ディープテック × フェムテックがブルーオーシャンになるのではないか? #卵巣の老化スタートアップ編

こんにちは、ANRIの川口(@_nashi_budo)です!
前回のブログから引き続き、最先端の科学技術がベースのフェムテック領域がブルーオーシャンなのではないか?というお話をしたいと思います。不妊の原因となる卵巣の老化治療の領域にチャレンジするスタートアップに焦点を当ててみます。

少し脱線しますが、先日Femtech Community Japanのイベントにて、このnoteでご紹介する内容を少しお話する機会をいただきました。Femtech Communit Japanは、Femtech関連のビジネス、プロダクト・サービス推進のために幅広く関係者がつながり、議論・情報共有・ネットワーキングおよび情報発信などを行っていくエコシステムの実現を目指す社団法人です。フェムテックに関して、noteXで情報発信をしているので、ぜひチェックしてみてださい!


お話しを戻します。
米国を中心に卵巣の老化を遅らせることで生殖年齢の延長を目指すスタートアップが出てきており、その代表例としてGameto, Oviva therapeuticsが挙げられます。

卵巣の老化を食い止めるNYのスタートアップGameto

Gametoは、細胞工学技術を用いてiPS細胞から女性生殖系のオルガノイドを作成し、女性生殖疾患に対する細胞治療を開発するスタートアップです。これまでに卵巣様オルガノイドを作製して、生殖細胞の成熟・卵胞形成・ステロイド形成のサポートを含む卵巣機能を再現することに成功しており、iPS細胞から作製した卵巣支持細胞を用いて卵巣の老化を食い止めることに挑戦しています。

Co-founderかつCEOである Dina Radenkovicの前職はSALT Bio Fundのパートナーであり、King’s College LondonとBuck Institute for Research on Agingの研究員でもありました。老化について研究していたRadenkovicはある時、人間の健康寿命を延ばす、あるいは寿命にわずかな影響を与えることを期待して開発されている治療法が卵巣にはるかに大きな影響を与える可能性があることに気づきました。卵巣の老化を促進する経路は全身の老化を促進する経路と似ている一方で、卵巣において進行がより早いことに注目したのです。彼女自身がキャリアとプライベート(出産、育児)とのバランスについて考え始めたタイミングであったため、このテーマは彼女の個人的な関心とも重なりました。「医学の学位は持っているし、自分のバイオテクノロジー企業を立ち上げたい。しかし、パートナーもいない...この問題を科学的にどう評価したらいいのだろうか?こんなことを考えているうちに、私はこの問題に取りつかれたのです」とRadenkovicは述べています。そんな時、米国最大の不妊治療クリニック・チェーンPrelude Fertilityの創業者であるMartin Varsavskyと出会い、ちょうど彼も卵巣細胞を再現できないかということを考えていたため、彼女と意気投合したのです。そして、Martin を会長としたGametoはHarvardのGeorge Churchラボとスポンサー研究契約を結び、活動を開始しました。

「閉経は人類と4種類のクジラだけに起きる現象で、進化の上で『必然』ではない。閉経年齢を遅らせることができれば、女性の健康寿命を延ばせる。」というRadenkovicの考えに基づき、現在GametoではFertilo、Deovo、Amenoの3つのプロジェクトに取り組んでいます。Fertiloでは、iPS細胞から作った卵巣支持細胞を用いて卵子を体外で成熟させることで、負担の大きいホルモン注射なしで卵子の生存率を向上させることができる方法の開発に取り組んでおり、現在、米国や海外の不妊治療クリニックと提携して卵子の成熟率や品質を比較する前臨床試験を実施中です。Deovoでは、これまで女性を対象とした医薬品試験が十分行われていないという課題に取り組むべく、女性の生殖器官を再現したオルガノイドを用いて、女性の生殖器系を対象とした治療薬の開発や薬剤の安全性試験を行なっています。さらにAmenoでは 脳と卵巣からのシグナルに反応してホルモンの分泌レベルを調整することにより、更年期障害を減らす細胞治療薬の開発に取り組んでいます。2022年に約50億円近くの大型資金調達を行っており、今後の進展・展開が期待されます。

卵巣機能の改善を目指す創薬スタートアップOviva therapeutics

2021年に設立されたOviva therapeuticsは、抗ミュラー管ホルモン(AMH)を利用した薬剤により卵胞形成を制限することで、卵巣予備能の減退を防ぎ、卵巣機能と女性の健康寿命を延長することに挑んでいます。
 AMHは卵巣内で成長卵胞の顆粒膜細胞によって産生され、ミュラー管の退縮を誘導することにより男性の性分化に関与するホルモンであり、16歳までは年齢と共に増加して25歳でプラトーに達し、その後は年齢と共に減少していくことが知られています。血清AMH値は潜在的に排卵可能な成長卵胞の数と強い相関があるため、卵巣予備能のマーカーとして注目されています。

マサチューセッツ総合病院の小児外科研究所長である Patricia Donahoeは、AMHやその作用を模倣する薬剤は、女性が毎月約1,000個の卵子を自然に失っていく現象を遅らせたり停止させることさえできると考えていました。チームは、マウスモデルにおいて、卵母細胞が成熟する卵巣卵胞の初期発生を止めるためにAMHを使用し、化学療法による損傷からこれらの始原卵胞を守ることに成功したことを報告しています。Donahoeの弟子である、ハーバード大学医学部(HMS)の外科助教授David Pepinは、「AMHは卵胞発育の初期段階を阻害するものとして長い間示唆されてきましたが、このプロセスを完全にブロックしたことは予想外で、このホルモンの新しい用途を多数開拓する成果だ」と述べています。「現在知られている女性の生殖に関する知識のほとんどが卵胞成熟の後期に集中しているため、避妊薬を含む現在の治療法は全てそのプロセスをターゲットとしています。AMHは卵胞サイクルのかなり早い段階をターゲットとし、卵巣予備軍と呼ばれるより大きな静止卵胞プールを維持できる可能性があるので、化学療法中の受胎能力を維持できるだけでなく、卵胞の発育を一時停止させて卵子を保存することで現代の不妊治療にも応用できるかもしれない」とAMHの応用可能性を示唆しました。

もし本当にAMHで卵巣予備能の減退を防ぐことができたら、生殖能力を延長させ、更年期障害を遅らせることができる、とDonahoeとPepinは製薬会社とAMH薬の開発について何度も交渉しましたが、なかなかその価値や実現可能性を理解してもらうことはできませんでした。この流れが変わったのは、HMSの学長であるGeorge Daleyの研究室に所属していた科学者Daisy Robintonに出会った時でした。Robintonは、31歳の時に長年の交際を解消してから、卵巣機能の維持に興味を持つようになっていました。不思議なことに、Robintonが出席していた長寿やアンチエイジングに関連する学会で誰も卵巣を話題にしないことに気づき、彼女はCambrian BioPharma(老化にフォーカスしたニューヨークのバイオテクノロジー企業)のFounderでCEOのJames Peyerにこの重大な見落としについて指摘しました。すると、彼も興味をそそられて、このアイデアをさらに追求するためにCambrian BioPharmaに入社するよう誘い、2020年4月にRobintonは研究者として入社しました。それから約1年後の2021年3月にRobinton はCambrian BioPharmaから1150万ドルの資金を得て、David PepinとOviva therapeuticsを共同設立したのです。

Oviva therapeuticsでは、ホルモンアナログの製造やAMHの効果を模倣して錠剤として投与できるような低分子薬剤の開発など、AMHを治療薬にするための複数の戦略を検討していますが、どの戦略に重点を置いているかについては明らかではありません。まずは足がかりとして、AMHを利用して体外受精における採卵を改善する方法の開発により体外受精で妊娠するのに苦労している女性を助けることに取り組んでいます。
一部のAMHに関する専門家からは、化学療法を受けている女性に対してはAMHで生殖能力を保護できるが、健康な人にAMHを使うのは「全く別の話」だとして健康な人に対する効果を疑問視する意見や時期尚早だという意見も挙がっていますが、「生殖に関する他の選択肢を持つことは、これ以上ないほど重要なこと」だとしてこの仮説の検証に挑戦しています。


今回のnoteまで3回に渡って、ディープな技術を使ったフェムテックビジネスのご紹介をしました。まだまだホワイトスペースが広がっており、これから盛り上がりが楽しみです!フェムテックに限らず起業・資金調達、研究の事業化にご興味ある方は、ANRIの川口(@_nashi_budo)までご連絡ください!

ベンチャーキャピタルANRIは、「未来を創ろう、圧倒的な未来を」というビジョンのもと、インターネット領域をはじめ、ディープテックやライフサイエンスなど幅広いテクノロジー領域の大学発スタートアップにシード期から投資を行っております。
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参考文献
https://media.yayoi-kk.co.jp/business/17431/
https://www.g-quartet.jp/insight/220304report/
https://www.haramedical.or.jp/column/staff/insurance_coverage.html
https://thebridge.jp/2022/02/kindbody-vios-acquisition-pickupnews
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https://thebridge.jp/2022/07/future-family-0-interest-rate-financing-pickupnews
https://www.forbes.com/sites/jilliancanning/2019/09/05/the-rise-of-startups-innovating-in-the-fertility-space/?sh=46ddcf5d4e66
https://www.gametogen.com/programs/fertilo

http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa24.html
https://www.jsbmg.jp/backnumber/pdf/BG39-1/39-1-7.pdf
https://www.ovivatx.com
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/636/

http://endometriosis.gr.jp/kaishi/kaishi39pdf/62_lunch4.pdf
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6366956/
 
https://www.gametogen.com
https://techcrunch.com/2022/01/10/with-funding-from-top-investors-gameto-is-aiming-to-delay-even-eradicate-menopause/?guccounter=1&guce_referrer=aHR0cHM6Ly93d3cuZ29vZ2xlLmNvbS8&guce_referrer_sig=AQAAADPRPRkInkuR4xz0RAGhe5kYXh25hTngtNPj_3wJrhtjrNqDCboZnT7cnw5vzvnQMVS3mEcPnJZnWEPYfhKoH1CcLNe9H_5r1Lbdsiwj-EKx2WJUJ9Jr3-F-IHPvZQSr3fycq2FXlkvAq9pRodXnboO92kw2cTSbgFfVyVKSVxB-
https://www.ovivatx.com
https://www.bostonglobe.com/2022/05/19/business/this-startup-aims-make-contraceptives-that-prolong-fertility-delay-menopause-improve-womens-health/
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2122512119
https://www.cambrianbio.com/news-and-publications/oviva-announces-11-5m-in-seed-financing-and-exclusive-license-with-mgh


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