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”EVEN AS WE SPEAK"の事。

たとえ大きな成功を収めなくても、小さなスモール・サークル・オブ・フレンズによる小さなコミュニティやレーベルであっても、熱心なファンがいる限り、忘れ去られる事は無いでしょう。イギリスを例にすると、まあ、「CREATION RECORDS」は、ほぼメジャーで別格として、小さな組織でも、一部の熱狂的支持を受けているインディ・レーベルがたくさんあり、その代表格が「SARAH RECORDS」でしょうか。SARAHは、 クレアとマットが始めた小さな小さなレーベルで、本国で言うところの「twee pop(やかましくなく洗練されたポップス、みたいな意味)」系のバンドを数多く輩出したレーベルで、1995年に100枚目のカタログのお祝いと共に惜しまれつつ閉鎖しました。レーベルは依然として支持を受けていて、所属していたバンド達も、代表的なバンドは現在でも人気があります。では、レーベル・カラーから異質だったり、短期間しか在籍しなかったバンドはどうでしょうか。このEven As We Speakは、当時の日本では正直無視されていた存在でした。

[Goes So Slow] (1986)

EVEN AS WE SPEAKは、オーストラリアはシドニー出身のバンド。ギタリストのMatthew Loveと女性ヴォーカリストのMary Wyerを中心に、Rob Irwin、Anita Rayner、Paul Clarkeからなる5人組として、1984年に結成されています。1986年に自主リリースのシングルでデビュー、「Big Home Productions」というアメリカのインディを経て、地元シドニーの「Phantom Records」から”Goes So Slow" , ”Outgrown This Town”という2枚のシングルをリリースしてオーストラリアのインディ・シーンで認知度を上げ、インディ・バンドの登竜門「BBC RADIO1」のジョン・ピールに認められ、彼のラジオ・ショーで”Goes So Slow"を演奏して好評を博し、「SARAH RECORDS」と契約したのが1990年の事でした。同年にSARAHからのデビュー・シングル"Nothing Ever Happens"をリリースしています。これはオーストラリア時代に発表済みの楽曲で編集されており、New Orderの皆んな大好き”Bizarre Love Triangle”のカヴァーも収録しています。このバンドのサウンドは、アコースティックを基調としながらもジャングリーで、激しくは無いのに妙に耳残りするギター・サウンドや、Maryのキュートなのに蓮っ葉でちょっと生意気っぽくて芯の強いヴォーカル、変則的なフックの効いたリズムなど、レーベル・メイトからはかなり浮いていました。個人的には、その浮いている感じが好きだったのですが、一部からは「SARAHなのにネオアコじゃないじゃん」ってバカにされておりましたな。いやはや。

[Nothing Ever Happens] (1990)

引き続きSARAHから”One Step Forward"と"Beautiful Day"というシングルを英国インディ・チャートの上位へ送り込み、デビューアルバム"Feral Pop Frenzy"を1993年にリリースします。このアルバムは、SARAHのカタログの日本盤化に熱心だったパルコと日本コロムビアの共同レーベルQuattroによって日本盤として発売されています。日本のタイトルは「荒野のポップ・フレンジィ」。う~ん。QUATTROは本気だったのかなあ?素晴らしいコンピが多数あるのに日本独自企画のコンピを出したり、新しめのアーティストのフル・アルバムばかり出すし...と文句ではないのですが、もう少し大切にしてほしかったかなあとは思いますが、1995年のSARAH終了までリリースを続けたのは立派でした。

[Feral Pop Frenzy] (1993)

アルバムをリリースした後、同じ年にシングル"Blue Eyes Deceiving Me"をリリース、これがSARAHからのラスト・リリースとなります。英国での活動がバンドに刺激を与えたのか、このシングルは、これまでのギター・ポップの殻を完全に破り、溌溂と歌われるポップ・メロディとジャングリーでパワフルなギター、電子楽器やビートも大胆に取り入れた新機軸と言えるものでした。しかしこれ以降、バンドとしての動きはパッタリと途絶えてしまうのでした。長いブランクの後、Maryは2003年に夫の"Almond Cafarellaと共にHer Name In Lightsとして活動を始め、アルバム"Into The Light Again"をリリースしています。益々バンドとしては忘れ去られ始めた頃の2005年に、バンドのSARAH時代のシングルを網羅したコンピレーション"A Three Minute Song Is One Minute Too Long"が何故かUKのレーベルからリリースされていますが、再評価の機運は見られませんでした。

[Blue Eyes Deceiving Me] (1993)

EVEN AS WE SPEAKは、SARAH在籍期間中の1992年~1993年の間にBBCのラジオ・セッションでレコーディグを行っています。オーストラリアのバンドでラジオ・セッションを行ったのは、The Birthday Party, The Triffids, The Go-Betweens, Laughing Clownsに続く5組目という快挙でした。この音源は、2014年に"Yellow Food: The Peel Sessions”としてダウンロードのみで自主リリースされていますので、本人達の意思であると思われます。このアルバムは、2017年にアメリカでCD化されています。

[Yellow Food: The Peel Sessions] (2014)

2016年には、「NYPOPFEST 2016」に出演するために再結集しています。このフェスティバルは、アメリカの若手バンドと、THE PRIMITIVES , THE CHESTERF!ELDS , THE RAILWAY CHILDREN , SECRET SHINE , TRASHCAN SINATRAS , THE CHILLSといった懐かしいけど現役の面々、そしてEVEN AS WE SPEAKが出演する伝説的なものとなりました。これを機に活動を再開した彼らはツアーを行い、2017年になると、実に17年振りとなるシングル"The Black Forest"をリリースしました。2018年には1993年のアルバム”Feral Pop Frenzy”が25年振りに再発されています。ジャケットが差し替えられてるのを除けば、再評価の機運が高まって嬉しい限りでした。それに伴ってSARAH時代のレーベル・メイトであるSecret Shine, Boyracer ,Action Painting!と共にツアーを行い、「Indietracks festival」にも出演しています。

[Feral Pop Frenzy(Reissue)] (2017)

2020年には本格的に復活し、Close Lobsters , THE OCEAN BLUE , The Radio Deptなどのリイシューを行うアメリカの「Shelflife Records」から、ダウンロードオンリーのシングルを立て続けにリリースした後、実に27年振りのセカンド・アルバム”Adelphi”をリリース、完全復活となったのでした。従来のギター・サウンドを、現代のテクノロジーでリメイクしたような内容で、特に話題にはなっていませんでしたが、何はともあれ27年振りの帰還に感無量でした。今後も活動が続けばいいなあ、と思います。

[Adelphi] (2020)

今回は、SARAHからのデビュー・シングル"Nothing Ever Happens"に収録されていた、New Orderのカヴァー”Bizarre Love Triangle”を。この曲のカヴァーは様々なアーティストが取り上げていますが、例えば Frente! の静謐アコースティック・ポップでも無く、Divine & Stattonのアコースティックでハートウォームでスローなカヴァーでも無く、彼ら独自のテイストであるジャングリー・ギターと生意気ヴォーカルと変則ビートで味付けされた独特なヴァージョンが非常に好きです。しかも、New Orderのオリジナル・リリースが1986年、EVEN AS WE SPEAKの録音が1987年という、何とも大胆で挑戦的なカヴァーであることに気付きます。やっぱり凄い。

"Bizarre Love Triangle" / Even As We Speak

#忘れられちゃったっぽい名曲

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