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イトヨはアーティスティック?

羽が立派なクジャクがもてる、という話を聞いたことはあるでしょうか?いろんな生物で、大きさや体色の鮮やかさといった身体的な特徴が「もてる」ことに重要だとする研究が報告されています。以前のeno3の記事「※ただしイケメンに限る」で、顔の色とモテ度の関係が紹介されます。

さて、われわれヒトのことを考えてみましょう。たしかに、顔のかたちが整っていることや、スタイルなど、身体的な特徴が重視される傾向はたしかにありそうです。しかし同時に、「持ち物」とか「作ったもの」が魅力の指標になることもありそうです。立派な車や家を持っているともてる、というイメージは、もう過去のものでしょうか?ミュージシャンやアーティストがモテるという話も聞きますね。先史時代の人類でも、「ハンドアックス」とよばれる石器(下写真)をうまく作れることが、モテ度と関係していたのではないか、という説があります(※1)。

イトヨの巣作り実験

そうした「持ち物」「作ったもの」が魅力の指標になるのは、ヒトだけなのでしょうか?今日は、イトヨという魚で、飾られた巣のほうがもてることを報告した論文を紹介しましょう(※2)。まず、簡単にイトヨの巣作りについて説明しましょう。オスは地面に穴を掘り、その上に水草をかぶせることで、トンネル状の巣を作り、メスに求愛します。オスの求愛を受け入れたメスは、巣に入って産卵します(下の画像の右下)。

今回注目するのは、この巣づくりです。実験に使ったのは、43匹のイトヨのオスです。このイトヨたちは、「赤い水草グループ」と「緑の水草グループ」に分けられます。「赤い水草グループ」のイトヨのオスたちは、巣を作るための材料として赤い水草が与えられます。「緑の水草グループ」のイトヨのオスたちは、巣を作るための材料として緑色の水草が与えられます。どちらのグループも、一旦巣を作り始めたら、最初からあったのと別の色の水草を、追加の材料として与えられます。つまり、「赤い水草グループ」のイトヨには緑の水草を、「緑の水草グループ」のイトヨには赤い水草が与えられます。

加えて、赤、青、黄、緑、銀色の金属棒も、巣作りの材料として追加されます。つまり、イトヨのオスたちには、巣の材料の選択肢として、二色の水草と、五色の金属棒があるのです。この五色の金属棒は、人工物ですので、イトヨがもともと住んでいる環境にはありません。著者らは、こうした状況設定のもと、イトヨのオスがどんな材料を使って巣を作るかを調べました。

イトヨは赤色がお好き

さて、 イトヨはどんな材料で巣を作ったのでしょうか。43匹のイトヨのうち、40匹が巣の入り口と残りを別の色の水草で作りました。また、31匹が金属棒で巣の入り口を飾りました。また、金属棒のうちでは、赤いものが多く使われる傾向がありました。赤い棒は、平均して3本ほど使われていましたが、他の色は平均して1本ほどでした。

著者らは、メスが人工物で飾り付けた巣を好むかどうかを調べました。二匹のオスに水草だけを与えて巣を作らせます。できた巣のうちの片方にだけ、研究者が、金属棒を入り口に置いてやります。こうすることで、水草を金属棒で飾り付けた巣と、水草だけの巣が並ぶことになります。その後、メスに二つの巣のうち、気に入った方を選ばせます。メスは、平均して86%の時間を、金属棒で飾り付けた巣の前で過ごしました。このことは、メスが飾り付けられた巣のほうを選んだことを示唆しています。

おわりに

著者らは、この結果を、メスに選ばれるために、オスが巣を飾り付けているのだと考えています。また、イトヨは、繁殖期になると、オスのお腹のあたりが赤くなります。今回赤い金属棒を好んだ理由は、オスの体色の変化と関係があるのではないか、と著者らは推測しています。「持ち物」「作ったもの」が魅力と関係しているのは、ヒトだけではなさそうです。ヒト以外の動物も、意外とアーティスティックなのかもしれません。

(執筆者:tiancun)


※1 たとえば

松木武彦『美の考古学』新潮社(pp. 21–22)

などで紹介されています。

また、ハンドアックスを作ったのは、現生人類(ホモ・サピエンス)ではなく、ホモ・ハイデルベルゲンシスまたはホモ・エレクトスとよばれる種であったと考えられています。

※2 Östlund-Nilsson, S. and Holmlund, M. 2003. The artistic three-spined stickleback (Gasterosteous aculeates). Behavioral Ecology and Sociobiology 53, 214–220 

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