40日目

【日本恋しい?】

恋しい?のかな?

私が答えに詰まっていると、友達が勝手に話し出す。
【えー私韓国恋しくない、全然!】
【私も!ニューヨーク全然恋しくない!こっちの生活の方がなんかのんびりしてるんだよなぁ…】
【分かる。例えば韓国ではさ、授業出るだけでも教授に名前を覚えてもらえるように必死なんだよね、みんな。出席が成績に反映するんだけど、質問しないと出席したことにならないんだよ】
【それなぁ…ニューヨークも、毎日勉強に追われて、ストレスたまってた…まあ食べ物は恋しいけどね!】
【きゃーそれ!間違いない!あははははは!!】

日曜日。デンマークの警察博物館に行って、こっちに来てから初めてのアイスを堪能して、もう散々語り合ったのに、話が尽きないのが女子会というものである。
寮の部屋で、クッキング。
ハンバーグのいい匂いが立ち込める部屋で、国籍の違う3人は洗い物をしたり、焼け具合を確認したりしながらおしゃべりしている。

日本…恋しいのかな?

フライパンを握って、巨大なハンバーグが3つ、ぐつぐつしているのを眺めながら、私は考える。

食べ物は、取り敢えず恋しい。
これはもう間違いない。美味しいお寿司が食べたいし、きんぴらごぼうとか、ほうれん草のおひたしとか、お母さんのお味噌汁とか。

食べたいいいいいいいいい!

人も、恋しい。
みんなに会いたいなーとは思う。部屋に1人で居ると、日本の写真を見返してたり。SNSで友達同士が会っているのを見て、いいなぁと思ったり。家族にも正直会いたいし、私の愛するふわふわの妹(トイプードルです世界一可愛いです)にも会いたい。

でもホームシックかと言われると…今すぐ帰りたいとは思わない。

自分の居心地のいい場所を抜け出すって、不思議だ。


「えっコペンハーゲン来てるんだ?!」

ノルウェーに留学している友達が、コペンハーゲンに遊びに来ているという情報を聞いた今日。
私は時間を見つけて、彼に会いに行く。
電車でことこと揺られて、駅で降りる。コペンハーゲンの名所、ニューハウンに来るのは、これで3回目だ。

「うわぁ晴れたああああ!」

空を見て嬉しそうに大はしゃぎしている大学生の男子を見たのは久しぶりで、ちょっと笑ってしまう。

晴れて良かったなぁ。

空を見上げて、深呼吸。

40日目

到着したNyhavn(ニューハウン)は、やっぱり晴れという素敵な衣装がすごくすごく似合っていた。
おもちゃみたいなチマチマしたあどけなさもありつつ、心躍る滑稽さみたいなものがあって、かわいらしい。
そして、カラフルな建物の下で陽気にビールを飲む大人たちの賑わいは、まさに「コペンハーゲン」である。

私はここが大好きだ。

隣で写真をぱしゃぱしゃ撮っている友達を見て、私はここを自慢に思う。


自慢に思う場所に住んでるのって、素敵だなぁ。

青空の下、賑わいの中で、私はふと、そう思った。


自分の居心地のいい場所を抜け出すっていう経験を、した方がいい。

1年生の秋学期。先輩に言われた一言が、ずっと忘れられなかった。
本当に居心地のいい場所を飛び出してみると、人間の感情って1つにまとまらないというのを、とても、感じる。

恋しい。寂しい。怖い。不安。孤独。

嬉しい。楽しい。知りたい。希望。賑わい。

全部、心の中で共存している。


でも。なんだかよく分からない感情だけど。


ほのかな風が髪の間をすり抜けていく。がやがやした声。可愛い建物と、写真を撮る友達の背中を眺めながら、私はこう思った。

ここに来てよかったなぁ。

「ここ」っていうのが、デンマークなのか、コペンハーゲンなのか、留学に来て、という意味なのか、はたまた全てなのか。
私自身も分からないけれど。
今は素直に、ここに来てよかったと、心から思う。

1つにまとまらない気持ち。
それで、いいんだと思う。
一つ一つの感情が、ここに来てよかったと、思わせてくれている。


居心地のいいところを抜け出して、40日目。

【うーん恋しいのかもしれないけど、2人に会えて良かったな、とは思うよ】

女子会でこう答えたら、多分2人は【なんで急にそんなこと言いだすの】って言いながら、喜ぶんだろうなぁ
そんなことを1人で思って、私はちょっと、愉快な気持ちになった。