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"SUPERDRAG"の事。

音楽家が本人作の曲について、あの曲は嫌いだとか、あのアルバムは好きじゃないとか言う事ってありますよね。実際に黒歴史はあるんだろうけど、本当に出来が悪かったら仕方がないが、実際は凄く良い曲だったらどうでしょう。仮に、自分では自信作でも、レコード会社の思うようなヒットにならなくて、プロモーション費用が回収出来なかったので以降はプロモ―ションしませんし、作品も出すの中止にしますって、レコード会社から一方的に決められたらどうでしょうか。作者が受けた精神的苦痛は相当なものだろうと思います。良い曲を書いているのに認められないのってツライよね。デビューから常に良い曲を書いていて、メジャーに入っても良い曲を書いて、まあまあ人気はあったけど、レコード会社の思うようなヒットにならないで冷遇され、そのきっかけになった曲を憎むというのは、すごく残念な事だと思う。だって、その曲を作ったのは作曲者だし、大好きな人だって多くいるのだから。一時、そんな精神状態に陥ってしまったけど、今は復活して活動しているバンドがいる。みんなが好きな曲は、良い曲だと胸を張って欲しい。あの頃は大キライだったという曲を、現在では楽しそうに演奏しているバンドがいる。バンドの名前は、Superdragと言います。

[Señorita] (1994)

Superdragは、アメリカはテネシー州ノックス郡の工業都市ノックスヴィルで結成されたバンドです。ギタリストのBrandon FisherとベーシストのTom Pappasが組んだプロジェクトに、30 Amp Fuseというバンドでソングライター兼ギタリストとして活動していたBrandonのいとこのJohn Davisをヘルプに誘った事がきっかけでした。BrandonとTomはThe Usedというバンドもやっていて、お互いに並行してバンド活動を行っており、サイド・プロジェクト的な感じだったかと思います。John Davisとは30 Amp Fuseでバンド・メイトで、彼の作曲能力を認めていたDon Coffey Jr. が加わり、4人組バンドとしてSuperdragの初期ラインナップが完成します。1992年の事でした。The Usedは地元の小さなインディ・レーベルのBig Nothing Recordsと、30 Amp Fuseは設立間もないニューヨークのDarla Recordsと契約していました。Superdragは、1994年にデビュー・ミニ・アルバムである6曲入りの"Stereo "360 Sound""を、Superdrag Sound Laboratoriesから自主リリースしています。デビューから中々のセンスを感じるジャケット写真ですが、これは、The Usedトレーベル・メイトだった短命のバンド、PegclimberのメンバーだったMorrie Rothsteinが手掛けているみたいですが、自分で撮影した写真かどうかは?まあ自主ですからね。サウンドの方は、ファースト・レコーディングとは全く思えない、The Beach Boysのメロディを継承するパワー・ポップ系のバンド、The Posies, Velevet Crush, Matthew Sweetなどに比肩する、甘くて切ない天才的に良質なメロディ・ラインをノイジーなギターのシンプルなバンド・サウンドに乗せた素晴らしくパワフルなギター・ポップでした。この作品を聴いたレコード会社の人は、このクオリティに驚いた事でしょう。リリース後直ぐに、30 Amp Fuseが所属していたDarla Recordsと契約しています。同年に、ミニ・アルバムに収録されていた3曲を使用してデビュー・シングル”Señorita”を同年にリリースしています。

[The Fabulous 8-track Sound Of Superdrag] (1995)

1995年には、デビュー・ミニ・アルバムの残り2曲を使用してセカンド・シングル"HHT"としてDarla Recordsからリリースしています。同1995年には、新レコーディングによる7曲入りのミニ・アルバム”The Fabulous 8-track Sound Of Superdrag”をリリースしています。この作品は、テネシーのThe Electric Sandboxでレコーディングされています。すべてのソングライティングを手掛けるJohn Davisのメロディのセンスは相変わらず素晴らしいもので良曲が詰まっていますが、サウンドが若干荒っぽくなっているのは、エンジニアとミックスを手掛け、バンドと共同プロデュースしているNick Raskulineczの狙いでしょうか。彼は、Darlaでのデビューから彼らの作品を手掛け、その後も長きに渡って彼らをサポートしていく事となる人物です。このミニ・アルバムも好評で、メジャー・レーベルのElektraから契約の話が持ち上がり、メンバー個々に在籍していたバンド、The Usedと30 Amp Fuseとの両立が困難になり、メンバーはSuperdragとしての活動を選択して以前からのバンドを脱退します。The Usedは解散状態になり、30 Amp Fuseは、Mike Smithersを中心に活動を継続しています。ソングライティングの天才と言えるJohn davisは、自作の曲を無駄にすることを嫌ったのか、恐らくこの時のセッションでレコーディングされた曲を、ニューヨークの趣味全開インディ・レーベル、Arena Rockからシングル”N.A. Kicker”としてリリースしています。このときの縁が、後々に重要な意味を持つことに。カップリングには、Hüsker Dü "Diane"のカヴァーを収録しています。そして、彼らはメジャー・レーベルElektraと契約して活動を始めます。

[Regretfully Yours] (1996)

1996年には、メジャー・デビュー・アルバム”Regretfully Yours”をElektraからリリースしています。良質なポップ・メロディはそのままに、非常にヴィヴィッドになったバンド・サウンドとドラマティックでダイナミックな展開が次から次へと飛び出す、非常に優れたオルタナティヴなパワー・ポップ・アルバムに仕上がっています。アルバム収録曲”Sucked Out"は、プロモーション・ビデオが制作され、MTVやカレッジ・ラジオでヘヴィ・オンエアされ、シングル・カットされていますが、アルバムは好評だったものの、Billboardチャートで最高158位と、レコード会社が目論む様な大ヒットには程遠い結果に終わっています。アルバムから2枚目のシングル”Destination Ursa Major”は何とかリリースされましたが、その後の売り出し計画は頓挫し、その後に予定されていたシングルの発売計画やプロモーション・プランは全てレーベルの意向で中止になってしまいます。

[Head Trip In Every Key] (1998)

1998年には、メジャーから2作目となるアルバム”Head Trip In Every Key ”をリリースしています。John自らが演奏するためにシタール、テルミンを用意させ、バックにバリトン/テナー・サックスとトロンボーン、トランペット、ストリングス・オーケストラを要求し、ロサンゼルスの有名なスタジオSound City Studiosでレコーディングされるなど、非常にゴージャスで費用の掛かったアルバムになっています。Johnは、前作での仕打ちに対するささやかな抵抗だったと語っています。今までのDIY感覚の溢れるシンプルな構成のバンド・サウンドをベースとしながら、ドリーミィで手の込んだ職人芸ポップになっており、珠玉のメロディは今作でも輝きを放っています。しかし、良質な作品ではありましたが、セールス・プロモーションはロクに行われずにセールスは惨敗、このアルバムを最後にレーベルから一方的に契約を解除されています。Don Coffey Jr.は、この時の違約金でデジタル・レコーディング機材を購入したと語っていました。バンドを冷遇したしっぺ返しは、お金持ちのElektraとはいえ、高くついたのでは。今作を最後にTom Pappasがバンドを去り、自身のプロジェクトFlesh Vehicleや、過去にやっていたバンドThe Used改めThe Used to Beで活動しました。代わりにSam Powersが新メンバーとして加入しています。

[In The Valley Of Dying Stars] (2000)

レーベル契約を失った彼らは、過去にシングルを単発でリリースしたニューヨークのレーベルArena Rockに電話をかけて「レコードの半分が完成したので、残りを完成させてリリースするのを助けて欲しい」とお願いし、レーベル側はそれを引き受けると約束してくれます。バンドは、ずっと彼らをヘルプしてきたエンジニアのNick Raskulineczの変わらない助力、新メンバーの加入を得て、2000年にアルバム”In The Valley Of Dying Stars"をリリースしてシーンに復活しています。過剰に豪華だった前作とは全く異なり、シンプルでストレートなパワー・ポップ・サウンドと、色々な困難に直面しても全く変わらない、Johnの良質で人懐っこい天才的メロディが冴えわたる作品です。しかし、アルバムのリリース後、中心メンバーのBrandon Fisherまでもがバンドを脱退し、一足先に脱退したTom Pappasと共に、過去に在籍したバンドThe Used改めThe Used To Beを再結成した後、音楽活動から身を引いてしまいます。これでバンドの存続は不可能に思われましたが、Johnはバンドの継続を選択します。

[Last Call For Vitriol] (2002)

2002年には、アルバム"Last Call For Vitriol"をArena Rockからリリースしています。Superdragをデビューからずっと支えてきたプロデューサーのNick Raskulineczはプロジェクトへの参加を希望しましたが、プロデュースの仕事が忙しくなり、他のメンバーがその役を引き継ぎ、友好的に別れています。この後Nickは、Foo Fightersの多数の作品やAsh, Trivium, Rushなどを手掛け、グラミー賞を獲得するほどの著名なプロデューサーとなります。Mic HarrisonとWilliam "Willie T.の二人のギタリストがヘルプで参加した今作は、メンバーのやるべきサウンドをやりたい様に作り上げた作品と言えました。今まで、殆どをJohn Davisが手掛けていたソングライティングに、メンバーのSam PowersとDon Coffey Jr.も参画し、Donはエンジニアリングにも挑戦し、レコーディングは地元ノックスビルの練習スペースで行われ、ほとんどを自力で作り上げた作品と言えます。レーベルの計らいで、お互いにファンだと言うGuided By VoicesのRobert Pollardがバック・ヴォーカルで参加しています。Johnは、このアルバムはバンドにとって最高のアルバムだと語っています。しかしこの体制は、Johnのメンタルの不調も感じさせました。レコード会社との軋轢や契約解除、メンバーの脱退などの環境の変化、最愛の祖父を亡くすなどの心労が溜まっていったJohnは、アルコール依存が激しくなっていきます。自分の書く曲の多くがダウナーで怒りを持ったものばかりになりつつあるのに気付いた彼が、他のメンバーに作曲をさせたのではないかと推測されます。アルバムを完成させたJohnは、バンド活動の終了を決意します。2003年にボストンのNEMO Music Showcase and Conferenceで最後のライヴを行った後、バンドは解散しました。このライヴの模様は、2003年に Instant Liveレーベルからリリースされた2枚組CD-R "The Paradise - Boston, MA 9/5/03"に収録されています。

[Changin' Tires On The Road To Ruin] (2007)

バンド解散後、Don Coffey Jr.は地元に戻ってレコーディング・エンジニアとして活動、インディ・レーベルや地元でのフェスティバルを開催しました。Sam Powersは、Guided By Voicesのライヴなどに参加するベーシストになりました。John Davisはソングライティングを続け、2005年に"John Davis"、2007年に"Arigato!"というソロ・アルバムをリリースしています。この2枚を聴き比べると、Johnのメンタル面の違いが色濃く表れてるのが分かり、良い方向に向かっていると感じさせます。そして同じ2007年には、Superdragがライヴ・ツアーを行うために、John Davis, Don Coffey Jr.,  Brandon Fisher, Tom Pappasのオリジナル・ラインナップで再結成しています。メジャー落ち後にお世話になったArena Rockには、同時期に過去のデモ・テイクを提供し、アルバム"Changin' Tires On The Road To Ruin”としてリリースし、本格的な再結成がアナウンスされました。

[Industry Giants] (2009)

色々な場所で断続的に行ったレコーディングにより、アルバム”Industry Giants”が完成し、こちらは2009年に自主リリースしています。盟友Nick Raskulineczがミックスで参加しています。彼らと同じく、メジャー・レーベルの一方的な契約で活動が困難になったバンド、Nada SurfやJars of Clayなどと交流し、ライヴ・ツアーも一緒に行いました。Johnは、敬愛するBig StarのAlex Chitonが亡くなった時には大変に落ち込んだようですが、2011年には、残されたBig Starのメンバーと共演し、Big Star with John Davisとしてトリビュート・ライヴに参加しています。この頃、Superdragの活動は終了したと発表されています。この頃、Johnはハードコア・バンドEpic Ditchを結成し、2014年頃からは、旧友のBrandon Fisher、Epic DitchのNick Slackと共に、新バンドThe Lees Of Memoryを結成、ソロ作品のリリースも並行して続けています。Superdragの方も再び動き出したようで、2014年には新録を含むデモ・トラックス”Jokers W/ Tracers"をSideOneDummy Recordsからリリースしています。このレーベルは、Elektraと争ってまでもSuperdragの過去作品のアナログ化を行ったり、The Lees Of Memoryの作品をリリースしていて、メンバーの信頼を得ているレーベルの様です。2021年に再びレコーディングに入ったという発言もありました。

2022年の暮れには、地元ノックスヴィルのSecond Bell Festivalに出演してライヴを行っており、元気に演奏する姿を見せています。あれほど嫌っていたメジャーからのアルバム収録の代表曲を、観客の大合唱と共に、楽しそうに演奏しているのを見ると嬉しくなります。自分たちの作ってきた音楽を毛嫌いせずに、楽しく音を出していってもらいたいものです。今回は、メジャーからの1作目に収録されたバンドの代表曲とされている曲で、最新のライヴでも熱狂と共に迎えられたこの曲を。

"Sucked Out" / Superdrag

#忘れられちゃったっぽい名曲

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