1日目

【Run! Run!】

すがるような気持ちでトランジットカウンターに行った私に、おばさんはただただ【走れ!】と私を急かした。「いやどっちに!!」とにもかくにも走り出した後のこの疑問は、私の焦りをより増長させた。

20歳。日本人。運動音痴。この属性の人間がヘルシンキ空港を爆走している姿は、少なくともこの空港で1年に1度くらいしか見られないのではないだろうか。周りの人々が大きくて、自分が小動物になって障害物をすり抜けて行っているような気分になる。トランジット時間が短いのはやっぱり考え物だ。特に初めて1人で国際線に乗った人間には。空港内の店の間を、「外国だぁ」「ムーミンだぁ」とだけ思いながらひたすら走る。ぜーぜー言いながらなんとかたどり着いたゲートでは、おばさんが苦笑しながら私を迎えてくれた。【一人で旅行?】【そうです。(留学です。)】チケットが承認されて中に入る。「間に合ったぁ…。」

遅延で結局その後30分以上出発しなかったことを、走っていた頃の自分に言ってやりたい。

20歳。日本人。運動音痴。コペンハーゲン行きの飛行機に乗る。私はこれから10か月間、デンマークで留学をする。出発までの1か月間、留学前だということで、友達とこれでもか!というくらい遊んだ。語り合った。大学で私にはこんなに素晴らしい友達をつくってたんだ。普段は改めて思わないことを、たくさん思った。みんなだって日本で大変なのに。みんなが応援してくれる言葉に救われたし、でも同時に不安が増したり。

「はーちゃん頑張って」「はーちゃんなら大丈夫」っていう友達の言葉も、

「変わる必要はない。あなたのままでいいから、『こういう自分になりたいな』っていう要素を付け足してきなさい。」っていう母の言葉も、

「留学は無事に帰ってきたら8割成功だから」っていう父の言葉も、

空港でこっちに背を向けて泣いていた弟の涙も、全部リュックに詰め込んで。私はコペンハーゲンに向けて出発した。

20歳。日本人。運動音痴。コペンハーゲン。Buddyと呼ばれる留学生1人1人についてくれる学生と空港から電車に乗り、駅に降りる。エレベーターの地下の階の表示が、B1、B2ではなく-1、-2になっているだけで好奇心いっぱいな顔をしていた私に、Buddyの子が笑いながら言った。【エレベーターの何がそんなに興味深いのがよく分かんないや(笑)これからコペンハーゲンでびっくりするよ】【え?】と首を傾げた瞬間。エレベーターのドアが地上を示して開いた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」

青空と、人々と。美しい建物が3D映像のように奥まで続いていた。数々の窓が白い壁の中に共存していて、気温も湿度も雑音も歴史も全てを感じる前に、とにかく美しかった。【Welcome to Copenhagen!!】Buddyが笑顔で言ったその瞬間を、私はずっと忘れないだろう。

これから10か月間、デンマークで留学します。気ままに、書いていきます。留学に興味がある方、デンマークを知りたい方、暇つぶしを探している方、覗いてくださると嬉しいです。