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実用アコーディオン仕事術(レパートリーの増やし方プランの立て方)」

「アコーディオンの音色は人を幸せにする」安西はぢめです。アコーディオン奏者とひと口に言っても様々な分野のプレイヤーがいます。レコーディングで活躍されている方もいれば、音楽性とスター性を遺憾無く発揮して芸能界でも活動されて世間に広く認知されている人もいますし、オリジナル曲を弾き語りされている方なんかもいる事でしょう。幅広い音楽のジャンルもそれぞれ様々です。その中でも私はマイクで大音量と言うよりは、近くで生の音を、しんと静まり返ったコンサート会場と言うよりはザワザワしている飲食店やパーティー会場、レストランのテーブル周りなどの生演奏を主なフィールドにして来ました。空間・ムードをある程度コントロールしているのは私ですが、主役はお客様というつもりが多分にありますから、演奏を静かに聴いて頂く必要や一曲毎の拍手は無くても良くて、談笑や食器の音、興に乗って踊り出す方が居ても全然構わない現場が殆どです。

そして、私の場合は割と長時間に及ぶ演奏を受け持つことが多いので、一曲入魂のステージを送って拍手喝采を浴びる事を陸上の「短距離」競技に例えるならば、さしづめペース配分を上手にしながら派手なプレイをせずに淡々と走り抜く「長距離型」の選手と言えるかも知れません。チンドンの仕事をよく頂いていた頃に親方から「はぢめちゃんさ、朝から夕方までのチンドン仕事はマラソンみたいなもんだから、そんなにずっと張り切ってたら終いまで走れなくなちゃうよ。もっと気楽におやりよ」といってもらった意味が、今なら良くわかります。分野毎に「ツボ」と言いましょうか、演奏技術以外に違うところが色々あります。なので、私が思う「コツ」を、私のフィールドに関して書き記したいと思います。

今回はその重要な基礎の部分になる「幅広いレパートリー」についてです。

【頭の中にレパートリーを増やすススメ】

生演奏のアコーディオン奏者がよく依頼されるのが「会場を練り歩いてください」とか「各テーブルを回ってください」です。この時、譜面台を持って歩く訳には行きませんから、楽譜を見ないと曲が弾けない人は引き受ける事が難しいので、仕事に出るために弾ける曲(持ち曲、レパートリー)を覚えますレパートリーは財産です。しかも、頭の中にしまっておけばどこへでも持って歩けます。それこそ外で弾く場合なんかは、風で譜面台が倒れたり楽譜が飛んで行くアクシデントなども多分に想定されますし、飲食店内で譜面台のスペースを頂いてしまったらスタッフさんやお客様の動線が狭くなる場合もありますので、とにかく覚えられたら覚えられただけそれに越したことはありません。

因みに曲を暗記する事を「暗譜(あんぷ)する」とか「メモる(メモリーに入れるの意。その曲メモっておいてね!なんて使います)」なんて言います。通信カラオケの機械みたいに数万曲ダウンロードできたら無敵ですが、こちらは生身の身体なので、知ってる曲や自分の専門分野、そして、ある程度「良く出る界隈」を優先的にカバーします。

そして長時間の立奏が見込まれる場合は小型のアコーディオンを使うことも視野に入れます。その際には同じ曲でも楽器のサイズに合わせてキーを変えたり、音色の選択肢が狭まる事も予めプランの中に入れておきます。

【効率良くレパートリーを増やす作戦を立てよう】

まず、オリジナルの自分のセットを作る前にジャンルを問わず一般的なアコーディオンスタンダードとも言える曲をある程度押さえておきましょう。その際、優先順位や自分の好みや活動するフィールドとの兼ね合いを考えると無駄なく曲数が増やせるのではないかと思います。以下にカテゴリーの例を挙げて行きます

【シャンソンやカンツォーネなどヨーロッパの往年のヒット曲】大前提としてアコーディオンでヨーロッパを思い浮かべる人がとても多いので日本でも歌われたり紹介された曲やCMで起用されたものは知名度も高くリクエスト率も高いです。アコーディオンで弾きやすい曲多いので、まず押さえておくと良いと思います。 例:「バラ色の人生」「ヴォラーレ」「アマポーラ」「マイウェイ」など。カントォーネでいえば「オー・ソレ・ミオ」「サンタ・ルチア」「マリア・マリ」など、シャンソンで言えば「ジュ・トゥ・ヴ」など軽クラシックとジャンルを跨っているものもありますので、それらを覚えれば幅広く使えますね。

【映画やミュージカルの曲】も大変親しまれていてリクエストが多いです。特にディズニーやジブリのアニメ作品の楽曲も人気が高いです。 例:「第三の男」より「ハリーライムのテーマ」「サウンドオブミュージック」より「 私のお気に入り」「エーデルワイス」「ドレミの歌」ほか。まだまだ他にも「雨に唄えば」「シェルブールの雨傘」「巴里の屋根の下」「巴里の空の下」などの作品からそれぞれのタイトル曲などが知られていて、人気が高いです。

【タンゴ】も日本人が好むので数曲は押さえておきたいところ。例:「ラ・クンパルシータ」「エル・チョクロ」「カミニート」など。「リベルタンゴ」の人気も高いので、それを弾く人も多いようです。

【個人的に、タンゴをアコーディオンで弾くことについては自分の考えをまとめました。ご参考にご覧頂ければ幸いです】

【いわゆるスタンダード曲】ジャズナンバーラテン(この十把一絡げな呼び方もかなり乱暴で疑問がありますが、日本で一般に指す「いわゆるラテン」という事でここはひとまずご理解ください)、カントリーハワイアンの名曲などもそれぞれ数曲で良いので押さえておきます。私は有名曲であることももちろん大切にしていますが、歌詞の内容が前向きだったりハッピーな曲を優先して覚えています(ブライダルなどでもすぐに使えて一挙両得です

以前私が和食のレストランで懐メロを弾くレギュラーのお仕事をしていた時に、ハワイアンの有名曲を数曲覚えていたので、たまたま来店したハワイ州関係者の皆さんを接待するテーブルで「さわり」を弾いてハワイへの憧れをお話ししてコミュニケーションを取ったことがありました。大変喜んで頂けて咄嗟の時、芸は身を助くってヤツを地でいけた思い出があります。

【有名な旋律のクラシック】ソロで弾けるクラシックを何曲か覚えるのも利用度が高くておススメです。「ダニューブ河の漣」(イヴァノヴィッチ)「美しき青きドナウ」(シュトラウス)「乾杯の歌」(ヴェルディ)「歓喜の歌」(ベートーベン交響曲第9番合唱付きの主旋律)「メリーウィドウ ワルツ」(レハール)などが挙げられるでしょうか。モンティの「チャルダッシュ」もソロだけでなく他の楽器と共演する機会も多いので、ライトクラシックとして押さえておきたい一曲です。

【日本の曲 童謡・唱歌から歌謡曲など】アコーディオンで弾きやすい流行歌は比較的古い曲になりがちですが、好きなアーティストがいる方はぜひその方のカバーにも挑戦すると良いと思います。童謡や唱歌は次に書いた「季節の曲」も多く含み、よく知られている曲も多い上ほとんどが短いですから、ぜひたくさん覚えてみてください。

【日本調の曲を弾くためのヒント動画をどうぞ】

【季節の曲】曲数でいうとクリスマスソングが圧倒的に多くあり「必修科目」ですが、その他にも「うれしいひな祭り」「鯉のぼり」「お正月」「たなばたさま」などの行事の曲もすぐに弾けた方が良いでしょう。私は持ちネタに「〇〇音頭」がいくつかあるので盆踊りシーズン前には確認をします。

【その他】我々アコーディオン弾きが仕事上絶対に覚えておかなければならないのが「バースデーソング」です。私は「その他の事態」も想定して結婚行進曲(ワーグナー、メンデルスゾーン)や、突然手品が始まった時の為の「オリーブの首飾り」冗談BGMとしての「天国と地獄」「葬送行進曲」「得賞歌」「乾杯の歌」(ヴェルディ)、また閉店追い出しの「蛍の光」などもいつでも出せます。お仕事先で必要になりそうなものを先回りして覚えてしまってください。

【バースデーソングについては弾き方のヒントを動画にしたことがあります。ご参考にどうぞ】

【仕事内容で優先順位を考える】もしラッキーな事にレギュラーの仕事がオファーされている方なら、その仕事先ですぐに使えるレパートリーから覚えるべきでしょう。飲食店でもビヤホールなのか、ワインを提供する店なのか、そしてどこかの国旗を掲げているようお店なのか幅広い商品を扱っているお店なのか、土日のファミリー層が集まる商業施設での演奏なのか、などによって覚えるべき内容は実に様々です。年齢層によってはお子様向けのオーダーかも知れませんし、コンセプトカフェなどにはアニメソングやディズニー、ジブリなどの曲をどんどん覚えなければいけないケースもあるでしょう。でも、もしこういうアコーディオン仕事を手掛けてみたい方ならば、これらのオーダーにも応えられるように、ある程度人気曲を覚えないまでも弾けるように「なぞっておく」ことは日頃から重要だと思っています。私はオフの日などには自宅の楽譜を引っ張り出して「初見大会」を繰り返しています。楽器を弾くことが本当に大好きなので、それも楽しく受け止めていて、新しい事にチャレンジできて実用を兼ねた豊かな時間は苦になりません。むしろ幸せです。

【レパートリーを増やす順番】

さて、もし貴方がゼロから曲を覚えるとしたら、私ならまず全体計画を立てることをお勧めします。「作戦を立てる」といっても良いかも知れません。もし既に弾ける曲が何曲かあるならばそれらをジャンル別や短調・長調の別などで分類整理してみましょう。そして手持ちの「商品」がどのくらいあるかちゃんと把握してみてください。私が曲を増やす時に心掛けていたことは「偏らないように覚える」ことでした。自分が好きな曲、弾ける曲の順番で何となく勉強して行くと、ワンパターンに陥りがちです。ワルツだけを30曲弾けても、全くメリハリがなく、聴いている方の印象も同じになってしまい、それだけで3ステージこなせるとは言えません(それがクライアントの注文だったら話は別ですが)。貴方の持ち物は偏り過ぎていませんか?さて次の例を読んでみてください

・例えばミュゼット(パリの下街生まれのアコーディオンが主奏のダンス音楽)を軸に覚えて行こうとした場合には、私ならリズムが違うものを混ぜつつ覚えて行きます。ワルツ×10曲、パソドブレ×5曲、ポルカ×5曲、タンゴ×3曲、ジャヴァ×3曲、のようにジャンルの中のリズム別の構成比を参考にレパートリーを増やすと、そのまま起伏に富んだ選曲のステージが組める「財産」が手に入ります。その時には曲調もメジャーとマイナーをバランス良くしておくことも大事です。日本人の好みとして短調を選んでしまいがちなのですが、そればかり練習したのでは「明るい曲を弾いて」と十中八九メジャーの曲を弾いて欲しいと期待しているお客さんのリクエストに当たった時にレパートリーが無ければ話しになりません。

まさかマイナーキーの曲を弾いて「曲の調性と明るいか暗いかは本来関係ありません。東京音頭は果たして暗い曲ですか?青い山脈の歌い出しは『若く明るい歌声に』ですよね!?」などと議論を吹っかける訳には行きません。なので、そういう時は無難なメジャーの曲を弾けるようにしておきましょう(クライアントとの信頼関係がある時にはその限りではありません)そんなこんなで、マイナーキーのワルツを一曲覚えたら、ポルカを練習して、今度はメジャーキーのワルツを一曲覚えて、パソドブレに取り組んで…のように三拍子系と二拍子系と長調短調を織り交ぜながら練習すると効率が良いので参考にしてください。

【まだまだまだまだある、世界のアコーディオン音楽】

【番外アプローチ】アコーディオンは洋の東西を問わず、あちらこちらの国や地域の民族音楽にも使われています。もし貴方が特定の音楽が好きだったら、ぜひそのレパートリーを伸ばして、そこを貴方の「個性+強み」にしてみてはいかがでしょうか。バルカン半島の音楽や、中央アジア諸国、南ドイツやオーストリア西部などのアルペン音楽、私のライフワークでもあるスロヴェニア音楽やウィーンのシュランメルン。各地のユダヤ系コミュニティで演奏されているクレズマー、日本にもたくさんの愛好者がいるアイルランド音楽スコットランド音楽ロシア各地の音楽にもアコーディオンの音色が欠かせません、ブラジルフォホーノルデスチショーロBPMなどの各種音楽アルゼンチンのチャマメドミニカ共和国のメレンゲ、北米のケイジャンザディコノルテーニョなど、バスクの音楽やフランスには世界に誇るミュゼットの他にブルターニュやオーヴェルニュ地方にも独自のアコーディオンを使った音楽があります。北欧各国の音楽も魅力的です。そして、イタリアもざっくり一括りに語りがちですが、丁寧に聴いていくと各地に個性豊かなアコーディオン音楽の世界が広がっています。さらに日本ではあまり耳にする機会はありませんが、ポルトガルにも独自のアコーディオン音楽があります。そして意外に思われるかも知れませんがアラブ世界にもアコーディオンはたくさん使われています。ご自身で、或いはどこかの教室でアコーディオンを習い始めた、もしくはもう長く弾かれている方、場合によっては壁にぶつかっている方も、このレパートリーを増やそうとする機会に、便利な世の中でネットの海からご自分の好みに合う「まだ見知らぬ」アコーディオン音楽と出会って、レパートリーに取り入れてみてはいかがでしょうか。見て行けばすぐに世界中に様々な見たことも聞いたこともないアコーディオンの親戚の楽器たちが生き生きと奏でられている事にも気付かれることと思います。それをお手持ちの楽器で「ニュアンス」を再現するように弾くも良し、違う楽器の沼にハマって行くも良し。本当にアコーディオンは楽しいですね(興味が尽きず、時間がいくらあっても足りないくらいです!)

例に挙げたアコーディオン音楽の中には、私なりに多少深掘りしている分野もありますので、知っている事を追々記事にまとめたいと思います。どうぞお楽しみに!

まとめ

今回はアコーディオンを人前で弾くという前提があるというつもりでレパートリーをどうやって増やして行くのか、そして出来ればそれを暗譜した方が良いというお話をしました。暗譜の仕方の好みは人それぞれにあるでしょうから触れませんでしたが、先生やアコ友さんに限らず、ギターやピアノなど他の楽器のプレイヤーさんとも積極的にどんな方法で暗譜しているか聞いてみると面白いかも知れません(私は割と早い段階で未完成でも楽譜を離しては、ひたすら回数を弾いて脳と身体の両方に記憶させるよう仕向けています。そして第二段階として、楽譜を離れても演奏できるようになったら、実際に演奏中に話しかけられたりする事を想定してYouTubeで「全然関係ない内容の、人が話している動画やドラマなどを見ながら、それを理解しつつ間違えないように弾く」稽古も時々しています。皆さんも色々試してみてくださいね!今日のお話がもし皆さんのお役に立てたら幸いです。

コンテンツはここでお終いですが、もし参考になった方はぜひサポートの投げ銭をよろしくお願いします。ボタンアコーディオン安西はぢめ

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