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人類学の再興を目指してゆるく展開中。人類学に携わる研究者などが、研究成果や現場の様子を…

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人類学の再興を目指してゆるく展開中。人類学に携わる研究者などが、研究成果や現場の様子を紹介していきます。Twitter: https://twitter.com/anthro_pologist

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    レギュラーに記事を書いている4−5人ではない、ゲスト執筆者による記事をまとめています。

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    人類学者の日常の振る舞いや雑感についてのエッセイです。

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ハイエナの糞に型取られた人類最古の毛髪の証拠

過去の人類の容姿を復元するには、化石の形態を調べるのがもっとも手っ取り早い方法です。硬組織である骨や歯は遺跡から出土しやすく、身長、体格、運動様式など、容姿についてさまざまな情報をもたらします。 しかし、もっと柔らかい組織についてはどうでしょうか?皮膚、筋肉、臓器などは、埋没中に分解されつくしてしまうため、遺跡からは非常に稀にしか出土しません。最近では、古代DNAの研究によって、目の色や髪質などは推定できるようになりました。しかし、ほかの多くの容姿の特徴や、良好な古代DNA

    • 友達の数は150人って本当ですか?

      ダンバー数「人間の友達の数は150人」。そんな話を聞いたことはないでしょうか。英国の人類学者ロビン・ダンバー博士が、1990年代に、ヒトの脳のサイズの大型化を説明するために提唱した仮説に端を発しています。脳は非常にエネルギー消費量が大きな器官であるため、なんらかの機能を担っていると考えられます。下でもう少し詳しく説明しますが、ダンバー博士らは、霊長類の脳のサイズと群れサイズが相関しているという研究を発表しています。霊長類の生存は、その社会関係に大きく依存しています。しかし、脳

      • ヒト以前の離乳事情

        子育てをしていると、いや、していなくても、粉ミルクやベビーフードのなかった昔、子供は何歳までおっぱいを飲み、どんなふうに離乳してんだろう? という疑問がわいてきます。授乳・離乳は子供と母親の健康だけでなく、集団の死亡率と出生率などにも大きな影響を与えますので、このような疑問は人類学的にも重要です。過去の授乳期間や離乳食を調べることで、当時の人びとの生き様をより深く理解できるのです。 過去の離乳事情を研究する際には、炭素と窒素の安定同位体分析がよく使われてきました。母乳や特定

        • 最古の「哺乳瓶」

          ヨーロッパでは、約9千年前に新石器時代が始まりす。それまでは狩猟採集によって食物を得ていたのが、農耕や牧畜によって農作物や家畜から食物を得る、というように人びとの生活スタイルが変化します。これにともなって、興味深い遺物が出土するようになります。それは、注ぎ口のついた小型の土器です。10 cm程度の直径で手のひらにすっぽり収まり、ものによっては動物の形をしていたりします*1。 この注ぎ口つき土器については、これまで、病気になって流動食しか受けつけなくなった大人に食べ物を与える

        ハイエナの糞に型取られた人類最古の毛髪の証拠

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          おっぱいの避妊効果の今昔

          授乳には避妊効果があることが知られています。つまり、出産を経て、母親が赤ちゃんにおっぱいをあげているあいだは、月経周期が停止したままになって排卵が起こらなくなり、次の子を妊娠しにくくなるのです。これは、妊娠出産授乳によって疲弊した母体が回復する時間を確保するために、哺乳類にそなわった適応であると言われています。 ヒトでも授乳による避妊効果が見られます。赤ちゃんが母親のおっぱいの乳頭を吸うことで刺激が生じ、刺激の頻度が高いほど母親の内分泌ホルモン濃度が変化して、月経周期の停止

          おっぱいの避妊効果の今昔

          「母親の嘆き仮説」の検証

          わたしたちヒトの子供はいろいろな人に世話をされて育ちます。両親だけでなく、おばあちゃん・おじいちゃん、近所の人、保育園や幼稚園もそうでしょう。しかし、霊長類の全体で見るとそうした種はそれほど多くなく、ただひとり母親のみが子育てのほとんどを担う種が多いようです。そのため、多くの霊長類では、母親が亡くなると、幼いコドモも共倒れになります。この点に関してはこれまで多くの研究がありました*1。 しかしそれでは、幼くして母親が亡くなった霊長類のコドモが運良く生き残れた場合、その後はど

          「母親の嘆き仮説」の検証

          中世の出産帯の正体は?

          医学の発達した現代においても、妊娠出産は、母子の命を危険にさらす難行です。ましてや、数百年以上前の過去においてはもっと大変なことだったと推測されます。そうした、生命の誕生と隣り合わせの危機である妊娠出産に際して、過去の人びとがどのような備えで臨んでいたかを調べられれば、ヒトの生命観や生きざまがどのように変化してきたかを知ることができます。 しかし、そうした研究は、社会階層やジェンダーによる不平等の影響を強く受けます。権威者や男性が妊娠出産について記した文書は歴史記録のなかに

          中世の出産帯の正体は?

          「出版か死か」が行き着く先は

          出版か死かという規範「Publish or Perish」という言葉があります。「出版か死か」とは剣呑ですが、研究者が職を得られるかどうかは業績に依存するため、論文を出版しないと、職を得ることは難しく、研究を続けることができません。研究の世界は、激しい競争に満ちています。そして、研究の世界は早いもの勝ちです。ある事実を明らかにするときに、最初にそれを論文として出版した人しか、栄誉にあずかることはできません。また、「ネガティブリザルト」と呼ばれる、「薬の効果が出なかった」とか「

          「出版か死か」が行き着く先は

          タパヌリオランウータンの悲しい過去

          「もっとも絶滅の危機に貧している動物」と言われたとき、読者のみなさまはどのような種を思い浮かべるでしょうか? 実は、私たちヒトの進化の隣人であるオランウータンのなかに、そうした種のひとつであるタパヌリオランウータン (Pongo tapanuliensis) がいます。 オランウータン属は、ボルネオ島に住むボルネオオランウータン (P. pygmaeus) と、スマトラ島に住むスマトラオランウータン (P. abelii) の2種より構成されると長らく考えられてきました。し

          タパヌリオランウータンの悲しい過去

          狩猟は男性の仕事?

          「おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に」ではないですが、従事する性別がなんとなく決まっているように思われている仕事というものがあります。人類学や考古学の分野では、その最たる例が狩猟採集でしょう。 ヒトでは、ほかの多くの哺乳類と同じく、妊娠して出産し、生まれた子供におっぱいをあげることができるのは女性だけです。したがって、長い距離を移動し、身体強度を必要とし、動物からの反撃にあって逃げなければならない可能性もある狩猟は、男性の仕事だと考えられていました。大きなおな

          狩猟は男性の仕事?

          東南アジアの広大なサバンナ

          「東南アジア」と聞いてどのようなイメージを思い浮かべるでしょうか? どこまでもつづく熱帯雨林、高い湿度、トロピカルフルーツ、世界最高の生物多様性、などなど……。しかし、もっとずっと過去にさかのぼるとどうでしょうか? 過去数百万年間の地球では、海水面が現在よりも100メートルほど低下した時期がありました。この時期には、現在のインドシナ半島・ボルネオ島・ジャワ島のあたりの大陸棚が海水面に現れ、スンダランドという広大な陸地が形成されていました (図1)。地質学的な証拠などから、こ

          東南アジアの広大なサバンナ

          人類と狐の深い仲

          人間の活動が野生動物の暮らしや生態に影響を与える事例は枚挙に暇がありません。これまでにさまざまな動物が絶滅させられてきましたし、森の中ではなく都市など人間が作り出した環境に適応してきた動物もいます。しかし、そうした影響はどのくらいまで過去にさかのぼるのでしょうか? また、わたしたちヒト (ホモ・サピエンス) 以外のすでに絶滅してしまった人類*1では、そうした影響を野生動物に与えていたのでしょうか? 今回紹介するのは、石器時代のヒトとネアンデルタール人が、キツネにどのような影

          人類と狐の深い仲

          10個の簡単なルール

          日々、新たな事実を明らかにしようと実験や調査にうちこむ研究者にとっては、毎日が学びの連続です。論文を読んで仲間の研究成果からアイデアを得たり、知り合いの研究者から新たな実験手法を教えてもらったり、学会に出て最新の動向を見聞きしたり。このようにして、研究対象や手法そのものについてはスキルが深まっていくのですが、意外に、きちんと習得する機会が欠如しているのが、研究活動における「ソフトスキル」です。 ソフトスキルとは、協調、コミュニケーション、自主自律などに関する包括的な力です。

          10個の簡単なルール

          糞便が示すアメリカ先住民の盛衰

          日本では、2020年10月20日までの回答期間で国勢調査が実施されています。人口や世帯の状況を把握するとても重要な調査です。現代でこそ、こうした大規模な調査によって、ある地域に暮らす人びとの数がわかったりしますが、過去の場合はどうでしょうか? 文字も残っていないずっと昔に暮らした人びとの人口の増減を調べるにはどうすれば良いでしょう? 以前このブログでも取り上げたように、過去の人口を推定する古人口学という研究分野があります (参考: モカシン靴の古人口学)。遺跡の数、古人骨の

          糞便が示すアメリカ先住民の盛衰

          乳のみにて生きるにあらず

          現在のモンゴル高原にあたるユーラシア大陸中央部には、かつて巨大な国が存在していました。おそらくは歴史の授業ですこし耳にしたことがあるかもしれませんが、匈奴の築いた遊牧国家 (紀元前3−紀元後3世紀ごろ) や、チンギス・ハーンのモンゴル帝国 (紀元後13−15世紀ごろ) が、そうしたものにあたります。家畜を放牧して、乳製品を食べ、馬に乗って早く長い距離を移動する「遊牧民」が、広大な地域を治めていました。現在のモンゴルに対する一般的なイメージも、馬に乗って牧畜をする「遊牧民」とい

          乳のみにて生きるにあらず

          おいしいマンモス

          今からだいたい26000年前から12000年前の時期は後期旧石器時代と呼ばれており、現在よりも寒く乾燥した気候が地球を覆っていました*1。北半球では氷河が現在よりもずっと南まで進出してきており、たとえばカナダ北西部の大部分は氷に覆われていました。乾燥化によって森林は平原となり、マンモス、ケナガサイ、オオカミ、クマなどの大型動物が闊歩していました。 わたしたちヒト (ホモ・サピエンス) は20−30万年前のアフリカに誕生し、5−6万年前から本格的に、アフリカの外に進出し定着し

          おいしいマンモス