研修医がロンドンに大学院留学して解脱するまで Ep.8 Term1の内容

私の入学したMScコースは1年間、3Termsであり、うち2Termは授業中心、最後の1Termは研究プロジェクトという構成であった。

Research Project テーマ決め

オリエンテーション終了時に、Research Projectのテーマ決めが始まる。
Institute of Neurologyの研究室それぞれが、MSc学生に任せられる研究課題をコース担当者に事前に提出しているので、学生はそのリストの中から興味のあるテーマを選び、指導教員に連絡するという流れだった。私の興味のある分野は臨床寄り、しかもニッチな分野だったので、選択に関して迷うことはなかった。指導教員と何度か面談し、競合もなく研究テーマを決定することができた。

印象に残ったのは、指導教員と学生との間に、契約書を交わす決まりになっていたことだ。学生はきちんと期限通りにドラフトを出すとか、休暇の時期をきちんと連絡するとかを約束し、教員もきちんとした指導をしたり、必要なリソースを提供することを約束する。

私は大学時代に研究室に通ったときに「教員の連絡がつかない」とか「買ってもらえると約束した機材が買ってもらえない」とかトラブルに見舞われたことがある。どこでも研究室は密室になりがちで、立場の弱い学生は教員に振り回されがちだと思う。そのため、このように指導関係に関して明文化された最低限のルールがあることは素晴らしいと思ったし、日本の大学でも行われるべきだろうと思った。

講義

Term 1の講義は大きく3つだった
1.Basic Neuroscience and Investigation of Nervous System (必修:神経科学一般)
2.Introduction to statistics and research methods(必修:統計学や文献の評価の仕方)
3.Peripheral Nerves and Associated Diseases (選択科目:末梢神経系)

1.の神経科学一般の授業は、分子細胞生物学、神経生理学などから、臨床一般、臨床研究など本当に様々なテーマの講義があった。
授業の難易度:講義を担当しているのはそれぞれの研究分野のPIレベルの先生方で、講義の内容は非常にレベルが高く。その分野の歴史や方法論全体への理解がある先生方のお話だったので、教科書の内容をなぞるような講義ではなく、とても面白いものが多かった。自分の理解が貧しい分野の授業だと、英語が分かっても呪文に聞こえるほど専門性が高かった。事前にリーディングリストが配られているので、必要があれば事前に勉強して臨むことが可能な仕組みではあった。

2.Introduction to statistics and research methods
この授業自体が ①医学統計②論文抄読 の2部構成になっている。
①医学統計は医学統計の講義と、Stata(統計ソフト)を使った実習だった。授業のレベルは割と平易であり、私が学部で受けた授業と同じレベル~それよりも簡単なものだったが久しぶりだったので良い勉強になった。心理学出身の学生たちは一様に「レベルが低い」と不満を持っていたようだった。心理学は確かに形のないものを測って語るというもので、高度な統計学の技術が必要なのだと察した。
②論文抄読は、事前に指定された論文を授業で一緒に評価するというもので、主に大学院生が授業を担当していた。論文をクリティカルに読む技術を身に着けることを目的としていた。授業の内容は大学院生のレベルによってムラがあるように感じた。

3.Peripheral Nerves and Associated Diseases (選択科目:末梢神経系)
私が将来進みたいと思っていた分野(麻酔科)で、神経ブロックや慢性疼痛の治療を行うので、この末梢神経のモジュールを選択した。外傷、化学療法、全身疾患など様々な原因での末梢神経障害とその治療について講義を受けた。また末梢神経に限定した分子細胞生物学(とくに髄鞘化のメカニズム)や生理学(跳躍電動の詳しいメカニズムなど)について、今まで知らなかったことをたくさん知ることができて楽しかった。選択科目なので10人程度の少人数であり授業の雰囲気がとても良かった。

全体を通して

専門科目に関しては、個々の授業のレベルはすごく高いと感じた。講師陣も各分野で最先端の研究をしている人たちで、授業の内容が良かったのはもちろん、彼らの研究に対する姿勢や思考方法を講義全体から感じ取れることは、素晴らしい経験だと感じた。欠点としては、授業間のコーディネーションが悪く、内容の重複や非効率的な授業展開(同じトピックの中で臨床のあとに基礎など)が散見された。

Introduction to statistics and research methodsに関しては私が力を抜いて出席していたので評価は省略とするが、stataのワークショップは楽しかった。

大学の図書館にあった像

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