デンマーク留学、Fin

【Run! Run!】

7か月前。私はヘルシンキ空港でこう叫ばれ、がむしゃらなスタートダッシュを切った。

中高6年間、温厚な女子校の柵の中で大切に育てられていたヒツジは、柵から出ただけでなく、まさかの海を越えてしまったのである。

そのヒツジは、あるウイルスの影響で、急遽自分の国に帰ってきた。

CAさんがマスクと手袋をしていたことと、
飛行機がガラガラに空いていたことと、
書くべき書類がいつもより2,3枚多かったことと、
検閲に1時間半並んだこと以外、通常通り無事に日本に入国した私は、
すんなりと元の家で暮らし始めている。

母の美味しいご飯に舌鼓を打ち、
就活のエントリーシートに翻弄され、
弟ときゃーきゃーふざけ合い、
好きなテレビ番組を見る。

この子は多分私が数日前まで長期間家に居なかったことをもう忘れているんだろうなぁと、しっぽを振って目を輝かせているフワフワの妹を眺めて思った。


でも。

この日常に戻ってきたからこそ、私は変化を感じている。
静かに、脈々と、着実に、熱く、感じている。


この7ヶ月が、どれだけ私の人生に影響を与えたのか。

イタリアのコロナの現状をテレビで見るたびにボローニャの街並みが思い浮かぶ。
韓国のニュースが流れるとバルセロナを共に旅行した親友の顔が出てきて、
グーグルマップのハンガリーの文字が前よりも際立ち、
日本に帰国して一度もニュースで見ていないデンマークの状況を、心配している。

ハンバーグと人参しりしりとお味噌汁とご飯で、母の誕生日を祝えるようになったし、
デンマークの友人に英語で日本の桜とコロナの実情についてメッセージを送り、
外国人はやっぱり日本人とは合わない?という弟の素朴な疑問に、所属で人を判断するべきではないと思った経験を、語れるようになった。

母に「渡航前までは感じなかった自信を感じるね」と笑顔で言われた。そう言ってもらえる娘で居られていることを、嬉しく思う。

そして。
この日常をどれだけ大切にしなければならないのかを、身に染みて、知った。
突然別れを告げることになったコペンハーゲンでの「日常」は、最後の最後にとてつもなく大事なことを教えてくれたのだと思う。


人生の非日常。その中で経験したこと全てを振り返る今、言いたいことがある。

40日目のnoteを、借りるならば。


『自分の居心地のいい場所を抜け出すっていう経験を、した方がいい。

1年生の秋学期。先輩に言われた一言が、ずっと忘れられなかった。
本当に居心地のいい場所を飛び出してみると、人間の感情って1つにまとまらないというのを、とても、感じる。

恋しい。寂しい。怖い。不安。孤独。

嬉しい。楽しい。知りたい。希望。賑わい。

全部、心の中で共存している。


でも。なんだかよく分からない感情だけど。


ほのかな風が髪の間をすり抜けていく。がやがやした声。可愛い建物と、写真を撮る友達の背中を眺めながら、私はこう思った。

ここに来てよかったなぁ。

「ここ」っていうのが、デンマークなのか、コペンハーゲンなのか、留学に来て、という意味なのか、はたまた全てなのか。
私自身も分からないけれど。
今は素直に、ここに来てよかったと、心から思う。』


7か月を経た今、私はこう、胸を張って言える。


デンマークに来て、良かった。
コペンハーゲンに来て、良かった。

留学に来て、良かった。


全ての出会いが、私の人生にかけがえのないものを残してくれた。

思いがけない終わり方になってしまったけれど、私には後悔が何もない。
あるのは、Run!Run!と次へのスタートダッシュを応援してくれている7か月間の思い出と経験である。


『1つにまとまらない気持ち。
それで、いいんだと思う。
一つ一つの感情が、ここに来てよかったと、思わせてくれている。』


私の第2の故郷との再会を、首を長くして待つことにするか!!


note終盤を打っている私は、もうすでに、ワクワクしている。


全ての出会いに、心からの感謝を込めて。


---デンマーク留学Fin---

デンマーク留学、Fin




n日目


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」

青空と、人々と。美しい建物が3D映像のように奥まで続いていた。数々の窓が白い壁の中に共存していて、気温も湿度も雑音も歴史も全てを感じる前に、とにかく美しかった。
【Welcome to Copenhagen!!】と笑顔で言ってくれるBuddyは今は横には居ないけれど。

「まぁ今晩会えるし、ホテル行くか!」

キャリーバッグを引いて歩きだした私の歩調は、おもしろいくらい、軽々しかった。