代々木公園のオリパラライブサイト建設 ※追記あり
代々木公園の中心部3.5haの敷地に東京オリパラ2020のライブサイトが建設されるらしい。
コロナ禍下の五輪開催に反対する多数の世論に耳を貸さずに都心部の貴重な樹木を剪定して巨費を投じてライブサイトをまじで建てるってなことなので、一部では当然ながら批判の声が上がっている。
このことは各メディアにも批判的に取り上げられて、ライブサイトの建設に反対するネット署名も瞬く間に10万筆を超えた。ツイッター上では「#代々木公園の木々をオリンピックから守りましょう」というハッシュタグが拡散された。
なんだけど、反発の声をみてみると複数の主張がごっちゃにされていて、要点が隠れてしまっている印象を受ける。もっというと、ライブサイト建設批判よりも五輪反対が前面にでてきている感じがする。
いうまでもないけど、ライブサイト建設の批判は五輪開催反対とは切り分けないといけない。
というのも、批判を何でもかんでも五輪開催賛否の議論につなぐのでは、なににつけても開催に賛成か反対かってことで社会を二分化されていくことになるし、それだけでなくて批判することそのものが力を失いかねないからだ。
批判的言説が力を失うって、これは大変なことなんですよ。
ということなので、そんな不健全な方に向かわせないように、代々木公園のライブサイト建設に関して批判すべき要点を整理した。
代々木公園のライブサイト建設
東京都のホームページを見ればわかるけど、東京2020ライブサイト等基本計画によれば、ライブサイトは「世界中から訪れる観戦客等がライブ中継で競技観戦を楽しみ、大会の感動と興奮を共有できる会場」と位置づけられている。
建設の計画は2019年4月に公表されていて、代々木公園と井の頭公園の2箇所をライブサイトの拠点会場とするとされている。
また、コロナウィルスが拡大した2020年の12月にも、適切な感染防止対策のうえで実施することとしている。このとき公表された内容も、代々木公園を拠点会場とすることで変わりはない。
会場の建設位置は公園の中央にある。
会場には大型ビジョンやスクリーンが設置されるほか、展示や飲食販売のためのブースが設置されるそう。
それで、いま話題になっているのが、この会場の建設のために樹木が一部剪定されたということ。東京新聞の2021年5月26日付の記事「「できるか分からない東京五輪のために、木まで犠牲に…」パブリックビューイング準備の剪定に厳しい目」にはこうある。
ちなみに、会場周辺は6月1日から10月4日まで利用が制限される。現地には立看板が設置されていた。
看板によれば5月31日までは立ち入りできることになるけど、現地はすでにオレンジ色の囲いがあって入れない。
反発の声
この剪定作業への反発の声として、ネット署名「代々木公園の自然を破壊する、東京五輪2020ライブサイト計画の中止を求めます #代々木公園の木々をオリンピックから守りましょう」のキャンペーン情報に掲載された文章は次のような内容だ。
批判は概ね3点にまとめられる。
①樹木の剪定によって自然破壊・景観破壊をすべきでない、ということ。
②人の集まる場所を作るべきでない、ということ。
③「国民のため」と標榜すべきでない、ということ。
以下、順にみていこう。
樹木の剪定は「自然破壊」か
まず①の自然破壊・景観破壊について、もちろん、いずれの破壊もするべきではないと思う。
そんなことは言うまでもないんだけど、そもそも樹木の枝葉の剪定は自然破壊なのかというと、必ずしもそうではない。というか、程度にもよるけど管理上しばしば必要になる。
たぶん一部に誤解があるのかもしれないけど、剪定と伐採は違う。伐採は根本から木を切り倒すことだけど、剪定は枝葉を切り落とすことだ。
公園の日照の改善や植物の健全な育成のために、樹木の剪定はしばしば必要になる。
もちろん過剰に切り落とせば枯れることもあるけど、管理上の剪定では基本的にはそうならないように弱い枝とかを選んで切り落とすのが一般的だ。
記事を読む限り、いずれも「剪定」と表現されているから、その通りであれば切り倒すわけではない。
また、景観破壊というにしても、54ha(東京ドーム約11個分)の敷地の一部の樹林の枝を剪定したことが、「都民の憩いの景観」を破壊したというのは少しいいすぎな気がしないでもない。個人的に現地を見て回ったかぎりは気にならなかった(というか、どこの樹木が剪定されたのかすらわからなかった・・・)。
代々木公園に強い思い入れがある人もいるだろうから景観破壊を批判するのはまだわかるとしても、それを「自然破壊」と大々的にアピールするのはややミスリードな感じがある。
公園は感染源になるか
次に②について、人の集まる場所をわざわざ作るな、というもの。たしかに、日々変異するウィルスの感染が、3密を避ければ抑えられるというのも疑わしいともいわれる。
しかし一方では、アメリカでは公園利用とコロナの感染拡大には関係がないとする研究成果も発表されたそう。毎日新聞の2021年5月29日付の記事「新型コロナ 公園利用で感染者は増えない」にはこうある。
この研究成果にしたがえば、公園利用が感染拡大には直結するわけではなさそうだ。もちろん、公園で飲食をした人が感染したケースもニュースになっていたことがある。だけども、そういった飲食時をはじめ、利用に際して十分に感染予防対策が行き届けば、感染拡大を抑えることは可能といえるんじゃないかと思う。
ライブサイト建設は「国民のため」か
最後に③について、ライブサイトの建設が国民のためかといえば、むろん五輪開催に反対する多数の国民は否定するだろうと思う。
「今夏の五輪開催、反対が8割超」なんて記事も出ていたのに、「やればやったで国内はそれなりに盛り上がる」なんていう政治家がいるほどだから、開催反対の声は政治家によって蔑ろにされているということだろう。
そういうところで、「国民のため」と標榜することに対する批判はよくわかる。そして、これこそライブサイト建設の批判の要点とすべきところだと思う。
五輪開催を疑問視する世論が広がっていても、それを無視して開催を前提に準備を進めるというのは、単に政治的な対応として不誠実というだけではない。
これだけの反対の世論に関わらず開催準備が止まらないというのは、強行的な権力の姿勢に対してその中枢あるいはその周囲から批判が向けられていないということでもある。
これを戦前の政治的な状況に被せて批判する向きもあるけど、それだとまた論点がずれてしまう。いまは戦時中とは違って多数の国民が反対を表明している。
だから、要点として批判すべきは五輪開催に反対することでも、戦前回帰を批判することでもない。反対の声に耳を傾けないのに「国民のため」と標榜し、施設建設を既成事実化させようとする強引な政治の態度を批判することが必要なのだ。
批判に力をもたせること
ネット署名のキャンペーン情報に掲載されていたうち、わけても①「自然破壊・景観破壊」批判はあまりに無力だった。五輪反対の世論を扇動するために公園樹木さえ動員されているかのような印象さえ受ける。
繰り返しになるが、こういう反発はただ開催の賛否に関する対立を深めるだけで、有効な批判にはならない。SNS上で不毛な罵りあいが激化するだけだ。
必要なのは、対立を深めて同じ陣営の人の感情を焚き付けることで主張を大きくすることじゃない。それだと対立する意見もますます過激になるだろうし、どちらが先に折れるかというチキンレースになっていくのは目に見えている。そのしわ寄せを受けるのは国民なんですよ。
そうじゃなくて、必要なのは要点をとらえた批判をして、単純な二項対立に持ち込むことなく政治の進む軌道を修正いていくことなんですよ。
それは同じ陣営や共同体の人たちが盛り上がるためのツイートによってじゃない。そういうアジテーションよりも力を持つのは加藤典洋がいうようなフリッパント(不真面目)な語り口によるのじゃないかと思う。
加藤典洋はハンナ・アレントとゲルショム・ショーレムによるアイヒマン論争を参照して、アレントのアイヒマン裁判の報告が書籍化された『エルサレムのアイヒマン』における語り口がフリッパントなものだったというショーレムの批判に応答するアレントの議論から、この語り口について説明している。つまり、このアレントの語り口こそ「公共的」だったと。
加藤は一方で『敗戦後論』で扱った戦争認識の分裂を「共同的」な語り口によるものとしているんだけど、つまり共同的な、あるいは同情する語り口はむしろ分裂も生んでしまう。
だからアレントはあえてフリッパントな語り口を採用して公共的な語り口でアイヒマン裁判の教訓を普遍的なものとして取り出そうとした。逆に同情的な語り口でないためにアレントは感情的な批判を浴びたわけだけど。
それでもアレントがその裁判から得た教訓は、今日においても力を持っている。それは最近のSNS上の言説(といえるのかもわからないけど)のように、熱狂的に生まれては跡形もなく消えることを繰り返していくものとはわけが違う。
むろん、だから熱狂するのではなく冷笑せよという話ではない。言説に力を込めるために、加藤のいうフリッパントな態度が必要にもなるのだ。
※6/1追記
ライブサイト建設が中止されたとのニュースが出た。ヤフーニュース記事には次のようにある。
ライブサイト中止がどのような経緯だったのかが分かりづらいけど、とりあえずは賢明な判断だと思う。
ただ、ワクチン会場にするといって、接種を担当する人手が不足している問題はどう解決するのか。あまり具体的な検討をせずに五輪開催に向けたイメージ戦略としてライブサイト中止を発表したのだとしたら、結局は五輪開催賛否の議論に還元されていくことになる。