135日目 @ストックホルム

「えっこれ動画?」
「えへへへへそうだよ」
そういうと、スマホの中の3人はそれぞれに違う滑稽な動きをする

「あはは〜言ってよ〜」と言いながら右手を上げるちっちゃい真ん中
瞬き一つせず画面からゆっくりフェードアウトするショートヘア
2人をキョロキョロ見てから両手を開いてニヒと笑うぱっつん前髪

私の中高を彩った親友達が、デンマークに居る。
夢のようで、それだけで頬が緩む。私がここまでの留学期間、モチベーションにしていた大イベント。
片道11時間というフライト時間と大学生にはきつい金額をかけて会いに来てくれた3人に、楽しんで行って欲しい。

コペンハーゲンとストックホルムのゆるゆる4人の女子旅は、幸せな非現実感と少しのプレッシャーと共に幕開けした。

コペンハーゲンの王道、ニューハウン。
パレードのような賑わいを見せた衛兵交代。
まだクリスマスイルミネーションが残るチボリ公園。
女子の心をくすぐる北欧雑貨。

みんなのキラキラした笑顔を見ながら、自分の街を紹介していくのはとても楽しい。


問題は私も初めて行くストックホルムである。

135日目

「お腹空いたぁぁぁ」
「うわハンバーガー高くない⁈」
「デンマークとあんま変わんないね〜」
色気より食い気の4人は、ストックホルムの空港に降り立つなり席を見つけて腰をかけた。

バーガーを早々に食べ終わった私は、スマホを取り出す。
さぁて、まずは交通だ。

一番安い市内までの行き方を調べる。
直行バスではなく3デーパスを買って公共交通機関で行こう。
「色々ありがとねぇ」
せかせかしている私に綺麗な目でお礼を言う友達を見ると、頑張らねばと改めて思う。

中学一年生の時に出会ってから、約9年。
お互いのことはなんでも知っている。
なんでも話せて、素で大笑いできて、自分をさらけ出せる、一緒にいると安心する。

「一生の友達」の意味を知っているのは、私の強さだと思う。
そして、そういう人達に会えないという孤独を知ったのも、私の強さだ。

え、はーちゃん居るんだよ行っちゃおうよ
って航空券を勢いで買って
狭い安いホテルを予約して
バイトをたくさんして来てくれた。


喜んで欲しい、楽しんで欲しいと、本気で思う。


うーんと、あれ???
スマホでマップを見ながら、冷や汗をかく。空港から直行バスなら30分のところを、1時間半かかることになっている。

しまった…安さを気にし過ぎて正確な時間を調べずにこっちの経路で来てしまった…

ワイワイしている3人を見ながら、すまぬ、と心の中で謝る。
謝ったら、「いや全然大丈夫っしょ!!」と3人はまたワイワイするのを知っているから、敢えて言葉では言わない。私が気遣っていることを気遣ってしまう人達だと、私は知っている。

いや待って〜雨はやめてくれ頼む!!!

乗り換えの駅まで向かうバスの中、次は若干の雨模様に冷や汗をかく。

雨は!勘弁!!!

その想いは虚しく、バスが停車しても雨は細々と降り続けるばかりだった。

頼む〜やんでくれ〜。
乗り換えに向かう私はフードを被って下を見ながらただただ願う。

だから、

「うわぁぁぁぁぁ!!はーちゃん!見て!!!!!」
と3人が急に叫ぶまで、私はそれに気付かなかった。

「ん??」
振り返って、3人の視線の方向に目を向けて、言葉を失った。


綺麗なアーチ状に、7つの色が弧を描いていた。
見たことないくらい、美しい曲線。
色を数えられそうなくらい、はっきりと。繊細に。丁寧に。

中学1年生から約9年。幼かった4人は少し大人になって、同じアーチを下から眺める。

遠回りしてなかったら見られなかったね、本当にラッキー

1人がそっと呟いた言葉が、私の中でこだました。

遠回りしていなかったら、雨が降っていなかったら、この景色は見られなかった。
そして。
だからこそ、この景色はこんなにも美しいのだと気づける人達じゃなかったら、この感動は半減していたのだろう。


私が気遣っていることを気遣ってしまう人達だと、私は知っている。
でもそれ以上に、
一緒にいるだけで、素敵な思い出をたくさん作り出してくれる人達だと、私は知っていたはずだ。

60になっても70になっても80になっても、4人で一緒に居られますように。

見上げている3人を横目に見て、そっと願った。

アーチの奥に青い空が見えたので、この願いはきっと叶うのだろう。