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特別なバードコール

先日出かけた先で、バードコールというのをひとつ買った。手のひらに入るサイズの木材にひとつ穴が開いており、中に無機質な太いネジが差し込まれているものである。そのネジを回すと鳥のさえずりに似た音が出る。別名を鳥笛ともいうこれを上手く鳴らすことができれば、鳥を呼び寄せられるという。

木の形状によってそのさえずりの音色は全然違ってくる。私は、息子が木で輪ゴムを飛ばす鉄砲をつくるワークショップに参加している間、レジ前に吊るされていた沢山のバードコールを片っ端から鳴らしていった。
ヤクルトサイズぐらいの円柱型のものは、うぐいすのホーホケキョの「ケキョ」に聞こえる音が出た。別の四角型の大き目のものからは、キキキキと、高い声で鳴く鳥のような音が出た。別のタイプはギィギィと低い音で、夜の森で聞こえるような音がした。同じように見えて全て違う音が鳴る。
私は息子が時間がかかっているのをいいことに、たっぷり時間をかけてその中からひとつのバードコールを選んだ。

選んだのは、ネジの調整次第で「キヨキヨ」とも「チヨチヨ」とも聞こえるもの。鳥には詳しくないのだけれど、頭の中には、その日散歩した森の木の梢にとまる小さな野鳥を妄想していた。これを首からぶら下げていつもの緑道を散歩したらどうだろう。都会の鳥たちは聞きなれない音を聞いて反応してくれるだろうか、と一人ほくそ笑んだ。

***

実際はどうだったかというと、面白いことになった。
ここ二日ほど日課の犬の散歩中に持ち出して、いつもの緑道で鳴らしてみるのだが、鳥の興味はひいていない様子なのだ。わざわざ電線に留まっているヒヨドリのような鳥にむかって「キヨキヨ」と奏でてみているのに、特段変わった様子もなく退屈そうにそこに留まっている。ネジを調整して、チヨチヨ音や、細かく素早くねじって俊敏な鳴き音などを奏でてみても、ヒヨドリも雀も、鳩もカラスもご興味なさげである。
鳥とのちょっとドリーミーな交流を思い描いていた私は、思わず舌打ちでもしたくなるような思いだ。

今朝もあきらめきれず持ち出して、ピンク色の花を散らすサルスベリの手前の広場で立ち止まって鳴らしてみた。今日は朝から蒸し暑くて、鳥の声も気配もここにはなさそうである。それでもムキなって数回鳴らしてみると、緑道の向こうからこちらめがけてグングン何かが近づいて来る。
茶色のもっこりした柴犬にひっぱられて、メガネを掛けた年配のお父さんがやってくるのである。速足で、いや、もう駆け足で。

ん?お目当ては私の横に居る犬(N)なのか、それとも私の後方に何かがあるのかと振り返る。振り返ると、今度は後ろから白いマルチーズが、シマシマを来たお母さんをひっぱって、こちらは速足で近づいて来る。
挟み撃ちになったように前後から犬が近づいて来るので、バードコールは首にぶらんとさせたまま、お迎え体制に入る。うちのNは犬同士の挨拶が苦手なので、相手にご迷惑をかけないようにしなければならない。

両者(犬)が僅差で到着したので、「吠えるかもしれません~」と一声かけて犬同士のご挨拶に入った。柴犬もマルチーズも友好的に尻尾をぎゅんぎゅんと振っている。N目当てかと思いきや、芝もマルも鼻を空中にむけて何かを探しているようでもある。一体何をお探しか。

「聞こえた音に反応したみたいで、それに向かってぐいぐい来たのです。」
とメガネのお父さん。
「そうですね、何かキュキュって高い音が聞こえたのが気になったみたいで、うちの子も。」とシマシマのお母さん。

嗚呼...。
「す、すいません。鳥を呼ぶコレを鳴らしてたからですね。」と首から揺れるバードコールをお見せする。
お二人とも優しく、ニコニコと顛末を聞いてくださる。鳥は一向に興味をもたないのに、こうして犬は呼べましたねと笑ってくださった。
そういえば、私がキュキュとならしている間、うちのNも後ろ脚立ちで私にもたれかり、音の鳴る先を見上げてずっとそわそわしていたのだ。
しばらくして案の定うちのNが吠えだしたので、「ごめんなさい~」と一言お伝えしてその場を後にした。

ー犬が来るんだ、これ。
犬笛的な効果があるのだろうか。でも犬笛って人の耳に聞こえない領域の音じゃなかったっけ。
「そうなの?」と家路を急ぐうちのNに聞いてみたけどそしらぬ顔で返事はない。
私はというと、思わぬ効果に二度目のほくそ笑みである。

今後は使用場所を考えて、空と道とによく目を凝らして奏でる事にしよう。
バードコール 改め
私の特別な「バードックコール」である。

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