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不器用なダッドの思い「スティルウォーター」レビュー

引き込まれた映画でした。静かな作品ですが、その中に生まれる一瞬の揺らぎがどんどん歪みを生んでいくような。後半は息を止めて見入るような展開でした。

この作品をよくしている一つの要因に特に音楽があるように思います。無骨なビルがマヤと学校から帰るシーンなど、ほっこりさせるところはしっかりと可愛い音楽で雰囲気を変える。緩急の付け方がベタと言っていいくらいハッキリしてるから、見てる方も心が休まるし、終盤の別れのシーンでも「そりゃ、ビルも男泣きするよな…」と涙腺がゆるくなる。

またマルセイユという土地のワイルドな一面(スラムのような巨大団地やサッカースタジアムの盛り上がり方)と、一方でヴィルジニーの知り合いにとの食事会での優雅な雰囲気。これらの見知らぬ土地での表と裏の舞台で翻弄される主人公という構図も良かった。

そして終始、神にアリソンの無事を祈り続けるビルの人物像。彼自身は娘を愛しているし、見知らぬ土地で仕事を見つけ、同居人と上手くやっているし、立派な人物だ。ただし一方で娘からは信頼がなく、案の定単独で法の領域を踏み超えて娘を助けようとしてしまう。

ビルのような人物像は近年も多く映画で描かれてきたが、多くはそのメンタリティを仕方がないものとして接しつつ、最終的には変わらなければいけないものとして批評している作品が多いように思う。

そしてマット・デイモンは常にその中心としてアメリカのダッドを意識的に受け入れているように思う。不器用な俺たち、これしか出来ないけど、でも愛する者のために変わらなければいけない。自分の人生を否定することにもつながるこの流れ。有害な男性性と言われ始めた現代において、男性をとても繊細にケアし始めているマット・デイモンはじめ何名かの男性俳優。彼らの思いが伝わった気がした。

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