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制作余話#9「夢幻のワスプ」第1話編

前回はこちら
作品本編はこちらから

執筆した作品の振り返りや裏話を赤裸々に綴る制作余話。
今回はカクヨムにて新規投稿した「夢幻のワスプ」について語ります。
ネタバレあるから↑で本編を読んでね。

本作は「蜂」と呼ばれる女性のみで構成された殺人組織が人の夢に侵入して命を奪うという物語。蜂は「蜜」という人間の負の想念を素にして生まれる物質を集める為に人を殺していきます。そこには善悪はなく、淡々と狩りを行っていく。といっても負の想念が集まる人を彼女らは狙うので、基本的にはいわゆる悪人がターゲットになります。

蝉のお話を書いたかと思えば、次は蜂のお話。虫が好きかのように思われそうですが、実際はそんなに……。特に「ヴーン」という羽音を聞くと鳥肌が立ってしまうくらい苦手です。苦手だからこそ頭の中に残って作品のモチーフに用いられやすくなるのかも。

きっかけとか原動力の話

本作は悪趣味で陰鬱な作品だと自分でも思っています。同じくカクヨムにて連載中の『しずけさや』と対照的な作品にするつもりで書きました。「しずけさや」が明るいファンタジーで現実を動かす話なら、この作品は暗いファンタジーで現実を動かすお話といえます。徹底的に鬱展開にするのは楽だし嫌だし……って訳でハッピー寄りな結末にしていますが、救われたあの子も人を殺めることを生業として今後の人生を過ごしていくので実際はハッピーと言い難い結末なんですよね。

キャッチコピー「人の不幸は蜜の味」はこの作品の根源を表す言葉です。「ハッピーな話を書いているから不幸な話を書いてみようか」という思いつきから上の言葉が思い浮かんで、蜜といえば蜂だな……じゃあ蜂をイメージしたキャラクターを出そうと連想していきました。そして、好きな作家さんの影響で蜂=殺し屋のイメージがあったので、安直に殺人を生業とする組織の物語にしました。蜂のイメージや生態と親和性ありますし、設定についてはすぐ固まりました。
彼女らからどのような話を紡ぎ出すか、最初に考えたのは完全な勧善懲悪物(洒落ではない)でした。ただ、それだとドラマがない。必殺仕事人のような己の行いを悪だとわかっていながら巨悪を誅殺する展開も考えたけれども却下。最終的に善も悪もなくただ己の欲する物を求める中で、悪と呼ばれる存在が消えているという構図を採りました(この点をちゃんと描写できているかは微妙)。要するに「蜂」は災害とかに近い存在と捉えて頂ければ……。単純にスカッとする話は嫌だし、いじめの描写だけやたら濃厚でリアルななろう小説のような話もしっくりこなかった末にこうなりました。

あとは余談ですが、リアルでもネットでも目にしたくない嫌な物事が勝手に視界に飛び込んでくる今の世の中、それによって生じた良くない感情を処理したくて書き始めた作品でもあります。
ある漫画家さんは嫌いな人を自作の中でけちょんけちょんにして殺しているというネタが有名ですよね。そこまではしていませんが、この作品も私が見聞きした悪印象な人や物事に対して、脚色を加えつつちょっと感情をぶつけています。褒められることではありませんが、負の感情も作品を生む原動力になっていますってお話。こんなことをしていたらいつか夢に彼女らがやってくるかもしれませんね。

蜂達のお話

ダークな話だけどノリは軽く!と意識していたので冒頭から文体が軽いなと読み返していて思います。良い歳のおじさんが女子大生のノリを描く痛々しさよ(そんなことを言ったら世の創作物は……)。
それもあって作中では説明臭さをなるべく削っています(たぶんこれでも多い)。「巣」や「蜂」の設定周りについては基本的な部分だけ伝えれば良いかなと。「蜜」に関する描写も曖昧ですが、話の流れにそこまで深く関わるものでもないからカット。なのでここでは蜂の女王と第1話の主人公「606」について少しだけ補足的な話を。

まずは女王について。彼女の巣の蜂は一般的な家庭で育った子もいますが、特殊な環境で育った子が多いです。606もその一人。ワーカーと呼ばれる殺しの実行部隊を「娘」として扱っていますが、実際に養育したのは次代の女王(候補)である606のみです。今回の最後に606が迎えに行ったあの子は他のワーカーの手で養育されます。
元々はワーカーだったことが語られており、その実力は女王になってからも衰えていないことが作中の節々でうかがい知れます。明言はしませんが、ワーカーの思考や記憶を読み取っていると思しき場面も織り混ぜて「得体の知れない人」として描写しようと意識しました。性格は悟りきった穏やかな一面と欲しいものを必ず手に入れんとする苛烈な一面の二面性が同居していて、仏と鬼の双方をイメージしました。「しずけさや」の沙夜もそうだけど、こういう謎の超越系女キャラ好きだな、自分。
本作は主人公が変わる連作短編として執筆する予定なので、唯一の全編通じて登場する人物になると思います。今後、作中でもっとやばさを発揮してほしいなと作者は期待。

続いて606について。生みの母親から虐待を受け、何やかんやあって女王に育てられた女性です。年は20歳、高校卒業まで女王の間と巣の一室で生活し、大学入学を機に一人暮らしを始めています。戸籍とかその辺は女王が幼い彼女を引き取る際にチョメチョメしています。
彼女が好むものは過去と密接に関連しています。朝が好きなのはワーカーだった頃の女王と出会ったのが朝だったから。ご飯好きは巣に迎え入れられ、飢餓状態から処置を受けた後のおかゆがきっかけ。
グーでの殴打に不快感を覚え、平手打ちに劣情を催すのは彼女が無意識に「グーは本気だけどパーは愛がある」と認識していて、それが愛情を求める欲求と結びついているせいです。母親の暴力はまず体罰の尻叩きから始まり、この時はまだ教育として娘を思いやった一面を備えていたと彼女は認識しています(実際は加減されていただけ)。やがてエスカレートして大人の本気の力で殴られるようになった時、苦痛から精神を守る為に過去のまだマシな体験の印象をすり替えてしまい、それが時を経ても残り続けているという背景があります。複雑で重い……。作中でこの辺を語らせると設定語りが過ぎるので端折りました。

色々説明できていない事柄が残っていますが、それは追々作品で出していければ。第2話以降もその内投稿するので良ければ目を通してね!

「夢幻のワスプ」本編→こっち
他の小説とか→こっち


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