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音楽がくれるもの -stardust album-

毎朝、窓を二方向開けて風の通りをよくする。本格的な梅雨入り前、今日も清々しい五月の風が入って来る。

10時すぎ。
ダイニングテーブルにパソコンを起動させ、淹れたてのコーヒーを手元におおいて新聞を開く。ドリップコーヒーを美味しく淹れる練習で、3種類の豆を毎日順に落としてみているけれど、昨日の味と香りをしっかり覚えていないのでその違いまで分からない。毎日、今日も美味しいなと飲む。


テレビはつけず、アナログだけどCDを1日中聞いている。
都度入れ替えるのが面倒なので1枚を延々リピートしているのだけれど、聞いてるというより、店内に流れるBGMみたいに時折耳に入ってくるような、心地よい静かな音楽を好んでいる。

最近ずっと聞いているのが "stardust album "という1枚。
兵庫の篠山にある rizmというギャラリーが製作したもので、そこに集った音楽家や写真家の美しい作品集で詩集の冊子とセットになっている。

私はこのCDを、数年前に旅先の小さな本屋で買ったのだった。

haruka nakamuraが好きで、彼の音楽をたどっていく中でこのCDの存在は知っていたのだけれど、一般的なショップで売られているものではなかったので手に取る機会もなく、値段も高かったのでネットで衝動的に買うのもためらって、心に留めておくだけだった。

それに尾道の”紙片”という小さな本屋で出会ったのだった。

尾道への旅はここを目的としたようなものだった。人通り少ない商店街の、見落としてしまいそうな看板を目印に、文字通りうなぎの寝床のような暗い路地をすすんだ先にその店はあった。

中に入ると店主のこだわりが見える選書や雑貨が並んでいる。それらを静かに眺めて楽しんでいると、このアルバムが平積みで置いてあるのに気が付いた。
ここで出会えるとは... !
旅の思い出になる本を求めるつもりだったけれど、これに出会ったことで目的は達成されたような気がして、迷わずアルバムを求めた。

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Stardust album は、参加したアーティストが星や光をテーマに編んだ作品だった。おそらくそれぞれがrizmという場でこれらの作品を別々に発表したものだったのだろうけれど、星空の下にひとり静かに佇んでいるかのような、暗く冷たい蔵の中から光を眺めているような、安寧な世界が広がっていた。

心地よく紡がれる音楽の、その中のひとつ。
森ゆにさんの歌声と詩は、息子の子守歌にもなった。

「星のうた」作詞作曲 森ゆに

東の空からアンドロメダの
微笑みをたずさえ夜は来る
どこから生まれて どこへ消えるの
またたくはさそりの赤い星

憂いを銀河の渦の中に
君とゆうげを囲んで
また明日の話をしよう

穏やかなピアノの旋律に包み込むような歌声が本当に心地よくて。
BGMとして流している中で、この「星のうた」がはじまると手をとめてじっくり聴き入ってしまう。そんな1曲。



尾道を訪れたのはお盆の頃だったので、このアルバムを聴くと、汗をふきふき坂道を登ってたどり着いた千光寺や、そこから眺めたからしまなみ海道、海路を行く大きな船、そして小さな”紙片”の静けさが思い出される。
星空と光と、
潮と夏の気配。

音楽といつかの思い出が、今の時間に寄り添ってくれている。


最後に。
Stardust album の冊子の巻末に追悼文のような言葉がある。今は亡き、ある人に向けて綴られた文章が胸を打つ。

そこで、この作品たちが、私たちが今を生きている事と、いつか土に帰っていく事へのそれぞれのオマージュだったことが分かる。

冊子の中より、ミロコマチコさんの言葉からの引用
「生まれてから死ぬまでわたしはわたしをやるのだから。」

ほんとうに、そのとおり。
誰でもなく、わたしをやるしかない。と思う。
そうして、もう冷たくなってしまったコーヒーをゆっくりすすった。



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