雨が降ってるのに・・・何をしてるんだろう？
と、私も柴犬を見て立ち止まった。

　柴犬は、座ったままこちらを向いていて、時折、口を開けて舌を出している。
　雨は、どんどん激しさを増してきた。

　もしかして、私を待ってたの？
と、思ったんだけれど、まさか、そんなはずはないよね、と思い、首をかしげた。

　このままじゃ、風邪をひいちゃうよ。
私は、犬のところに、駆け寄った。

「何をしてるの？ こんな雨の中で。どこか雨宿りする場所・・・あ、そこに公園があるから、そこに行こ？ 」と、私は、公園のある方角を人差し指で示して、柴犬に声をかけた。
　柴犬は、軽く首を立てに降り、公園に向かって、歩き出した。

　私の言ったこと、わかるのかな？
　でも、またそんな事言ったら、琴実と美希に笑われるなぁ。って思いながら、私も柴犬と一緒に歩き出した。

　雨は本当に、どんどん降ってきた。
それは、もう、台風なんじゃないかってぐらいに、降ってくる。
　どうせ、濡れてるんだから、あんまり気にもしないけど、柴犬は、毛がたくさんついてるから、重くなるんだろうな、って、事を考えながら、小さい公園にたどり着いた。

　星谷(ほしのたに)公園・・・
小さい時に、よく琴実と遊びに来た公園。
　毎日、近くを通るんだけど、なかなか寄ったりしないから、ほんと、久しぶりだよね。

　あ、まだ、あのブランコある。ちっさいブランコ。と、公園に入るなり、辺りを見渡した、私。

　雨宿りする場所はもう決めてある。
この公園に唯一ある星型のトンネル。
　中は、ちょっとだけ迷路みたいな感じになっていて、入り口と出口がそれぞれ一箇所ずつあるんだ。
　でも、どっちが入り口でどっちが出口か、わかんないけど。

「この中なら、雨に濡れないよね」と言いながら、私と柴犬は、トンネルの中に入った。

　私は、バッグからスポーツタオルを取り出して、柴犬の濡れた毛を拭いてあげた。
　なんか、柴犬、嬉しそう、って勝手にいい風に解釈する私。

　そういや、お母さんも昔、犬飼っていたって言ってたっけ。
私が生まれる前の話だから、多分、おじいちゃん、おばあちゃん家に住んでた時なんだろうな。
　私が生まれてからは、お母さんは、一人で私を育てたから、犬を飼う余裕もないって言ってたよね。
　お母さんは、頑固だから、「私一人でも、育てる」って言ったら聞かない人だから。
　でも、いっつも私一人でお留守番だったし、すごく寂しかったんだけどなぁ・・・

　私は、古い記憶の回想の真っただ中だったんだけど、
いきなり柴犬がほえた。

「ワン」

　私は、びくっとして、タオルを落とした。

「もぅ、いきなり、ほえないでよっ」
　私は、落としたタオルを拾いながら、柴犬に言った。

　柴犬は、片目を軽く閉じて・・・って、ウィンクした？？
犬って、そんな事出来るの？
聞いたことないんだけど・・・

　ちょっと変わった柴犬だ、謝ってるのかな。

　私は、この柴犬に興味が沸いてきた。
今まで、こんな体験したことが無いから、少しおもしろかった。

　私は、次は何するんだろう？って、興味深く、柴犬を見た。
すると、次は、柴犬はお座りの状態で、両目をつぶった。

「どうしたの？ タオル、目に入っちゃった？ 」

　柴犬は、横に首を振った。
その後、私の袖を口で引っ張った。

「何をして欲しいのよ？ 分からないよ」
　私は、柴犬を見た。首を縦に大きく振った。
目をつぶれって言ってるのかな？
　よく分からないけど、そんな気がしたから、柴犬と一緒に目をつぶった。

　すると、暗闇の中から、声が聞こえた。

「君を待ってたんだ」

　私は、今朝あったことが、現実だったんだ、って思った。
その声は、すごく透き通っていて、若い男の子の声だって分かった。
すぐに聞き返してみた。

「どうして、私を待っていたの？ 」
「えっと・・・えっとね・・・。また、それは今度言うよ」
「え、今言ってよ」
「拭いてくれて、ありがと」
「いえいえ、どういたしまして」と、私は目をつぶったまま、おじぎをした。

　・・・しかし、その後の返事が無い。
私は、ゆっくりとまぶたを上げてみた。

　柴犬は、またどこかに行ってしまった。
「もう、また勝手にいなくなる」と、私は、ほっぺたをふくらまして、怒った顔をした。

　ふと、気付くと、雨の音は止んでいた。
私は、トンネルから外に出て、暗くなった空に、星が出ているのを見ていた。

続く

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🐶「風の花」バックナンバー🐶
第1話　あなたは柴犬？
第2話　信じてくれないよね？
第3話　あれれ？晴れから曇り

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