Tadashi Wakashima-70 JT

昨年より、私と藤原さんがTournament Directorsとなり、若島正先生の70歳を記念する創作トーナメントを開催していました。
チェスプロブレムにおいては、高名なプロブレミストの生誕xx年を記念するトーナメントがしばしば開催されますが、ちょうど昨年(2022年)はProblem Paradise誌の100号にも重なるということで藤原さんと話し、開催の運びとなりました。

トーナメントのジャッジは、ルーマニアのVlaicu Crisanさん(Problem Paradise誌のフェアリー部門のsub-editorでもあります)とEric Huberさんに依頼したところ、快諾いただきました。

トーナメントは2022/10/31に締め切り、審査結果は2023/10/19に公開しました。結果は以下より見られるようになっています。

トーナメントのテーマは「フェアリーの要素を含む2-3手ダイレクトメイトあるいは2-3手ヘルプメイト」で、なんと世界各国より計79作の応募をいただきました。ご応募いただいたみなさま、ありがとうございました。

入選作は併せて15作ですが、どの作品も現代のフェアリープロブレムのうち最高の作品の一つであると感じます。
ここではSection Aより、1つの作品を紹介します。

Loustau, J-M. 2nd Prize Tadashi Wakashima-70 JT, Section A, 2022-2023

#2 (20+10)
a4, c4, c7, e1: Pao d4, b7, e8, e6, f2, h2: Vao b2, a8, b6, h6, h3, c8, g7: Nao

Pao: シャンチーの砲。駒を取らない時はRと同様に動き、駒を取る時にはRのラインで駒を1つ飛び越えた先の駒を取る。
Vao: 駒を取らない時はBと同様に動き、駒を取る時にはBのラインで駒を1つ飛び越えた先の駒を取る。
Nao: 駒を取らない時はナイトライダーと同様に動き、駒を取る時にはナイトライダーのラインで駒を1つ飛び越えた先の駒を取る。

解は以下の通りです。
1.PA7c6+? Kxe6!
1.PA4c6+? Kd6!
1.PAe5? (2.PA4c6# B)
1...Rxe5 2.Sxf6# M
but 1...Bc5! p
1.VAhe5? (2.PA7c6# A)
1...Be2 2.VAf4#
1...NAe4 2.dxe4#
1...Bd6 2.PA4c6# B
but 1...Qxe5! x
1.VAde5!!? (2.PA4c6# B)
(not 2. PA7c6+ A? Kc5!)
1...Kc5 2.Se3#
1...Bc5 p 2.PA7c6# A
but 1...Rxe5 ! y (2. Sxf6+ M? Kc5!)
1.Se5!!! (2.Sc6 # C)
(not 2.PA7c6+ A? nor 2. PA4c6+ B? Kxe5!)
1...Kxe5 2.NAbf4#
1...Rxe5 y 2.PA7c6 # A
(not 2. PA4c6+ B? Kxd4!)
1...Qxe5 x 2.PA4c6 # B
(not 2. PA7c6 A??)

Pao,Vao,Naoが複数置かれており非常に複雑な図面ですが、現代のフェアリーの2手メイトではしばしばみられるタイプの図面です。
Pao,Vao,Nao(総称してChinese Pieceと言われます)の特徴は、駒取りにおいては飛び越えるための駒をラインに置くことがラインを開くこととなり、ラインから外すことがラインを閉じることになるため、通常のラインオープン/クローズに対してArrival effectとDepature effectが逆になります。そのため、ラインに関してリッチなストラテジーを構築することができます。

黒K周辺を見てみましょう。マス目とそのマス目に効いている駒は、以下のように書けます。
c6: wVAe8
d6: wNAb2
e6: wNAa8
c5: wVAf2
e5: wSg4
c4: wPd3,wNAa8
d4: wNAh6, wPAa4
e4: wPd3, wPAc4

白はc6に駒を置くことで、wVAb7によって黒Kにチェックをかけることができます。しかし、現在1.PA7c6+?あるいは1.PA4c6+?としてしまうと、それぞれのPaoはwNAa8やwNAb2のhurdleになっているので、d6/e6の黒Kの逃げ道を開けてしまいます。
そこで、白はe5に駒を置くことで、wPAe1かwVAh2の効きをe6/d6に伸ばすことでPA7c6かPA4c6をチェックメイトにしようとします。ここでe5に何を置くかがポイントになります。

1.PAe5?(2.PA4c6#)は1…Bc5!としてPaoのc4-c6の移動ラインを消され、1.VAhe5?(2.PA7c6#)は1…Qxe5!としてwPAc7をピンされるとチェックメイトが消えます。
さて、これに対して1.VAde5!!?を考えます。これはd6/e6へのwPAe1/wVAh2の効きを足すので、PA7c6かPA4c6でチェックメイトになるようになります(が、実際はwVAf2の効きがc5になくなるので2.PA7c6+?ではメイトになりません)。
さきほどは1.VAhe5?として2.PA7c6#を狙っていましたが、今度は1.VAde5!!?として2.PA4c6#を狙っています。そして、Bc5に対して(c5がセルフブロックされるので)2.PA7c6#とできます。さきほどのThreatが別の手に対して復活しています。
しかし、1.VAde5!!?に対しては1…Rxe5!でメイトになりません。

さて、解は1. Se5!!!です。これは2.Sc6#を狙っています。(e5への効きがなくなっているので、2.PA4c6?も2.PA7c6?もメイトになりません)
そして、ここからが面白いところですが、1…Qxe5も1…Rxe5も2.Sc6#に対するディフェンスになっています。そしてそれぞれがe5をセルフブロックするため、1…Qxe5 2.PA4c6#および1…Rxe5 2.PA7c6#がメイトとして復活します。

このように、1.VAhe5(2.PA7c6)->1.VAde5(2.PA4c6)->1.Se5(1.Sc6)と、前のKeyについていたThreatの弱点(それぞれ1…Qxe5,1…Rxe5でディフェンスされること)を修正して、さらに元のThreatには2.PA7c6/PA4c6でメイトになる、というComplete Tertiary Correctionを表現しています。
さらにKeyの着地地点とThreatの着地地点はすべて同じ場所であることも美しさを添えています。

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