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給与を倍にするとどうなるのか?

ふと思った。中小企業の経営は2局化している気がする(ただの肌感)。万年赤字の企業や超債務超過の企業はムリとしても、結構利益を出せている企業も多い。経常利益で10%なんて企業もチラホラでるのは、中小企業ならではご愛嬌。そんなに利益が出ていて、その金をどうするのか?
当然、経常だから、ベンツも買って、海外視察にも行き倒して、それでも残った利益なわけで、その利益の4割は清き納税となる。
まあ、それはそれで悪い話じゃないが、経営者の皆さまは口を揃えて言う。「人が取れない、定着しない」。だったら、そのキャッシュを人材確保と定着に充てたらどうなのだろう?
すると、これも定番、「エージェントに年間◯百万円払ってる」と。じゃあ、なんで人が増えないだ?
さらに定番、「入るんだけど、1ヶ月もたい」。それってエージェントのサクラじゃないの?サクラならまだしも、エージェントの転職スカウトだったりして^_^

10年近く前になる、まだ景気の良さなど体感できないころ(今でもできないが)、とある業界がプチバブルだった。理由は国内から中国に多くの生産が移され、親会社と一緒に海外に出る体力のない会社は潰れた。
懐かしい時代だ。親も子も孫も一家浪党揃って中国をユートピアとし、それを政治や民意が後押しした時代があったのだ。
ところが、安いメッキは耐久性がない。5年も経ったころ、現地生産品の品質に問題があることに気づき始める。その頃には、国内のその業種はことごとく潰れ、仕事を受ける先がなく、生き残った企業に仕事が集中した。だからといって言い値で受注できるわけではないのが面白い、あくまで「ほんのちょっと交渉力が生まれた程度」。
リーマンショックの傷も癒えない頃ゆえに、世に中は人材を採用するような雰囲気ではなかったが、その業界はそれでも人が来ないという絶賛不人気業種。その仕事に就くくらいなら派遣の方がマシというイメージか。
そんな中出会った社長は、「人には困っていないし、困ったこともない」と言った。失礼ながらと、「こんな不人気業種でなぜですか?」と聞くと、答えは単純、業界の給与の1.5倍の給与で求人していた。1.5倍だ、20万なら30万、40万なら60万、60万なら90万、少し揺らがないだろうか。そう、同業他社、類似業者に勤める者は、これ以上なく揺らいだ。結果、人には困らなかった。

今時は1.5倍くらいじゃムリだろうなぁとか思いながら、じゃあいくらならいいのか?と考えた。輸入品や海外旅行などの為替影響なども含めて、体感物価は倍になった(あくまで当社比)、だったら給与も倍払ったらどうなるのか?
賃上げをしようかなぁ〜などと言うと、税理士さん、社労士さんに全力で止められると言う光景は、もう平成時代の遺物になっているのだろうか?
確かに、給与が少し上がれば、社会保険料は爆上がりするし、一旦上げた給与を下げるのは難しい。社会保険料倒産という言葉も生まれたくらい社保負担は思い。とはいえ、社会保険料半分は「預り金」であり、それを含めて払えないのであれば、預かった金に手を付けたことになり、それは別の問題が生じるため、純粋に同情はできない。
税理士さんや社労士さんが賃上げに躊躇するのは、中小企業の収益が不安定で、利益剰余金が潤沢でないことが理由である。大企業は経営破綻してもなんだかんだで救済されるが、中小企業は経営者が全責任を背負わされて倒産する。経営者の個人資産を担保に入れ、連帯保証人になっていれば、会社の倒産=自己破産で、無一文で社会に放り出される。このような悲惨な結末のトリガーになり得る賃上げを、税理士さんや社労士さんは必死に止める。それはそうだ。そんな会社を山ほど見てくれば、心配も当然のことと言える。
じゃあ、今の時代に賃上げをしないという選択肢はあり得るのか?
超売り手市場の労働市場において、他社が総じて賃上げを行うならば、賃金キープは実質的な賃下げと同様の効果を得る。新規に雇用ができないだけでなく、既存の従業員も他社に奪われるのを待つだけとなる。
では、他社並みにジワジワと賃上げをすれば良いのか?これは日本企業が一番好きな無難な選択(実質選択を先送りにするという選択)。これは、元々の企業体力のある会社には有利で、そうでない会社はただの当て馬にされることになる。弱い企業が中途半端な賃上げでジワジワ弱れば、同業他社は買収評価額が下がって喜ぶだろう。

とここまで考察してきて、いっそ二倍に給与を上げたらどうなるのかを考えることにする。
製造業、売上2億2千500万円、販管費内の給与・賞与・法定福利費の合計は2800万円、製造原価内の同費用は2900万円であり、合計で5700万円の給与・賞与・法定福利費の支払がある。これを単純に倍にしてみると、販管費分は5600万円となり、営業利益が2200万円から△600万円へと赤字転落、さらに原価分を加えると△3500万円と大幅な赤字となる。この数字ではさすがに継続的な経営は難しそうだ。さらに言えば、現状の人員体制で売上が6億近くにならなければ給与倍は無理だろう。つまり付加価値が十分醸成できていない。言い換えれば売値が安い。
一方で、卸売業、売上80億円、給与・賞与・法定福利3300万円の場合、これを倍にして6600万円としても、1200万円の営業黒字となる。ただし、業種柄売上の振れ幅が大きい点には注意が必要であり、給与を倍にして付加価値を向上できなければ苦しい展開となりそうだ。
このように、業種や規模によって異なるが、給与倍は一概に夢物語とも言えないのではないか?

ただし、賃上げとその効果には注意が必要で、人は給与800万円を上限に給与と幸せの相関が無くなるという研究がり、多くの「幸せな仕事セミナー」で語られているが、この研究結果には疑問が呈されていることを説明する講師は少ない。
800万円までは給与の上昇とともに幸福度が高まり、800万円で打ち止めとなるのは、あくまで一般的な労働者のケースであり、成長に対するモチベーションが高い人間は、給与と幸福度の相関度は800万円を超えても続いていくのである。
つまり、800万円で逃げない人員は漫然と仕事したい人であり、それらの人はあまり高い付加価値やイノベーションに寄与はしない。一方で、高い付加価値の醸成や継続的なイノベーションを期待するのであれば、アッパーなし成果に応じた報酬を払うことが求められる。

会社としては、労働者が何を求め、将来的にどうしたいのかをヒアリングし、それに沿ったキャリアパスを作ることで、給与面と併せて満足度を高めることが必要である。
ここ数年で急速に副業が解禁された。難関な資格や高度なスキルを持つ人にとっては、副業は自らの人生の実現の一助となるのだろが、製造業に従事する人が、夕方と土日にアルバイトをしたり、セドリにいそしんだりすることは、果たして副業と呼ぶのだろうか?
前者の場合は、機会や経験の拡大が可能であり、年収の増加やリスクヘッジなども可能となるため、労働者にとっては悪くない提案だ。ただし、後者の場合は、会社で残業した方が時間単価も高く、効率的に収入を増やせるため、副業を理由にした会社の逃げととられる可能性もある。

さて、ここまで考察してきて、給与2倍は完全に現実離れしたアイディアとも言い切れない。だが、それは対象となる職種に対して適切な給与を提示することが最適解だろう。800万円でワークライフバランスを適切に保つことを望む層には、それに即したキャリアプランを。働き方や場所、時間にこだわらず常に新しい知識や経験を得て、それを仕事にフィードバックする層には上限のない待遇を。各自が自分で選んで決めることが重要であると考える。
社内の給与体系を一本化することで、社内の人間関係を良好に保つなどとう幻想は平成時代に置いてきたほうが良い。要は、時間を売る労働者なのか、価値を売る労働者なのかにより、賃金の体系は異なるべきであり、日本人が大好きな横並びではもう持たない。

タイトルから少し逸れてしまった感はあるが、「給与倍」というのはインパクトのある響きであるが、450万円の給与が倍になっても900万円と、大企業に届かない悲しい実情もある。副業解禁の流れが加速すれば、「稼げる個人」はフリーランスとして頭角を現し、そうでない者は引き続き時間換算の給与で仕事をすることになる。国民総個人事業主とは、響き以上に残酷な構想だろう。
これを先どっていた業界は建設業界である。職人は皆、一人親方と呼ばれる都合の良い個人外注だ。もちろん厚生年金にも社会保険にも加入していない。やっと最近になって関係省庁も重い腰を上げ、この問題に向き合おうとしているが、これがなんとも時代と真逆で面白い。
建設業は雨なら休み、一方で工期が間に合わなければ遅くまで工事もするし、守れない崇高な安全手順のために危険な作業も強いられる。それでいて会社には所属せず、あくまで外注。仕事を貰う元請けは1社である場合も多い。これは体の良い労働力の柔軟化だ。まあ、その昔は出稼ぎ労働者も、流れ者も多い時代だったから、お互いにうまく機能していた面もあるだろう。

知的労働層が皆フリーランスとなったとき、会社の労働コストは給与倍どころではなくなるのではないかと少し心配する。今回は、唐突に給与は倍にできないのかをテーマに、下記進めながら実際に考察してみた。これからは確実にシュリンクする労働市場で、労働者を獲得できなければ買収されるしかない時代となる。それでも経営者が動かないのは、彼らが経営者ではなく現場の親方に過ぎないからだ。中小企業経営をあまり甘く見てはいけない。本業をみっちりやったあとの片手間でできるほど甘い仕事ではない。

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