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『枠(フレーム)の向こう側を見つめていた』 (ex1)不思議な葬儀屋さん/ 小室準一

※全て無料で読めますが、今後の活動費に当てさせて頂きますのでよろしければご購入も頂けますと嬉しいです。

〈2020年大晦日の午後〉
 いつもなら買い物から帰って来ると「にゃあ」と出迎える茶太郎。
 しかし、しんと静まり返った我が家。
 やっぱり駄目だったか・・・

 茶太郎はチンチラゴールデンの雄猫。
 童顔で小柄だったのでついつい13歳(人の年齢で68歳ぐらい)ということを忘れていました。

 今にして思えば、そしゃく力がもともと弱い子で、それが原因で体が大きくならず、虚弱体質だったのかもしれません。
 春ごろからドライフードを嫌がり、柔らかい食事にしていたのですが、ここ数日は水しか飲まなくなり、無理やりミルクを飲ませて命を繋いでいる状態でした。

 見るからに弱っているのは分かりましたが、彼は頑固で野性味の強い子でしたから、私たちから逃げるように目に見えないところに自らの死に場所を求めている風でした。
 大晦日の前の晩にはもう駄目だろうと覚悟を決めていたのですが、朝起きたらまだ小さな体が私の声に反応しているのが分かりました。

 正月用の買い物があったので、私たち夫婦はその日の午後、ちょっとの時間外出しました。
 彼はそのちょっとの間を見計らった様に亡くなったのです。

 帰ったらトイレの横で息絶えていました。
 まだほんのり体温を感じられるくらいで、穏やかな顔でした。
 カミさんが、トイレの横にわずかにおもらししていたのを見つけ、「最後の力を振り絞って頑張ったんだね、いい子だったね」と、温かいタオルで体を拭いてあげました。

 大切な家族が逝ってしまった・・・寂しさで胸が締め付けられました。

〈2021年正月2日・快晴〉

 穏やかな日差しのなか、1台の軽トラックが我が家の玄関先に止まりました。
 茶太郎の火葬は移動火葬車をお願いしたのです。
 遺体を預けると、葬儀屋さんは丁寧にお辞儀をして車を出発させました。
 ここは住宅地なので、人気のない場所で荼毘に付して小1時間で戻ってきます。

 骨壺の受け取りの時際、葬儀屋さんの切り出した言葉に驚きました。
「私にはある種の霊感があるのですが・・・こういうことを言うと嫌がる人もいるので普段はあまり言わないのですが・・・」
 カミさんは一瞬、霊感商法か!とひいたそうです。

 すると、
「私は今日、ここに呼ばれてきました。私がここに着いた時、3つの気配を感じました。」
 えー!

 実は我が家では茶太郎の前に、2匹のチンチラシルバーを見送っています。
 葬儀屋さんは「茶太郎が「3匹目」とは知らないはず。

 また、人柄も実直そうな方だったので、始めは半信半疑だった私もついついその話に引き込まれていました。

「私には見えました。この子はずっと笑顔でしたよ。可愛がってもらっていたのが分かりました。」

 あぁ・・・

 全身の力が抜けてゆくような、暖かいものがこみあげてくるような・・・

 私はそれまでも、いままで見送った子たちに「はたしてこの子はこの家に来て幸せだったのだろうか?」と自問自答していました。

 それは、言葉は通じなくとも心を通わせた何かと生活を共にしたことがある方ならば、誰しもが感じることなのかもしれませんが。
 だからこそ、その言葉にはとても救われる思いでした。

「しばらくは足音が聞こえたり、不思議なことがあるかもしれませんが」

 これにはカミさんも私も納得しました。そういうことがこれまでにも度々ありましたから。

「また生まれ変わって訪ねてくるかもしれませんよ」
 そう言って丁寧にあいさつすると、不思議な葬儀屋さんは去ってゆきました。

 わたしは神仏の類は信じない俗物なのですが、「後悔の念」や「不安」などを霊的なものや宗教が和らげてくれるのであれば、これは大切な事なのだとこの年になって初めて納得しました。

 そして、「四十九日までお茶をお供えしてください」とのことでした。
 今も、ビデオを観ながら故猫をしの偲んでいます。

 合掌

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【 小室準一(こむろ じゅんいち) プロフィール 】
映像ディレクター。
1953年(昭和28年)生まれ
1976年、千代田芸術学園放送芸術学部映画学科卒。
シネフォーカス、サンライズコーポレーション制作部などを経て、1983年よりフリーに。
1995年、有限会社スクラッチ設立。
https://scratch2018.jimdofree.com/
番組、PRビデオ、イベント映像、CM、歌手PVなど多数手掛ける。

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