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”新星堂”と"WIM MERTENS"の事。

「新星堂」と言えば、言わずと知れた日本を代表する大型レコード販売店。1949年に創業してから、2003年にツタヤに抜かれるまで、日本の最大手に君臨していた。しかし、音楽ソフト業界の大不況の荒波には勝てず、2016年には自主再建を断念し、ワンダーグーの親会社に吸収合併されていますが、「新星堂」ブランドは継続しています。さて、その新星堂ですが、1980年代には自主レーベルを持っていた事はご存じでしょうか。タワーレコードだって、シスコだって、ツタヤだって持ってる(あるいは持ってた)じゃんと言うなかれ、その内容とセンスがあまりにも素晴らしかったのです。その名も「新星堂シリウス・コレクション」。基本的に海外のレーベルと直接契約して、オリジナルの帯と、日本語ライナー・ノーツを付けて、CDが無かった1980年代初頭ですから、アナログ盤でリリースしていました。アナログ流行りの現代では、相当に重宝されたに違いません。

[Eden / Everything But The Girl] (1984)

この「新星堂シリウス・コレクション」が契約したレーベルが凄い。1984年の発足から怒涛のリリース、「CHERRY RED RECORDS」と契約して"Everything But The Girl","Eyeless In Gaza"、オムニバス""Pillows & Prayers 2"などをリリース。つまり、"Felt","Grab Grab The Haddock","Marine Girls"などが日本で紹介されていた。

[Pllows & Prayers 2 / V.A.] (1984)

同時に「Les Disques Du Crépuscule」とも契約して"Anna Domino","Antenna","Tuxedomoon","The French Impressionists"などをリリース、その兄弟レーベルと言える「Factory Benelux」から"New Order","Durutti Column","A Certain Ratio"などを...と、キリがないのでこの辺で。そういったアーティストたちの作品を、当初は輸入盤に帯と日本語解説付きで発売していましたが、遂には日本国内での製造を始めて「Crépuscule Au Japon」を立ち上げるまでに至ります。卸もやっていたはずだから、地方のレコ屋でこういったブツが入手可能という奇跡を起こした功績はあまりにも大き過ぎて言葉が見つかりません。この「シリウス・コレクション」は1986年辺りからラインナップを変え、フランスやスペイン、そして日本のアーティストを扱いはじめ、「新星堂レーベル」として、ジャズや世界のポピュラー音楽、ワールド・ミュージックなどを扱うレーベルへと変化していったのでした。

[A Selection Of Songs / The French Impressionists] 1984

さて、この「新星堂シリウス・コレクション」から1曲決めにゃならんのですが、あまりにも多くて...自分の中では、「Les Disques Du Crépuscule」といえば"Wim Mertens"と思っているので、彼にしておきましょうか。"Wim Mertens"と言えば、現代音楽やミニマル・ミュージックのピアニストでありコンポーザーとして知られ、数多くのソロ名義での作品をリリースし、ピーター・グリーナウェイの映画『建築家の腹』のサウンドトラックを含む多数の作品がありますが、「Les Disques Du Crépuscule」所属時は、WimとHerman Lemahieuを中心とした複数の音楽家によるアンサンブル・プロジェクト”Soft Verdict”として、たった3年余りの短い期間ですが、何枚かの12インチと、アルバム”Vergessen”、”For Amusement Only"、ミニ・アルバム”Struggle For Pleasure”、そして全てを総括するような、5曲収録ながら、トータル・タイムは70分近くとなる壮大なアナログ2枚組のアルバム"Maximizing The Audience"を残しています。

[Maximizing The Audience / Wim Mertens Performed By Soft Verdict] (1985)

少ない音数でありながら、静謐と躍動と悲壮を同時に表現した、人生の様な壮大な楽曲群は、他に類を見ない存在感とヨーロッパ的な美学に彩られていて、畑違いではないのか?場違いでは?と、遠慮がちなNew Wave少年の心をも熱くさせてしまったのでした。彼の存在は、自身の音楽趣向を広げて、良いものは良いという聴き方に多大な影響を与えています。それほど、凄いものでした。

[Struggle For Pleasure / Soft Verdict] (1983) 

今回は1983年のミニ・アルバム”Struggle For Pleasure”からの1曲を。このアルバムだけでも、ある男の人生の悲哀を語る壮大な物語を感じずにはいられません。そのタイトル・トラックです。

“Struggle For Pleasure” / Soft Verdict

#忘れられちゃったっぽい名曲

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