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児童書がいちばん自由にのびのびと、書きたいものが書ける|如月かずさ(児童文学作家)【後編】AnoMartsインタビューvol.6

「給食アンサンブル」を読んで驚いたのは、主人公が一人ではないこと。正確に言うと、オムニバス形式でクラスの仲間それぞれが主人公になり、脇役になるのです。家族に守られて自分が中心の小学生時代から、中学生になると友達との複雑な人間関係を築くことになります。それは成長でもありますが、悩んだり葛藤したり、カーストなんてものに巻き込まれてしまうこともあるかもしれません。
 スポーツができる子や、勉強ができる子ばかりにスポットが当たりがちな現実もあります。でもそんな時でも、如月さんの目線はどんな子がいてもいいよと、童話が好きだったり、百人一首が好きな子や、吹奏楽をやっている子など、みんなにスポットを当ててくれます。これを読んで勇気づけられる中学生がどれだけいることか。
 このいろんな子にスポットが当たっているところにも、如月さんの「あわい」の存在をいつも大切にされている思いを感じました。後編では「給食アンサンブル」を中心に、幼年童話や作家になろうと思ったきっかけなどをお聞きしました。

>>前編はこちら



『給食アンサンブル1、2』飛ぶ教室の本(光村図書出版)
あらすじ:給食をテーマにクラスメイト達のそれぞれの人間模様が描かれるオムニバス作品。転校生もめだつ子もおとなしい子もふざけている子も、それぞれに抱えている背景が丁寧に描かれます。まるで自分がクラスメイトの一人になったかのように、登場人物達が身近に感じられる中学生達の物語。


画一的に描かれがちな彼ら・彼女らの悩みや
繊細な心の揺れもしっかり描くことを心掛けました。

●給食での思い出などはありますか?

 給食が好きで、おかわりも結構していました。『給食アンサンブル』の題名になっているメニューは、だいたい私の好物ばかりです。逆に納豆は大の苦手で、翌月分の献立表が配られるたびに、まず納豆が出ないかハラハラしながらチェックしていました。小学校時代は、給食に納豆が出る日は学校に行きたくないと思うほどでした。

●メニューと生徒のキャラクターがリンクするようになっています。その組み合わせはどうやって考えましたか?

 メニューのアイデアが最初にあって、そのアイデアを出発点にキャラクターを生みだした作品もあれば、主役やストーリーが先に決まっていて、それにぴったりの給食を選んだ作品もあります。前者は「ミルメーク」や「アーモンドフィッシュ」、後者は「マーボー豆腐」や「クリームシチュー」などがそうですね。

●そうだったんですね。そのエピソードを読み終わると、キャラクターとメニューがぴったり合っていて、なるほど!と納得する場面がたくさんありました。
 あまり大人が登場しないのはどうしてでしょうか?学校が舞台の物語では子供達と対立する存在、または導く存在として先生や親などの大人が登場しますが、この物語ではあまり出てこない気がしました。

 それは純粋に、大人を絡ませたほうが物語がおもしろくなるかどうか、という判断によるものだったのではないかと思います。『給食アンサンブル』シリーズでも、「ABCスープ」のラミレスや「アーモンドフィッシュ」の辻井先生のように、導き手というか、助言をくれる立場としての大人はところどころで登場しますよね。
 単純な敵対者としての教師といったキャラクターにはあまり魅力を感じなくて、積極的に登場させようとは思わないので、登場頻度が少なめに感じられるのはそのせいもあるかもしれません。

●一人一人を掘り下げた短編を連ねて一つの大きな物語にしようと思ったのはどうしてでしょうか?全てのキャラクターの良いところと、悩んでいるところが描かれていて、みんなに優しい目線を向けているのが素敵だと思いました。

 『給食アンサンブル』はもともと季刊誌の『飛ぶ教室』の連載作品で、すべての読者が毎号読んでくれるわけではないので、続けて読んでも1話だけ読んでも楽しめるように、基本は1話完結だけど各話につながりのあるオムニバス形式の連作短編という形にしました。
 せっかくオムニバス形式にしたので、人気者やスクールカースト上位の女子など、主役に選ばれにくいタイプのキャラも主役に選んで、画一的に描かれがちな彼ら・彼女らの悩みや繊細な心の揺れもしっかり描くことを心掛けました。



信じるものを妥協や加減はいっさいせず
全力で形にして読者に届けようと心掛けています

●『ミッチの道ばたコレクション』(偕成社)『なのだのノダちゃん』(小峰書店)など、幼年の児童書も書かれていますが、YA的な物語との切り替えや工夫はありますか?

 幼年童話を書くときもYAを書くときも、特に意識の切りかえなどをすることはありません。例えば低学年向きの作品なら、主人公を低学年くらいの年齢にすると、物語の内容も文体も自然とその年齢にぴったりのものになります。ただ、どのグレードの物語をつくるときも、自分自身が「これは絶対におもしろい」と信じるものを、妥協や加減はいっさいせず全力で形にして読者に届けよう、ということは常に心掛けています。

●児童文学作家を目指したきっかけを教えてください。

 小さいころから物語を想像するのが好きで、自然と将来は小説家になりたいと思うようになっていました。小学校時代は児童書を読んでいたので、児童書作家になることをぼんやり夢見ていましたが、目指すジャンルは中学時代にミステリに変わり、高校時代にはライトノベルになりました。ところがいくら頑張ってもライトノベルを書くことができないので、あるときジャンルにこだわらず、書きたいものを書いてみようとしたところ、完成した作品は明らかにライトノベルではなく児童書に近いものになったので、児童書の新人賞に応募を始めて、児童書作家としてデビューをすることになりました。いまでもミステリやライトノベルは大好きですが、自分にとっては児童書がいちばん自由にのびのびと書きたいものが書ける最良のジャンルだと思っています。

●これまで、読んできた本で子ども達におすすめの本があればいくつか教えてください。

 私が読書に夢中になり、本気で小説家を志すようになったのは、中学時代に出会ったロバート・B・パーカーの『初秋』という小説に感動したのがきっかけでした。『初秋』はウイットに富んだタフガイの私立探偵スペンサーが、事件を通じて知りあった15歳の少年を預かることになり、生活をともにするなかで、家庭環境のせいで鬱屈していた少年を自立へと導いていくという物語です。ハードボイルド系の探偵小説ですが、15歳の少年の成長を描いたYA的な要素もあります。暴力描写や性的な描写もあるので、そんな作品を子どもにすすめるなと怒られそうですが、中学生以上の皆さんにはぜひおすすめしたいところです。
 ほかに最近の児童書では、東曜太郎さんの『カトリと眠れる石の街』(講談社)と蒼沼洋人さんの『波あとが白く輝いている』(講談社)は特におすすめです。先日講談社児童文学新人賞を受賞したまひるさんの「王様のキャリー」も、とびきりさわやかな友情物語で非常におもしろいので、出版されたらぜひ読んでみてください。

●これから、チャレンジしてみたいことなどはありますか。

 児童文庫にはいつか挑戦してみたいと思っています。また、キュートな物語を書くのが大好きなので、動物キャラが主役の童話なんかも、もっといっぱい書きたいですね。ほかにも書きたい物語のアイデアはいろいろあるので、書けるチャンスを狙っています。

●新刊などの予定はありますか。

 12月にPHP研究所から『まほうのアブラカタブレット』が発売されました。タブレットを使った授業中、魔法のアプリ「アブラカタブレット」を見つけたいたずら好きの少年が、そのアプリを使って大騒動を巻き起こす愉快な幼年童話です。また、新刊ではありませんが、来年度から使われる光村図書の小学3年生の国語の教科書に、「春風をたどって」という童話が掲載されます。こちらは新学年のスタートにぴったりの、「身近な発見」をテーマにした、かわいらしいリスたちが主役の物語です。

プロフィール
児童書作家。『サナギの見る夢』(講談社)で講談社児童文学新人賞佳作、『ミステリアス・セブンス─封印の七不思議』(岩崎書店)でジュニア冒険小説大賞、『カエルの歌姫』(講談社)で日本児童文学者協会新人賞を受賞。その他の作品に「なのだのノダちゃん」シリーズ(小峰書店)、「ミッチの道ばたコレクション」シリーズ(偕成社)、「給食アンサンブル」シリーズ(光村図書出版)などがある。


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