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ふやけた指紋は滑り止め?

もうプールの季節は終わって、そろそろお風呂が恋しい気温になってきましたね。

さて、プールやお風呂につかっていると、指がふやけてきます。なんとなく、皮膚が水を吸いこんで膨らんでくるためかな、なんて思っている人が多いと思いますが、よく考えたら、指以外の皮膚はふやけません。さらに、交感神経がはたらかない場合、指はふやけないこともわかっています。

神経系による支配を受けることから、指がふやけることには何らかの意味があるのではないかと、これまで考えられていました。今回紹介するのは、ふやけた指紋には滑り止めの効果があるのではないかということを示唆した研究です*1*2。


ふやけた指紋の構造

Changizi博士たちは、ふやけた指紋の構造に着目しました*1。排水に適した「突出した尾根」状の構造には、以下のような特徴があります。もしふやけた指紋に排水の機能があるのであれば、同様の構造を示すのではないかと仮説が立てられました。
●それぞれの尾根はつながって、いちばん高いところで合流するため、下流に枝分かれしていく木のような形状を示す
●それぞれの溝は尾根によって隔てられて接触せず、下流に行くにしたがって、溝の本数も増えていく

実際に、13の手に由来する28本の指のふやけた指紋を検討したところ、たしかにこのような構造が見られました。ふやけた指は柔軟であり、水に濡れた物体に押し付けたとき、指の先端から縁にむかって、物体の表面の水を指紋の尾根が絞り取り、水は指紋の溝を通じて排出され、最終的に、これによって指の皮膚全体が物体の表面に接することになるのだと考えられます。


実験によるサポート

こうした説明を実証的に検討するため、Kareklas博士たちは実験を行ないました*2。20人の成人に対して、ビー玉やおはじきを親指と人差指でつかんで別な容器に移す操作をしてもらい、それにかかった時間を測りました。

その結果、ビー玉/おはじきが乾いているときには、ふやけた指とそうでない指で、かかった時間に差はありませんでしたが、濡れているときには、ふやけた指のほうが、移すのにかかった時間が12%短縮しました。この結果は、ふやけた指紋が実際に滑り止めの役割を果たしているという可能性を強く支持します。


おわりに

当たり前のことになってしまって普段は気にもとめない、ふやけた指紋にも、もしかしたら滑り止めという大事な役割があるのかもしれません。水につかって指がふやけた際には、じっと手を見て、人類の進化に思いを馳せてみるのも一興ですね。

(執筆者: ぬかづき)


*1 Changizi M, Weber R, Kotecha R, Palazzo J. 2011. Are wet-induced wrinkled fingers primate rain treads? Brain Behav Evol 77:286–290.

*2 Kareklas K, Nettle D, Smulders T V. 2012. Water-induced finger wrinkled improve handling of wet objects. Biol Lett 9:20120999.


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