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"MOOD SIX"の事。

ミュージシャンにとって、魅力的なメロディを作るソングライティングの能力ってのは、人によるとは思うけど、極端な話、悪魔に魂を売ってでも欲しいものなんじゃないかなと思うんだけど、魅力的なメロディを次々と作る能力を持っていても、肝心のサウンドの方を重視しなかったのか、挑戦したのか寄せたのかは分からないが、サウンド・メイキングに右往左往して、バンドの魅力を活かせなかった残念さんなバンドがいた、その名はMood Six。

[Hanging Around] (1986)

Mood Sixは、ロンドンのウエストエンドで1982年に結成されたバンドでした。メンバーは、Phil Ward、Tony Conway、 Andy Godfrey、Guy Morley、Paul Shurey,、Simon Smithの6人組。Simon SmithはDanny&Mick Talbotと共にThe Merton Parkas、ShureyはThe V.I.P.'sで過去に活動しており、モッズ系のバンドかと思いきや純然たるロック・バンド。1980年代初頭、イギリスではサイケデリック・リバイバルという小さなブームが仕掛けられた。そのシーンをでっち上げたコンピレーション・アルバム"A Splash Of Colour"というのがあり、これはWEAが編纂したもので、なぜかThe Timesの名曲"I Helped Patrick McGoohan Escape"収録で、他はThe Barracudasくらいで、極々短命に終わったバンドが多かった。Echo & The Bunnymenを代表する叙情派サイケに駆逐された感じかな。そのコンピ、内容はイマイチで音質も悪かったけど、Mood Sixは"Just Like A Dream"と"Plastic Flowers"の2曲がフィーチャーされていた。何とも幸先の悪いデビュー...と思いきや、彼らの楽曲は、切ないメロディとピアノをフィーチャーした叙情的なサウンドが鳴り響く良質なネオ・サイケデリック・チューンで、ひときわ輝いていた。これが評判となってBBCへの出演へ繋がり、各レコード会社が争奪戦を繰り広げた結果、EMIと契約します。

[She's Too Far (Out)] (Unreleased)

EMIからデビュー・シングル"Hanging Around"を1982年にリリース、いきなりのメジャー入りという鳴り物入りのデビュー...と思いきや、さっきまでの叙情性はどこへやら、Echo & The Bunnymenを代表する叙情派ネオ・サイケデリックでも、モッズ系でもガレージ系でも無い、良質なメロディを活かした極めてポップな楽曲でした。かなりの良曲であるにも関わらず、時代とマッチしなかったか話題にならず。EMIのShocking Blue"Venus"をカヴァーするという要請を断り、自作の楽曲"She's Too Far (Out)"を主張すると、EMIはこれを発売中止としてしまう。この大変貴重な音源は、ホワイトレーベルのテストプレス盤の海賊盤が流通していて、なぜか容易に入手できた。そして、当然EMIとの契約はご破算になり、バンドはたった1枚のシングルでメジャー落ちとなり、レコード契約を失ってしまいます。Toni Basilが、1981年のシングルで"Hanging Around"をカヴァー、みんなお馴染みの大ヒット曲"Mickey"のカップリングとしてしてシングル・リリースされています。そうか、このシングルは両方ともカヴァーだったんだな、と思うヒマも無く、ヒット曲となってからは別の曲に差し替えられています。結局、バンドにとってのプラス要素は無かったのですね...。

[The Difference Is ......] (1986)

1985年には再起をかけてPsycho Recordsと契約していますが、これがバッドチョイス。Psycho Recordsと言えば、サイケデリックやガレージ系の非正規盤をリリースしていたレーベルで、やむを得なかったんだろうなとは思うが、残念。同年にシングル"Plastic Flowers / It's Your Life"をリリースしますが、デビュー曲の焼き直しは、魅力はあっても上手くはいかなかった。同じ年にデビュー・アルバム"The Difference Is ......"をPsycho Recordsからリリース。EMIがお蔵入りにしたモッド・サイケの名曲"She's Too Far (Out)"を収録したこの作品は、モッズ寄りのサイケデリック・サウンドが中心。このバンドは、常に魅力的なメロディを作り出しながら、勝負となるサウンドに一貫性が無く、フラフラした印象があった。今作は、本国よりもヨーロッパで人気が高かったみたいです。

[A Matter Of!] (1986)

1986年にはCherry Redと契約、やっとマトモな活動ができる状況になったバンドは、シングル"What Have You Ever Done?"と、2作目のアルバムして"A Matter Of!"をCherry Redからリリースしました。これらの作品は、叙情的なギター・サウンドと、魅力的なメロディを惜しみなく打ち出した作品で、やっとこさ自身のサウンドを見つけたか?と思ったが、結局は、初期のサウンドに戻っただけだった。ソリッドなギターを中心としたバンド・サウンドは非常に良いのだけど、時代には合っていなかったのかも。1987年には再びCherry Redから、Todd Rundgrenのカヴァー曲"I Saw The Light"をシングル・リリース。この曲は、非常に人懐っこいヴォーカルとメロディと楽し気なコーラスとニューウェイヴっぽいギターやサックスがフィーチャーされた、1980年代にマッチしすぎなくらいにマッチしたポップスそのものだった。世間的には大好評を博しますが、いかんせん、Cherry Redのカラーでは無かったのか、契約を解消されます。

[I Saw The Light E.P.] (1986)

1987年にリリースされた次のアルバムは、アメリカのPVC Recordsからのリリースという、まるで根無し草の様な彼らの運命やいかに。まあ、最初のEMIとの一件から、レコード会社を信用できなかったのかもしれませんね。大好評だったシングル(しかもカヴァー)にすがるかのようなタイトルのアルバム"I Saw The Light"に勝機を見出したが上手くいかず、バンドは活動休止してしまいます。そのままフェード・アウトするかと思った1993年、突如としてアルバム”And This Is It”をリリースします。 今作は、The Lost Recording Company という、バンド自身のレーベルからの実質自主リリースで、未発表曲を集めただけだった模様です。2016年にはライヴのために再結成しますが、あまり話題にはならなかったかな...。

[I Saw The Light] (1987)

運命というのは不思議なもんで、バンドがそのまま1980年代ポップスの世界に思い切って飛び込んで突き抜けてしまえば、もしかしたら大ブレイクしたかもしれないな、というパラレル・ワールドを思い描いてしまう。もしかしたらJohnny Hates Jazzみたいになれてかも。それほどに魅力的なメロディと卓越したサウンドのセンス、中々のルックスを兼ね備えたバンドだったんですから。ああ、勿体ない。

今回は、世渡りがあまりにもヘタだったがために、ソングライティング能力を埋もれさせてしまった残念なバンドが、EMIとの関係悪化を招いてでもリリースしたかった相当な自信曲。実際かなりの良曲で、これがEMIからリリースされていたら時代が変わったかも知れない名曲を。

”She's Too Far (Out)" / Mood Six

#忘れられちゃったっぽい名曲


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