的に負担があるのかもしれない。
胆力のある人ならば最強の生垣として採用するのも良いと思う。

他に生垣といえばツゲ、イヌツゲなどもあるがこれは本当に「ザ・生垣!!」と、なつかしの水曜スペシャルのフォントでテレビ画面に映したくなるほどのザ・生垣植物だ。
ツゲといえば本来は櫛が有名だが、植栽にも有能で存在を主張せずしっかり役目を果たす。
楕円形の小さい葉がとにかくぎっしり生えていて、刈り込みによっては四角にも丸にも、さらには動物の形にもできてしまう。

あまりにスタンダードなものを角刈りにするのはどうかと思うので、私がもし自宅に使うのであれば丸く刈り込んで、外国の高級アパートメントのエントランスみたいに
「五右衛門風呂なのかな?」
と思うデカさの植木鉢に入れて、マンションの玄関前左右にドーンと置いてみたい。

おしゃれ方面の生垣ではトキワマンサクも捨てがたい。
初見の時は植木屋さんか生産者さんの名前かと思ったが。
葉っぱも可愛いし花もパッと散る火花のような繊細な美しさがあり、葉の色も緑、赤、紫がかった青、などいろいろ種類があって、花も白とピンクなど選択肢が多い。
私なら青葉に白花を選ぶけどその組み合わせはあるのだろうか。

マンションのくせになぜこんなに生垣のことを考えているかというと、去年部屋から見える木が一本枯れてしまったからだ。

うちのマンションの外周はフェンスで囲ってあるのだが、内側に無作為に植えられた木によってバラバラながらも生垣感があり、お隣のマンションが程良く目隠しされて平穏に暮らせていた。
しかし一本枯れたことによってぽっかりと空きができ、お隣のいくつかの窓が丸見えになりお隣からもうちが丸見えになった。
向こうからもこちらの生活が見えていると思うと「2週間で10キロ痩せるダンス」も踊ることができない。

苦悩した私は、空いた場所に紅葉を植えてほしいとマンションの管理人さんに直訴したのだが、何を植えるかは個人の希望では決められないとのことだった。

紅葉は枯れ葉も出るし、一階に住む人から苦情が出るのかもしれない。
他の木でもいいので目隠しできないものだろうか。
と考えているうちに、生垣の重要性に考えが及んだのだった。
泥棒よけというよりは目隠しが必要な現代の生活。

半年以上経つけれど、マンション管理部は新しく木を植える気配が全くない。
こうなったら春先に拾ってきた紅葉の種を窓からさりげなく撒いて自生するのを待とうかと思っている。

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初出:「I'm home.」No.113(2021年7月16日発行)

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