見出し画像

ドラクエ1が出来る過程を妄想する

久しぶりにフリーゲームの『雪道』を遊ぶと、HPをじっくり見つめながら遊ぶRPGが遊びたくなりました。HPをじっくり見つめるなら、1ポイントあたりの重要度が高いほど良い。数値の貴重さを自覚できるほど少量であるほうが良い。

ということで、流れで『ドラゴンクエスト1』を遊びました。
※スマホアプリ版

ドラクエ1の良いところと言えば、戦闘で敵が1体しか登場しないこと。
こちらと相手の行動が交互に訪れることが約束されているので「次はどう行動するのが良いか」を考えやすく、成功も失敗も素直に受け止められます。

その他にも竜王の城の位置であったりと優れたところ、評価されているところは色々とあるのですが、そのあたりは語り尽くされている感もありますので、ひとつ奇妙な分析をしてみようと思い立ちました。

どういう分析かと言うと「どうやってドラクエ1が作られたのか」を事実を無視して妄想する…という分析、というより戯言です。

なので真実は含まず、単に頭の体操でしかありませんが、ドラクエ1に対して新しい観点での評価が見つかるかもしれませんし、いつかドラクエ的なRPGを作るときに役立つかもしれません。

という前口上を書いて言い訳も終わり、妄想を始めてみます。

ドラゴンクエストというタイトルが生まれるまで

この優れたタイトルはどうやって生まれたのか。
鳥山明という著名漫画家を起用するにあたって『ドラゴンボール※1984年連載開始』にあやかって「ドラゴンなにがし」からスタートしたのか。あるいはナムコの『ドラゴンバスター※1985年稼働開始』から影響を受けたのか。

それとも『ダンジョン&ドラゴンズ※1974年発売』からか。

ファンタジーを舞台としたゲーム、それもRPGを作るとなればやはり『ダンジョン&ドラゴンズ』の影響は避けられない。ファンタジーと言えば「ドラゴン」ということで、まず先に「ドラゴン」は決まっていたのではないか。

もしかしたら「ダンジョンクエスト」という名称も考えていたかもしれないが、ダンジョンばかりを探検するゲームにしたくもないし…かといってドラゴンと戦ってばかりのゲームにしたいわけでもない。

いや、そもそもタイトルがゲーム内容をすべて支配するというのもおかしな話だから、ひとまず「ドラゴンクエスト」としてみよう。うん、名前は悪くない。このタイトルでドラゴンが出てこないのは嘘だから、敵の1種にドラゴンは必ずだすことにしよう。

と、このようにしてドラゴンクエストのタイトルは決まったのかもしれません。

井氏は「ドラゴンクエスト」というタイトルを,小池氏の教えに沿って考案したことを明らかにした。というのも,小池氏は「タイトルには“易しい言葉”と“難しい言葉”を組み合わせるといい」と劇画村塾で教えていたとのこと。

 すなわち,わりと誰でも知っている“ドラゴン”と,あまり世間に馴染みのなかった──今でこそゲームプレイヤーの大半は意味を知っているだろうが──“クエスト”という言葉を組み合わせたわけだ。

堀井雄二氏が“師匠”小池一夫氏とドラクエ,キャラ作り,そしてゲーム業界について大いに語る。堀井氏はまさかの「ポートピア殺人事件2」を企画中!? (4gamer.net)

ゲームの方向性をどう決めたか

RPGを作ろう。それもファンタジー世界を舞台にした。面白くて売れるタイトルにするためには一言で説明できないと駄目だ。

「血湧き肉躍る国産RPG!」

説明しているようで何も説明していない。そもそもRPGの認知度が低い。RPGという言葉を使うのはやめよう。別の言葉にするなら…「冒険」がいい。「国産」という言葉もいらない。肉じゃあるまいし。

「血湧き肉躍る冒険ゲーム!」

まるで個性がない。どんなゲームにも当てはまりそうで、ドラゴンクエストならではの言葉ではない。作りたいのはどういうゲームか。ファンタジー世界の冒険だ。恐ろしい魔王がいて、世界は滅亡の危機に瀕していて、そう勇者であるプレイヤーでしか立ち向かえない。ただの勇者では印象が弱い。「伝説の」と付けてみよう。そら、どうだ。

「伝説の勇者による、悪の魔王から世界を救うための大冒険!」

悪くない。いかにもスケールが大きそうで、善と悪との戦いというわかりやすさもいい。RPGと言えば「冒険」だし。

これでゲームを作り始められそうだが…何か気になる。ははーん、タイトルは「ドラゴンクエスト」なのに「ドラゴン」の要素が無いじゃないか。だったら最後のボスを「ドラゴン」にしよう。となると…

「伝説の勇者による、悪のドラゴンから世界を救うための大冒険!」

ううーん、魔王のほうが良かったな。ドラゴンはどうしても獣のイメージがあって世界征服を企む感じがでない。魔王のほうが良かったなあ。ドラゴンは敵として出せばいいか…まてよ。「ドラゴンの王」はどうだ。知性を持ったドラゴンの王なら世界征服を企んでもおかしくはない。しかし「ドラゴンの王」というのはひらがな、カタカナ、漢字が混じっていた具合が悪い。そもそもファミコンでは漢字は使えないし「ドラゴンのおう」になるのか。イマイチしまらない。ドラゴンを言い換えてみてはどうだろう。ドラゴン…龍、になるのか。「りゅうのおう」…悪くない気がしてきた。しかし龍はひらがなにすると日本風の竜にも感じられるなあ。だったら「りゅうおう」はどうだ。おお、しっくりくる。将棋でも「竜王」と言うし、強そうじゃないか。よし、これだ。

「伝説の勇者による、悪の竜王から世界を救うための大冒険!」

というように、ゲームの方向性が決まったのかもしれません。

当時ハマっていた海外ゲーム『ウィザードリィ』は、モンスターを倒して経験値を積み、自分が強くなっていくシステム。これが非常に面白かった。だけど、ちょっと難解だったので、もっとわかりやすく物語のレールをひいたら、みんなやってくれるんじゃないかと思ったんです。主人公は勇者で、強くなって魔王を倒す物語、という明確な目的を設定して、お話を作っていこうと。

物語のつくりかた 第3回 堀井雄二さん(ゲームデザイナー) | 小説丸 (shosetsu-maru.com)

ゲームの全体像をどうやって考えていったか

「伝説の勇者による、悪の竜王から世界を救うための大冒険!」

これを体験できるRPGを作っていこう。
要するに「これを体験できる物語」を考えればいいわけだ。
一番シンプルな形はこうなるだろう。

しかし待てよ。竜王を「悪」として描くには「物語が始まる前の物語」が必要だ。いわゆる桃太郎の鬼と同じで、その悪の所業があるからこそ竜王であるわけだ。となると、物語はこうなる。

竜王の悪行が何かと言えば、街を滅ぼしたり、宝を奪ったり、高らかに宣言したんだろうな世界征服を。宝か…王様の大切な物を奪ったと言っても、宝玉や金銀財宝…あまりロマンが無い。やっぱり勇者は姫を救い出してこそ!そうだな、竜王はついでに姫をさらったことにしよう。囚われの姫を救うとなれば、少年たちも心躍るに違いない。となると…

こうなる。さて、肝心の「冒険」について考えていかないと。勇者はどうやって竜王を倒すんだろう。最初から倒す力を持っているわけじゃない。モンスターとの戦いで自身を鍛え、強い装備品を手に入れたり、強力な魔法を覚えていくはずだ。つまり、勇者は「大冒険」するんだが、大冒険を分解すると「探検」と「強くなる」の2要素に分けられるんだな。「強くなる」は更に「成長」と「強化」に分けられそうだ。つまり、このゲームで勇者は「探検」「成長」「強化」の3つを繰り返していくんだろう。

これを物語の流れに組み込むと…

「探検」「成長」「強化」を具体的な物語に変えていこう。

探検…これは「世界中を旅する」ことだな。しかし、単に場所を移動するだけじゃ盛り上がらない。行く先々で勇者の存在を褒め称えたり、竜王の恐ろしさを伝える存在が必要だ。となると、人々の集う場所…町が必要になる。「街から街へ移動する」ことをひとつの軸にしてみよう。

とはいえ探検=「情報収集、状況確認」というのも妙な話で、やっぱり一番大事なのは「危険な場所の探索」だろう。RPGで危険な場所といえばダンジョンだ。これを「町の行き来」と混ぜると…

なるほど、このような形になるのか。なんだか「世界地図」が書けそうな気がしてきたぞ…しかしまだ「成長」と「強化」の分析が待っている。

RPGで「成長」と言えば「戦闘によるレベルアップ」と「魔法の習得」だろう。『ウィザードリィ』もそうだったし、これこそ醍醐味。となると「戦闘」があって「敵」のいるゲームになるぞ。当たり前ではあるが…

こうやってレベルアップしていって、最終的に竜王を倒せるくらいに強くなるゲームにすればいいんだな。果たして「どのくらいのレベル」が最適なんだろうか…つまり「竜王はどれくらい強いのか」という話か。そりゃゲーム内で一番強い敵なことは間違いない。じゃあ「強い」ということを別の言い方にしてみよう。ゲーム開始時は「勇者が倒せないくらい強い」でゲームの最後は「成長した勇者が必死になって戦ってやっと勝てるくらい強い」のだろう。

うむ…仮に竜王の強さを「100」としてみよう。レベルで言えば「レベル100」だな。となると、最初の勇者は「レベル1」だ。このゲームは勇者のレベルを100にして竜王を倒すゲームになるのか。どうやって勇者は成長するのか…戦闘するから…つまり敵がいるからだ。それも竜王とは違う敵がいる。まずは「レベル1の勇者が倒せる敵」が必要だ。そしたら次は「レベル2の勇者が倒せる敵」が必要になって…うーむ、単純計算で99種類の敵が必要になりそうだな。それはちょっと制作期間的に厳しい…スケジュールから逆算して考えるしかないか。

とにかく、このゲームの「成長」は「モンスターとの戦いと勝利の物語」とも言えるんだな。そして、モンスターは勇者の成長に比例して強くなっていく…より強いモンスターが(スケジュールの許す限り)登場していく。

なるほど、成長というのは「強くなること」ではないんだ。「強くなったと分かること、実感できること」が大事なんだ。モンスターの存在は「強くなったこと」を分からせる「証拠」「保証」になる。となると、モンスターの定義、役割について意識を改めて…モンスターとは「プレイヤーに成長を実感させるリトマス試験紙」としてみようか。

こう考えると、モンスターの種類は99も必要ないぞ。要は「強くなった実感」をどの程度、どうやって与えるかを先に考えればいい。レベルが1上がったからそれに対応したモンスターを倒せる、これを繰り返してもマンネリだな。どうやったら実感を与えられるんだろうか。自分の身に置き換えてみよう。どういう時に成長を感じるか…「出来なかったことが出来るようになった時」だ。なるほど、モンスターを倒して成長すると「出来なかったことが出来るようになる」んだな。それは魔法を覚えることだろうか。いや、魔法が使えても「モンスターが簡単に倒せるようになる」だけで、体験はあまり変化しない。

冒険は「探検」「成長」「強化」があって「探検」は「町とダンジョン」の行き来だった。えーと…「成長すると町とダンジョンを行き来できるようになる」のか。「出来なかったことが出来るようになる」に当てはめると「行けなかった町に行けるようになる」「踏破できなかったダンジョンが踏破できるようになる」ということか。

となると、成長の実感で一番必要なのは「行きたくても行けない町」と「踏破困難なダンジョン」を配置して、見せつけることになる。

たとえばゲーム内に町が5個あるなら、5回「レベルの不足」と「到着による成長の実感」を与えることができる。ダンジョンも5個とすれば10回の「成長実感」の機会がある。最終的には「竜王の撃破」が待っているから11回の成長実感がある。なんとなくボリュームは十分な気がしてきたぞ。

あとは「強化」か…装備品ってことだな。これは町で売っておけばいいか。モンスターを倒すとお金が手に入るとして…これじゃただの買い物ゲームか。もっと「大冒険」と感じさせるためには「伝説の武具」なんてどうだろう。さっき「成長の実感」で「ダンジョン踏破」を考えたな。ダンジョンを踏破した報酬に「武具」を入れるのはどうだろう。「お金」も悪くないけど、買い物の手段だから達成感は薄そうだ。ダンジョンが5個あるなら、最初のダンジョンはしょぼい武具があって、最後のダンジョンは伝説級の武具があるということにしよう。

なるほど…モンスターを倒してお金を手に入れて町で武具を買う、このサイクルは「地道で堅実」なんだな。対してダンジョンで武具を手に入れるのは「過程の省略」で「ドーピング的」なんだ。「強くなる」という側面では実感の強さというか、速度が違うんだな。早めにダンジョンに挑戦したプレイヤーはぐぐっと強くなる楽しさが生まれるようにしておこう。

さて、これまでの要素をまとめると…

これが「ドラゴンクエスト」のゲーム構造になるのか…。
よし、あとはこれを「どうやって盛り上げるか」を考えていこう。たとえば「勇者の証」がないと先に進めないとか、竜王の城に行くためのアイテムが必要とか…

というように、ゲームデザインが先にあって、物語が後から付けられていったのかもしれません。

たったひとりで制作したPC用のアドベンチャーゲーム『軽井沢誘拐案内』について語り始めた。開発中にロールプレイングゲーム(RPG)と呼ばれる、まったく新しいジャンルに触れたことがきっかけとなり、『軽井沢誘拐案内』の終盤にRPG風のゲーム性を取り入れたと語る堀井氏。RPGはまだ海外のPC用ゲームが主流だった時代に、これを日本人にもわかりやすい形にすればヒットするのではないかと考えた堀井氏は、ファミリーコンピューターの普及のタイミングでRPGを作れないかどうか考えていたのだという。

『ドラゴンクエスト』シリーズを生んだ堀井雄二氏のシナリオ執筆方法と歴代作品ごとの制作テーマが明らかに!【CEDEC+KYUSHU 2018】(1/2) - ファミ通.com (famitsu.com)

まとめ

と、疲れてきたので妄想はいったんここまで。
次回は「竜王の城の位置」が決まった経緯を妄想する…かもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?