見出し画像

空港

小学三年生の頃から
お父さんが単身赴任で海外に行くようになった
会えるのは年に数回だった

お母さんの体が弱かったから家族で出かけたりはあまりしなかったけど
お父さんが帰ってくると普段は出来ない遊びができた 図書室にない新しい本を買ってくれた

多分この頃から
私は楽しい時間のことをいつか終わる時間だと思うようになった
1週間お父さんが帰ってきたとして
4日目にはもう寂しい

終わったあとのことを考えて寂しくなる
今この瞬間が一番大切なのに
公園で突然泣き出して
お父さんと妹を困らせた

大きな荷物を持って空港へ送りに行く
おじいちゃんの車に乗って
どうして別れる場所に向かわなきゃいけないんだろうって思ってた。
窓の外はずっと曇ってた気がする

空港に着いたときは残りの一緒に過ごせる時間を大事にしようと思って 精一杯楽しんだ
地元で買えない信玄餅を買ってもらって
マックで甘いものばかり頼むんだ
最後に展望台で写真を撮るんだ

お父さん
時計みないで。
ギリギリまでここにいて。
いつ?
次はいつ帰ってくるの?
約束が
約束が欲しい
私は
約束がないと生きていけない。
時間という大きな怪物に着ける首輪が必要なの。



空港は
ゲートを通ってから実際に搭乗するまでとても時間があり
その飛行機に乗るギリギリまで一緒にいられないシステムが憎かった

バイバイするとき
お父さんは決まって「お母さんと妹をよろしくね」と言った
私はちゃんと頷いて
泣くのは帰ってからにしてたよ

空港という
巨大でシステマチックでたくさんの人がいて
絶対に私ひとりじゃどうにも出来ないという
圧倒的な強さがそうさせた

私が寂しいと泣き喚くことは
周りの人を困らせ
空港で働く人を困らせ
飛行機の離陸を遅らせ
遠い異国の誰かを困らせるかもしれない
ちゃんとわかっていました。

家について私はお父さんが使ってた毛布を自分の部屋に持って行って
匂いを嗅ぎながら泣いていた



私は就職したら
上京するつもりでいる
妹や母を置いて
私は妹に「お母さんをよろしくね」と言うのだろうか
ここがいつか空港になるのだろうか
私の寂しさを克服しようとすれば
誰かの寂しさが増すのだろうか

人生の中にあといくつ空港のゲートがあるの?
あと何便飛行機が飛び立つの?

空港で出迎えたときのような幸福が
一生続けばいいのに。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?