月よ月夜
私の心を支えるものの一つに、月がある。
濃紺の夜に浮かぶ月。三日月。半月。満月。
ひときわ夜の月が好きだ。金色の月が。
満月が好きだ。満ち足りた形で。完璧な形で。
蜂蜜色、時間を凍らせて命の輝きを留める。
いつから好きだっただろうか。
きっと夜更かしをするようになってからだ。
夜に部屋の灯りをつけることを許されず、出窓で本を読む夜を過ごしたあの日々から。
理不尽な怒号と罵声を浴びせられ、枕を濡らしたあの日々から。
昼でもないのに、真っ暗闇の中で煌々と光る月は神秘的だった。
欠けて船の形となれば、静かな海を渡って行ける。月は私の救いだった。
見上げれば目の中いっぱいに月の光が溢れて、涙を忘れられた。
怒りも悲しみも憎しみもその一瞬だけはすうと溶けて薄らいだ。
太陽という他人の光を受けてなお、己の光として熱のない輝きをもって下界を照らす月が、慈愛の象徴のようで好きだった。
誰にもわからなくていいのだ。
ぴったりと満ちた満月の夜、雲のない夜、光を真上から浴びてほうと息をつくその一瞬が幸福であることが。
何よりも焦がれる一瞬であることが。
全てを捨ててこの刹那で消えてしまってもいいと思うことが。
月の光の下はみな平等だ。
月は私の生き死になどどうでもいい。
私が勝手に焦がれているだけだ。
だから、私は掬われない。命を。
だから、私は救われる。 命を。
月よ月夜。愛しています。
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