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インターネットはイラストの何を変えた?『ネット絵史』刊行。

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BNN新社様より単著『ネット絵史』という本を出させて頂くことになりました。インターネットとイラストに関して著者目線で出来事や流れをまとめた。大げさに言えば歴史書になります。この記事では超ざっくりと本書の読みどころを著者目線で紹介します。(画像は本文、企業サイトからの引用です)

本書の目的は「イラスト文脈の補完」です。イラストはSNSでも大きなブームになってますが、それそのものに言及されている書籍はほとんどありません。過去に同人誌で近しいテーマを出版してきましたが、今回はより広い範囲で総括することにチャレンジしました。内容はすべて書き下ろしで前作よりも社会との関係にも大きくフォーカスを当ててます。

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私自身はプロのイラストレーターとしてフリーランス、会社員と活動しました。絵は描くことはもちろん、見ることも大好きです。2000年代前半の個人サイトブームでは1000以上のサイトをブックマークし、巡回にいそしんでました。同人誌即売会では参加するたびに100冊近い本を買い、自分でも本を作るなどとにかくイラストにのめり込んでました。pixivのフォローユーザーは4000人を超えましたが、このジャンルは衰えを知らず新しい表現や凄いクリエイターが日々生まれています。ネットは新陳代謝が激しく、昔のことはすぐに忘れ去られてしまいます。ネットは面白く、イラストは素晴らしく、絵描きの凄さを広く伝えていきたいのです。

イラストとネットの立ち位置

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pixivとTwitterという二大インフラによってイラストは各所に波及してます。イラストには力があり、素晴らしい作品を描くクリエイターは凄まじい人気を獲得できます。でもそうなったのって、とても最近のことだいうことをご存知でしたか?私と同じ30歳以上の方はご納得頂けるかと思いますが、イラストが人気を得てきたのはここ10年ほどで、それよりも前はごくごく一部しか仕事が来ない状況だったのです。

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第1章ではネット黎明期から個人サイト文化について語ります。90年代はwindows95からYahoo!ジオシティーズ、iswebなどの企業がネットインフラをリードしていきました。やがて2000年代に入るとお絵かき掲示板が花開き、SNSが大流行します。mixiがあり、pixivが生まれ、Twitterへと繋がります。艦これやアイマスのブームから美少女キャラクターを軸としたソシャゲが登場し、一気に市場を切り開き、それと同時にイラストレーターのニーズが爆発的に増えていきました。

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より具体的にいうなら90年〜00年代の趣味的なイラストと、近年は消費のされかたも大きく変わっているのですね。様々なバックボーンに触れながら今の潮流へどのように繋がったかお話していきます。

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第2章は現代の文化を創り上げたSNS、ニコ動、pixivを中心に当時のムーブメントをとりあげました。私も例に漏れずニコ動にはどっぷり使っており、特に初音ミクを中心としたぼは毎日ランキングで数十曲漁るなどのめり込んでいきました。

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第3章はイラストの職業レベルを引き上げたソーシャルゲームを中心に、現在の市場を形成していった出来事について触れてます。各種タイトルがつくりあげた販促スタイルや海外IPなど直近のイラストビジネスに関わることがメインです。

人が時代をつくる、歴史の証言

本書では各ジャンルの著名クリエイター6名にインタビューをして、それぞれの目線でイラストやインターネットについて語って頂きました。すごいざっくりと各所の読みどころまとめ。

redjuice

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初音ミク楽曲『ワールドイズマイン』、『ギルティクラウン』、伊藤計劃作品などのSF作品でも不動の地位を築いた。元エンジニアのキャリアから3D、ウェブに転向し、本格的にイラストの分野に切り込んだのは20代後半。ネットでのイラストブームの大きな立役者の一人でもあり、配信やツール提供など技術的を軸にしたコミュニケーションを積極的に行う。知名度の高い大御所作家ではあるが、会社所属という少し珍しいタイプでもある。

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refeia

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イラスト技法書『萌え絵の教科書』が大ヒットし、美少女イラストレーターの金字塔にもなった。『DLsite』のキャラクターデザインでも有名。古くはパソコン通信時代から活動し、SNS以前のコミュニケーションにも詳しい。サラリーマン経験を経て30歳からフリーランスに。エロゲの原画では量産を求められソシャゲではデザイン性の確保、その時々の要件から作風を探ってきた。現在は専門学校講師としても活躍し、若手の育成にも励んでいる。

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川洋

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平面的な美少女イラストとは別軸の厚塗り表現を持つ作家。ゲーム『ポケモン』シリーズのマップデザインや、同タイトルにおける海外版グッズのパッケージイラストなどを担当。世界中にファンがいる。90年代から個人サイトを開設し、イラストシーンを大きく牽引してきた。絵にかかわらず作曲やデザイン、漫画など様々なクリエイティブを発信するネットの遊び方は、多くのクリエイターに影響を与えた。

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BUNBUN

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ラノベイラストレーターの最強角。アニメ化もした作品に『結城友奈は勇者である』、『終末のイゼッタ』、『サクラクエスト』、別名義では『ソードアート・オンライン』など。イラストは実の姉である堀口悠紀子(アニメーター『けいおん!』のキャラデザ、総作画監督など)との関係や、ラノベ全盛期まで。

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米山舞

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業界でも屈指の技術力を持ち、イラストの他に、アニメーションやコンセプトアートなど様々な才能を発揮する。アニメの大御所監督からも注目される凄腕クリエイター。一方で個人サイト時代はめだった活動をしておらずいわゆる「ROM専」だった模様。当時は無数のサイトをひたすら巡回する「絵オタク」だった。

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寺田てら

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ポップな色彩とユニークなデザインで10代を中心に絶大な人気がある。ドイツ出身で11歳まで住んでいた。今ではニコニコ動画などの楽曲中心に活動しているが、子ども時代は「パソコンは1日30分」と制限された環境にあった。ネットを少し触ってそれを思い出しながら自由帳に落書きする毎日を過ごす。美術大学に進学し、漫画家としての活動もスタートした。

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クリエイターを支える企業

絵描きの活動は多くのインフラによって成り立っている。投稿サイトやツール、制作会社、同人イベント……。本書ではそれらを管理・運営するスタッフにどういう思いでクリエイターをサポートするのか、想いを聞いた。

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イラストSNSとして12年間トップに君臨する。創始者の馬骨氏とpixivの運営責任者であるのりお氏にインタビュー。今でもクリエイターのインフラであり経済活動においても重要な拠点だ。「ポップボード」や「10点評価」など古参ユーザーなら懐かしくなる話も盛りだくさん。

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コミティア実行委員会

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同人即売会はコミケだけではない。特に近年はSNSの影響で来場者数、サークル数共に顕著に増加している。30年以上の歴史を持つコミティアは当初から一貫してオリジナル作品のみを取り扱ってきた。メジャー(商業の二次創作)に対するカウンター的な側面は今も強く、漫画のみならずイラストファンの聖地にもなりつつある。

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セルシス
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セルシスの『CLIP STUDIO PAINT』アマチュアをはじめ、多くのプロクリエイターが使用している。創業当初は主にアニメ会社を中心にツール提供を行っていた。現在は3DやAIをはじめ、高度な技術を搭載したイラスト補助機能が日々開発・実装されている。

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MUGENUP

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ここ10年のイラストブームを作り上げたのは間違いなくモバイルプラットフォームを中心としたゲーム市場だ。MUGENUPはゲーム開発とイラストレーターをつなぐ制作、編集を主とした会社である。社長の伊藤氏、営業の村瀬氏を中心にこれまでの業界の変遷と、今後の市場の行方を伺った。

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資料・データ

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本書にはpixivからの協力の元、投稿ユーザーなどのマクロなデータを掲載してます。内容は『pixiv archive 2007-2017』の再録です。

というわけで買ってください。


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