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「きみと、波にのれたら」の主題歌を何故口ずさみたくなったのか

水と歌、それは湯浅政明監督の作品「夜明けを告げるルーの唄」でも描かれ、彼の好きなモチーフのひとつなのかもしれない。ルーにおいては画のパワーが強い一方、ストーリー展開をとっつきにくいと感じていた。その点本作「きみと、波にのれたら」は頑丈なストーリーの上で、生き生きとした水が描かれるため、かなり触れやすいだろう。

あらすじ

消防士の港と大学生のひな子は、ひな子の住んでいるマンションが火事になったのをキッカケに出会い、ひな子はサーフィンを港に教えるになるのだった。二人は惹かれ合い、将来を意識するようになる。ある日港は一人で海に出かける。その時ジェットスキーで遊んでいた人が海に転落し、港が助けに向かうが、彼は帰らぬ人となった。気が沈んだひな子だが、港の妹の洋子と港の後輩山葵とカフェで話しているとき、港とよく聞いた歌が流れる。思わず口ずさんだとき、コップの中の水に港の姿が浮かんだ。

気に入ったところ

この物語の好きなことは物語の緩急がハッキリしていたところだ。最初は二人の出会いからラブラブなシーンを30分ほどかけて描かれる。正直長い。だがここであったことが後によく出てくし、物語の三分の一ほど費やした絆だからこそ、死という急落が映えるともいえる。

物語はどん底まで落ちるが、歌を歌えば港と水の中だけだが会えるし話せるとなったら流れは一変。ひな子は水筒に話しかけるし、水の入ったイルカの浮き輪と電車に乗る。物語はどこまでも持ち上がっていき、どこまでが現実なのか、それとも彼女の妄想なのか区別のつかない水を使ったシーンたちは、どん底から一気に持ち上がったひな子とシンクロしてて見てて没中感が心地よかった。

だけど持ち上がればいずれ下がらねばならぬ、彼女は見なければいけない現実を突きつけられ、再起への道へ一歩づつ歩み出す。だがそれでも忘れられない悲しみがある。壁にぶつかったその時事件が起こり、物語はクライマックスへ向かう。

物語が上がったら、下がり、下がったら水を使った豊かな映像で一気に上げていく。そして30分使って見せた出来事を残り一時間で活用していく構成。忘れたころにアレかと来るのところはオッと思う。しっかりした物語のコントロールにイキイキした映像、それがコレ良い所だった。

気になるところ

港くんが過剰イケメン。詳細は省くがいくらなんでもイケメン過ぎると親近感が湧きづらい。彼女であるひな子以外に後輩の山葵、妹の洋子にとっても憧れの存在であり、彼はそういう要素を担う存在ではないという点はあるだろうが。

物語に意外性がなくこじんまりとしている。触れない人々とコミュニケーションがするのが当たり前の時代で、自分だけが話せる幽霊とはそれと何が変わるのであろうか、みたいな意外な展開はない。意外な展開がないのは当然を積み上げたそれだけ強固なストーリーだし、丁寧に出来事を回収し結果をおこしていく様はとても気に入っている。

だが物語が小さくまとまりすぎてるきらいがある。この物語は良くも悪くもひな子が再び波に乗るストーリーだ。他のメインキャラ洋子と山葵にも、物語はあるが中心から外れている。少し物語のネタバレになるのでふせったーを使わせてもらう。

ただそういった方向に向かうと物語の形が大きく変わり、揺らいでしまうかもしれない。

そういった点はあるが、物語と映像がガッチリかみ合い、見終わった後二人がよく歌っていた主題歌を口ずさみたくなるような映画である。ルーのような尖った点はないが、その分丸く安心して見れる。そういった水と歌の世界に足を踏み入れてみてはどうだろうか?

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